食・農・環境: 2009年6月アーカイブ

2009年6月23日

八百屋塾

 

6月21日(日)は、キャンドルナイトの前に、

午前中もうひとつの集まりに参加した。 

「八百屋塾」 という。

都内の八百屋さんたちが有志で結成した野菜の勉強会。

事務局は秋葉原の 「東京都青果物商業協同組合」 のビルの中にあり、

月一回開かれる勉強会もこのビルの会議室で行なわれる。

 

いつもは我が農産グループの職員が勉強がてら参加しているのだが、

今回はみんな都合が悪いとかいうので、自分が参加することにした。

まるでグループ長が一番ヒマみたいな話だけど、

一度出てみたいと思ってはいたのだ。

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今月のテーマは、茄子(ナス) 。

いろんな茄子とともに、時節柄、これから入荷が増えてくるハウスみかんなどが

部屋に並べられている。

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今回の参加者は約60人くらいか。

ほとんどが、八百屋で働く店主さんや店員さんだが、

スーパーのバイヤーさんや野菜ソムリエの女性なども参加しているようだ。

 

この塾を仕掛けたのは、野菜の先生の先生、八百屋の師匠

といわれた故・江澤正平さんである。

野菜の消費が減っているのは、野菜を売る連中が野菜を知らなくなったためだ。

見た目や値段や薄っぺらな栄養学知識だけで野菜を売るのでなく、

野菜ひとつひとつに秘められた文化や魅力、食べ方を語れなければならない。

量販店ではできない、街の八百屋こそ野菜の魅力を伝える使命がある。

江澤さんはよくそんなことを言っていた。

ここは江澤さんの遺志をついで勉強を続ける八百屋さんたちの集まりである。

 

八百屋塾実行委員長の杉本氏から、ナスについての講義が始まる。

 

野菜がどんどん画一化されているなかにあって、

ナスは各地に数多くの品種が残っている面白い野菜である。

ナスは大きく分けて長ナス、丸ナス、その中間の卵型ナスがあるが、

その他にも、青ナス、白ナス、ヨーロッパ・ナスがある。

ナスは1300~1400年前に中国から渡来した。

台湾から九州に入ったのは長ナス系統、朝鮮経由で東北に流れたのが丸ナス系統。

原産はインド東部からバングラデシュあたりで、したがって高温多湿を好む。

西洋にも流れたが、乾燥地帯では定着せず、アジアで品種が多様化しながら育ってきた。

まさにアジアの野菜なのである。

 

長ナスには、熊本の大長ナスや赤ナスがある。

大長ナスは皮が薄く、焼きナスに適している。 赤ナスも柔らかい。

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写真の左が赤ナス (品種名=肥後むらさき)、右が大長ナス (同=黒紫)。 

大長ナスは輪切りにしてドレッシングで食べる。

しかし棚持ちが悪いので、売るには気合いが必要だ。

フランスパンみたいに並べて、「何、これ?」 と聞かれたら、こっちの勝ち。

ホットプレートを置いて、オイル焼きして食べてもらえば、ゼッタイに買ってくれる。

 

丸ナスは、新潟の長岡と山形が品種の宝庫だ。 伝統ナスが残っている。

長岡にはナスを蒸す食文化がある。

梵天丸という品種があって、非常にウマい。

味噌炒めがいい、と言ってピーマンやパプリカも一緒に売ろう。

山形には伝統品種、固定種が残っている。 こういうのも売ってやりたいね。

 

奈良の大和丸ナスは、京都に流れて賀茂ナスになった。

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賀茂ナスは京野菜のブランドになったが、こっちのほうが断然ウマい。

 

泉州(大阪)の水ナスは浅漬け。

朝に漬けて夕方には漬け上がるので、店頭に出して食べてもらう。

 

今はまだハウスなので価格は高めだが、ナスは成り始めると止まらない。

" 親の意見とナスの花は無駄がない "

と言いますよね (すみません。知りませんでした)。

八百屋の腕の見せ所はこれからだってワケだ。

 

見た目だけで売っていては、いいものが来なくなる。

味が伝えられなくなる。

俺たちが卸しにプレシャーをかけないとだめなんだ。

関東の主流は皮の固い卵形。 これは黙っていても売れる。

もっと個性的な売り方を考えないと、こんなに魅力的な野菜を八百屋がダメにしてしまう。

 

・・・・・こんな感じで講義とやり取りが続く。

野菜が好きで、野菜をもっと食べてもらおうと勉強する八百屋さんがいる町は

かなり楽しいはずだ。 ただ有機についての知識はイマイチの感がした。

いつか、こういう人たちとも繋がっていきたいものだと思う。

 

後半は、食べ比べ。

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実は、僕はこれが苦手なのである。

匂い・肉質・味・総合評価、こういう感じで微妙な差異を表すのは難しい。

実際に参加者の感想も、全く逆の意見が出たりする。

きっと、それぞれの育った食環境の影響なのだろう。 それは自然なことである。

僕の今回の最高点は、山形の小ナスの塩もみ。

皮が柔らかく、シャキシャキ感があって香りもよく、美味しかった。

次は愛媛の絹皮ナスってのが印象に残った。

大和丸ナスが試食できなかったのが残念。

 

ハウスみかんについては割愛するが、ひとつだけ面白い質疑があった。

「みかんのワックスって何なんですか?」

「ワックスはワックスだろ。 ・・・油だよ。」

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写真を撮ってみたが、照り加減の違いがお分かりいただけるだろうか。

左がワックスがけしたもの。

これはフルーツワックスと言って、食品添加物である。

鮮度保持被膜剤とか、フルーツコーティング剤として、お菓子 (チョコレートなど) や

錠剤医薬品などのコーティングに使われているものである。

こういう知識だけは八百屋さんより詳しいというのも、

いびつな生き方をしているようで、なんだかヤだね。

 

みかんの皮自体にもワックス成分はあるのだが、

選果の過程で洗ったり、ブラッシングされて天然のワックスが剥がれ、

水分が蒸発して、瑞々しさが失われる。

八百屋さん曰く - ワックスがけしたミカンは萎びない。 しなびる前に傷むんだよね。

そんなレベルで終わっていいのか、と思うが。

 

大地のみかんはもちろんワックスがけなどしていないが、

それは一般市場出しのような作業を必要としないからでもある。

しかし選果は甘くなる。 この辺をちゃんと語る必要があるということか。

いろいろ考えさせられ、勉強になりました。

 

ま、それはそれとして、失礼ながら最後に興味を引いたのが、

このビルである。

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ヨドバシAkiba ビルにへばりつくように建っている。

このビルの中に全国中央市場青果卸協会や全国青果卸売市場協会の本部がある。

 

ここは1989年に太田市場ができるまで、神田青果市場があった場所である。

神田市場跡地とJA (旧国鉄) 所有地の再開発計画の過程では、

第2東京タワー建設の案も出たところだ。

そこにヨドバシカメラ進出の話が出て、電気街が騒然となったという歴史がある。

もしかしてこの建物は、地上げに一人で対抗する地権者のような

八百屋のたたかいがあったのではないか・・・・・

なんて勝手に物語を想像しながら、増上寺に向かうこととする。

今日は長い一日になるんだよね、雨なのに、とか思いつつ。

 



2009年6月12日

コモンズ -小さな出版社に伝統の賞

 

コモンズ」という名の出版社がある。

1996年創業で、12年間に発行した書籍は150点というから、

まだ若い小さな出版社である。

代表は大江正章さん。

コモンズを設立する前には 「学陽書房」 という出版社に勤めていて、

15年くらい前だったか、大地を守る会の歴史と活動をまとめた

『 いのちと暮らしを守る株式会社 』 を出版していただいた。

それ以来のお付き合いである。

コモンズの本は当会でも何点か販売してきたので、馴染みの方も多いかと思う。

 

そのコモンズが、「第24回梓会出版文化賞」 の特別賞を受賞した。

といっても出版業界に縁のない方には、ほとんど知られてないのではないかと推察する。

梓会は専門書系の出版社100数社で運営されている社団法人で、

「出版ダイジェスト」 という情報紙を発行している。

今でも気の利いた本屋さんでは無料で配布しているんじゃないかな (-ちょっと自信ない)。

その梓会が、文化的に価値のある出版活動を行なっている出版社を表彰するのが

「梓会出版文化賞」 というわけ。

作家や作品を表彰する賞はいくつもあるが、これは日本で唯一、出版社を表彰するものである。

綱渡り的な経営で生き延びている中小出版社にとって、この受賞は誉れなのだ。

 

ということで、昨日の夜、関係者が集まって、ささやかな祝賀会が開かれた。

秋葉原の居酒屋で、というのが、この人たちの日頃の生態を表しているように思う。

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参加者の多くは同業者たちだが、著者や市民運動関係者の顔もある。

環境・食・農・アジア・自治、をテーマに、腰をすえて一点一点大切に本を出してきた

大江さんの姿勢を尊敬する人たちだ。 

みんなで大江さんを称える。

同種の出版活動を行なっている人たちにとっても嬉しいことであり、

かつ相当な励みになったようだ。

 

大江正章。

編集者でありながら、古くから有機農業運動に関わり、

自らも茨城県八郷町で田んぼを耕している。

昨年自ら著した岩波新書の 『地域の力』 がけっこう売れていて、

講演依頼も増えていると聞く。

照れ屋のくせに、喋りだすと意外と饒舌で、熱い男である。

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彼と僕とは同世代で、学部は違うが同じ大学出身で、

何と、かなりご近所に下宿していたことが、昨日飲んでいて初めて判明した。

西早稲田の、神田川にかかる面影橋の近くの、あの銭湯、あの質屋・・・・・

分かる、分かる、エビちゃんがいた下宿屋、ほぼ分かる。

あの運動、あの集会・・・・・え? エビちゃんは〇〇派だったの?

いや、周りはそう思っていたようだけど、俺はただ学生の自治を守ろうとしただけだ。

そんな話で盛り上がる。

すみません、ワタクシ事でした。

 

大江さんが皆さんに僕を紹介してくれる。

「この人が、かつて 『大地を守る出版社の会』 をつくったエビちゃんです。」

すっかり忘れていた。 そうだ、そんな会をつくったことがあった。

大地も伸び盛りになって、いろんな出版社の営業を受けるようになって、

僕はただ良書を紹介して売る、というのが面白くなくて、

あるとき、出版社の方々に集まってもらって、

" 同じ思いを持った出版社であることを表現したい "  という提案をしたのだった。

今はもう取引先の数はそれどころではなく、時代も変わったけど、

「大地を守る出版社の会」 が、大江さんにとっての戎谷であることに、

僕は絶句し、静かに反省した。

 

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大江さんにエールを送っているのは、『大地を守る手帖』 を出していただいた、

築地書館の土井二郎さん。 一昨年の宇根豊さんの集まりで会って以来か。

「手帳ではお世話になりました。 けっこう (制作上) 厄介な注文だったんじゃないですか」

「いや、それはプロですから。 それに苦労したのは印刷・製本屋さんですから。

 それより、あの手帳で使った写真。 何点か大胆なのがあって気になりましたけど、

 会員さんからハレーションは起きなかったですか?」

さすが編集者である。

「ありましたよ。 違和感を感じた方からは強い拒絶反応を頂きました。

 ただあの手帳のコンセプトに統一感を持たせる以上、我々の既成感覚では手を入れない、

 ということに担当は徹したようです。 僕らの感覚であれやこれやと切り刻むと、

 本来の狙いも成果の検証も不透明になってしまうことが過去には随分とあってね。

 これも挑戦だと思ってます。 不愉快な思いをさせてしまった方には申し訳ないですが。」

隣で聞いていた女性のライターの方が、そこらへんは本当に難しいところですね、

と相槌を売ってくれて、ちょっと救われる。

 

あ、また脱線してしまった。

脱線ついでに言うと、僕は大地を守る会に就職する前は、

実はこの業界、しかも同じようにこだわりだけは強い弱小出版社にいたもんで、

いろんな人と懐かしい昔話などもできたのだった。

 

業界内では 「本が売れない」 というのが挨拶代わりなんだそうだ。

しかしそんな話は、僕がいた時からあった。

実際には、膨大な量の新刊本が発行されて、あっという間に消えてゆく様を見ていると、

「売れない本」 を作りすぎる、というほうが真実だろう。

そこには出版流通業界の危険な商慣習に依存する体質も見え隠れしている。

その洪水の中で、本当に読みたい本は駅前の本屋さんにはなかったりする。

その辺が課題だと、僕がいた頃も言われていた。

四半世紀経っても、何だかあまり変わってないようだ。

いや、それでもこいつら生き延びているんだからスゴイ、とも言える。

 

ここに来た人たちのつくった本が続々と売れていくような現象が生まれたら、

それはそれで怖い社会のような気もするしね。

だから大江さん、および志を同じくする皆さん。

貧しく、粘り強く、信念に従って、頑張ってください。

引き続き (できる範囲で) 応援しますので。

貧しい仲間同士で意地を張って生きていくのは、楽しい。 また飲みましょう。

 



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