エビ版「おコメ大百科」: 2007年9月アーカイブ

2007年9月25日

『この地球(ほし)と生きる 大地百選』 てどう?

 

エコ系の新しい雑誌が、また創刊された。

『自然力マガジン WATER』 。

「新しいエコロジーライフの時代へ-」 と謳い文句が付されている。

 

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発行元は(株)地球丸。

釣り関係の書籍や、雑誌 『夢の丸太小屋に暮らす』 『天然生活』 など

アウトドアやエコ的ライフスタイル系(とでも括らせていただく)の出版物を

多く出している版元である。

 

ここでは雑誌の宣伝をしたいわけではなく(しちゃってるけど)、

実は、我らが敬愛する米の生産者・千葉孝志さん(宮城県大崎市/旧田尻町)が、

その創刊号の冒頭のコラムに登場したので、紹介したくなったわけ。

 

いや実は、単なる紹介では終わらなくて、

ここで新たな試みを始めてみたい、と思うのである。


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「国内初! ラムサール条約に登録された田んぼ」

 

宮城県蕪栗沼(かぶくりぬま)。

世界で初めて、沼周辺の田んぼまで含めて、

水鳥の生息のための 「大切な湿地」 として世界的に認められた場所。

千葉さんはそこで米を作っている。

 

農薬は撒かない。

渡り鳥のために、冬も田んぼに水を張る冬季湛水(とうきたんすい。「冬水田んぼ」とも言う)

を実践している。

 

千葉さんは有機JASの認証も取得しているが、

「有機」の規格に適合したからすごいのではない。

 

本当に田んぼが好きで、生き物が好きな人の田んぼに、生き物はやってくる。

その生き物たちによって、田んぼもまた豊かになる。

 

生命のつながりによって私たちは生かされている。

そのことをはからずも実証している米づくり、なのだ。

 

僕はこれが

法律で縛られてしまった「有機」の規格を超えるひとつの道筋である、

と思っている。

 

雑誌では、

「千葉さんの田んぼには、生き物の気配が満ちている」

なんて書かれている。

 

   「もともとは水鳥のためにやったことでしたが、冬でも水を張っていることによって

   イトミミズなどの生物も増え、生態系がゆたかになるんですね。鳥の糞も肥料に

   なりますし。すると田んぼの生産力が強くなるわけです。そのことに気がついて

   からは、安全な無農薬の米づくりに拍車がかかりましたね」

   

   畦道を歩くと、カエルが一斉に田んぼに飛び込んだ。チョウが鮮やかな稲の上

   を舞う。千葉さんの田んぼには、生き物の気配が満ちている。自然循環型農業

   のひとつのかたちがここにあるようだった。

 

『WATER』 に刺激され、思い切って出したいと思う。

僕が密かに温めていた、こんな企画。

 

『この地球(ほし)と生きる、大地百選』

 

ちょっとクサいけど、このブログの中で、勝手にやるならいいよね。

 

渡り鳥が静かに体を休め、餌もたっぷりと用意してくれている田んぼ。

その鳥たちを優しく見つめ、彼らのためにビオトープを設ける。

いっぽうで餌となる虫たちも慈しみながら、米を作っている。

千葉さんの田んぼにやってくる渡り鳥は、

この地球(ガイア)の、かそけき生命連鎖の伝達者である。

 

僕は千葉さんが作った米と連帯したい。

ということで、

私が勝手に選ぶ 『この地球(ほし)と生きる、大地百選』 -登録第1号とする。

お許しいただきたい。

 

それにしても、

こんなに似たような雑誌がいっぱい出てきて、いいのか?

アウトサイダーとか反体制とか言われながら日陰者のように生きてきた者としては、

キレイなエコ雑誌乱立の現象は、バブルのようにも見えて少々気になるところである。

 

ま、時代の波でもあるだろうし、新たな層が掘り起こされることもある。

どちらでもいい。本物が残る、という覚悟でやりましょう。

 

<追伸-会員の方へ->

来週か再来週に配られる『だいちマガジン』10月号で、

千葉さんと蕪栗の田んぼを訪ねるツアーの案内があります。

日程は、11月23-24日。

田んぼや沼で憩う鳥の数のすごさは圧巻です。生命の賑わいを実感できるツアー。

たくさんの人の参加を待ってます。

 

≪注--雑誌『WATER』には大地宅配の広告も出稿もしているので、

 多少宣伝したい気持ちであることも、告白しておきます。

 個人的には、アラスカの自然や生物を撮り続けた写真家・故星野道夫の記事は、

 もっとページを割いて特集してほしかった。全体的にやや中途半端な感あり。≫

 



2007年9月 3日

「日照りに不作なし」 というけれど

 

夏の太平洋高気圧から、秋雨前線の到来へ。

季節は一気に秋に向かい始めましたね。

とはいえ、まだ残暑のぶり返しもあるようですので、

皆様、体調にはくれぐれもお気をつけください。

 

≪......と8月30日に書き出しながら、予定外の業務が入り、

 また31日には午後から福島に向かったもので、書き上げられず、

 9月に入ってしまいました。でもせっかくなので、続けます。≫

 

今年の8月は、観測史上「最も暑い夏」となったようです。

全国101の地点で最高気温が更新され、

東京での8月平均気温は29.0度。平年より2度近く高い、2番目の記録とのこと。

 

記録的な酷暑は、同時に「少雨の夏」でもありました。

都心の降水量は平年の5%(8.5mm)、千葉・館山ではわずか1mm(平年の0.8%)

といった数字が報道されています。

 

さて、お米の世界ではよく 「日照りに不作なし」 とか言われます。

干ばつ気味くらいの方が米はよくとれる、という意味です。

たしかに、7月の台風や日照不足にやられた九州をのぞき、

各地の米どころからは、「8月の暑さで持ち直した」 といった声が聞かれました。

まさに 「日照りに不作なし」 の年のようです。

 

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でもこの言葉は昔からあったものではありません。


「日照りに不作なし」と言われるようになったのは、

実は明治時代中期以降のようです。

明治政府が莫大な資金を投入して強力に生産基盤を整えた結果、

水利がよくなったから。

言い換えれば、日照りでも水を確保できる田んぼでの話、ということになります。

 

熱帯地方が原産の湿性作物である稲には、太陽の光と水が必要です。

(あらゆる生物に言えることではありますが-)

稲こそ高温多湿のアジア・モンスーン地帯が生んだ最高傑作だと思ってますが、

今の日本型の稲は、緯度の高さに適合させてきたものになっています。

 

稲の収穫量は、穂が出て花が咲いてから約40日間(登熟期)の日射量に比例します。

日射量が多いほど多収になるわけですが、

日本型での登熟期の平均気温は22~24度あたりが理想と言われています。

 

そこで開花日の最高気温が33~34度を超すと実のつき(稔実)具合が悪くなり、

35度以上になると急激に低下します。

冷害で起きる低温不稔と同じように、異常な高温でも不稔は発生するんですね。

 

また登熟期で高温が続くと、呼吸が活発になりすぎて、

モミ内のデン粉のつまりが悪くなり、減収や品質の低下につながります。

 

今年はこの登熟期、特にお盆以降にまで異常な暑さがかぶったわけです。

日射量(つまり日照り・乾期)は欲しいが、あまり高温でない方がいい。

特に昼夜の気温差がある方がいい。

 

平野部ではなかなかそう都合よくはいきませんが、

そこには長年の経験で作り上げてきた技術があります。

高温障害への対策に、水が使われるのです。

 

水田の水もただ貯めてあるだけでは、暑い日にはお風呂のようになってしまうので

(そうなると今度は 「高水温障害」 が出る)、

冷たい水を '流す' 、つまり水を引いては出す 「連続潅漑」 という方法をとります。

この夏、各地で出された高温障害への注意報でもこの言葉を何度か耳にしました。

 

水が豊富にある。しかもただ降って流れるのでなく、

しっかりと確保する装置と高い生産技術が、

私たちの食糧 (と環境も) を支えてくれています。

 

以前(7月10付「日本列島の血脈」)にも書きましたが、

数千年の時間をかけて築いてきた水路網の恩恵にも思いをはせつつ-

 

よい実りの秋であってほしいですね。

 

<追伸>

ちなみに7月10日の日記では、肝心の水路の総距離数を書いてませんでした。

<p>約40万kmです。これは地球10週分に相当します。

それだけの水路網がこの列島に張り巡らされ、食糧生産を支えている、

ということになります。

会員の方には、今週配布の「だいちMAGAZINE」9月号もご参照頂けると嬉しいです。

 



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