2012年10月12日アーカイブ

2012年10月12日

岩手県山形村 「物語」 - 農舎とバッタリー

 

「物語が生まれる社会の豊かさ」 とは哲学者・内山節の言葉だが、

ここ岩手県久慈市山形町、僕らが今も言う 「山形村」 にも、

人の交流によって数々の物語が生まれた。

 

「食文化」 の専門家でもない自分が検討委員に推挙され、

自分の持っている最大限の知識とセンスで、できるだけ貢献したいと思って

吟味した結果、推薦した地域がふたつ。 

そして山形村が調査地域としてピックアップされた。

全国各地で模索されている地域活性化の取り組みに、

少しでもヒントになるものが提出できれば嬉しい。

 

10月11日、朝9時前に農水省の担当官がバス停に到着し、

昨夜山形村入りした調査員お二人とともに、村内を巡り始める。

 

久慈市山形支所で、山形村短角牛の概要をレクチャーしていただき、

最初に訪れたのは、第3セクター 「有限会社 総合農舎山形村」。

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短角牛をはじめとする地元一次産品の持続的な安定生産を支えるための加工施設として、

久慈市と新岩手農業協同組合、そして(株)大地を守る会の共同出資により

1994年に設立された (当初の出資者は、山形村、陸中農協、(株)大地牧場)。

 

設立されて18年が経ち、これまでに開発された加工品は150アイテムに上る。

従業員はパートタイマー含め32名。 すべて地元雇用である。

年間売上約2億円の半分は、働く村の人たちの給与と

地元生産者の収入(=農舎の仕入額) に落ちている格好だ。

 


到着して、工場長の木藤古(きとうご) 修一さんがイの一番に見せてくれたのが

これ、松茸!

「ようやくとれ始めましたよう。 1ヶ月遅れですかね~。 

 会員さんを待たせてしまっているようで、スミマセ~ン」 と頭を下げる。

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山形村を代表する山の幸。

まだ小ぶりだけど、これから順次発送が開始される。

農林水産大臣から頂いた認定証と一緒に記念撮影。

 

こちらは山ぶどう。 野村系と言われる品種で、粒が大きく糖度がある。

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山ぶどうの生産者は48人いるが、生産工程がきちんとトレースできる

3名と契約している。

大地を守る会の基準に基づいた生産を約束してくれた3名、という意味である。

 

その山ぶどうを原料に作られた、100%果汁とワイン。 

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山ぶどうワインは、イオンさんのブランド 「フード・アルチザン」 にも認定され、

11月にはお店に並ぶことになっている。

 

大地を守る会で独占しないのかって?

Non Non! ひとつの販売先に経営を依存してはいかんのです。

しっかりと自力で販路を開拓することが、地域に根を張る加工場としての

大切な自立戦略なのです。

というわけで、今年の春からは、

アレフさん (ハンバーガーレストラン「びっくりドンキー」を経営、宗教団体ではありません)

から委託された外販用ハンバーグの製造も始まっている。

こういう広がりがあるからこそ推薦もできるわけである。

 

こんな企画も用意されている。

11月9日、あの世界のトップソムリエ・田崎真也さんを招いての

山ぶどうサミットだと。

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もちろん山形村短角牛についても、

着実に消化する受け皿として機能している。

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写真右端が木藤古修一さん。

 

続いて向かったのは、修一さんのお父さんである

徳一郎さんが運営する 山村生活体験工房 「バッタリー村」。

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戸数5、人口18人、

国からの助成は一切受けてない日本一小さな村。

出迎えてくれたのはバッタリー村大使、山羊の 「とみー」 ちゃん。

女の子ですけど。 

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バッタリーとは、わずかな沢の流れを利用して石臼を搗いて、

雑穀を製粉したりする道具のこと。 立派な自然エネルギー技術である。

この村には、宿泊所 「創作館」 はじめ、炭焼き体験所、

炭焼き小屋を復元した「山村文化研究所」、

露天の五右衛門風呂 「徳の湯」 などがあり、

自然を活かした生活文化を体感しようと、毎年たくさんの人が訪れる。

まさにグリーンツーリズム立村。

 

今年は都市との交流30年を記念して、新たな公園が開設された。 

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公園といっても、どうも山の入口に看板を立てただけのように見える。 

う~む、逆転の発想か。

 

木藤古徳一郎村長。

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「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」 

宮沢賢治の 「農民芸術論綱要」 を村の精神として掲げる、誇り高き村長である。

僕の好きな一節は以下。

 

  いまやわれらは新たに正しき道を行き われらの美をば創らねばならぬ

  芸術をもてあの灰色の労働を燃せ

 

  ここにはわれら不断の潔く楽しい創造がある。

  都人よ来ってわれらに交われ 世界よ 他意なきわれらを容れよ

 

  なべての悩みをたきぎと燃やし なべての心を心とせよ

  風とゆききし 雲からエネルギーをとれ

 

  おお朋だちよ いっしょに正しい力を併せ われらすべての田園と

  われらすべての生活を ひとつの巨きな第四次元の芸術に創りあげようではないか

 

ちなみに、大地を守る会で販売する自家採種の野菜や地方品種のブランド名である

「とくたろうさん」 は、徳一郎さんのお父さんの名前から頂戴したものである。

じっくりと徳一郎さんの話を聞きたかったのだが、

今日のスケジュールはせわしない。

いよいよ短角牛へと向かう。

 

さらに続く。

 



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