食・農・環境: 2007年10月アーカイブ

2007年10月17日

全国水産物生産者会議(後編)-干潟をイメージする

 

講演のあとは、海洋大学・川辺みどり先生の音頭で、

藻場・干潟をテーマとしたワークショップ。

 

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参加者が少人数のテーブルに別れて、4つのお題に挑戦する。

 

  ①藻場・干潟と聞いて、何をイメージしますか?

  ②沿岸漁業は、浜(藻場・干潟)の環境保全にどんな役割を担っていると思いますか?

  ③沿岸漁業者が、藻場・干潟の保全や再生を行なうことによって、

   どんな社会的効果が生まれると思いますか?

  ④政府が沿岸漁業者の藻場・干潟保全活動に対して交付金を払うことについて

   どう思われますか?

 

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 各自、思いついたイメージを言葉にし、ポストイットに書いて、解説する。

そこから派生して感じたことを、また書き、発表する。

 

ルールは、

まずポストイットに自分の意見を書いて、テーブルに広げられた模造紙に貼ってから、

自分の意見を言うこと。人の言うことをちゃんと聞くこと(途中で口を挟まない)。

他の人の批判(それは違う)ではなく、自分の意見(こう思う)を書くこと。

 

新しい気づきがあったり、他者との違いに驚いたりしながら、

想像力が広がり、いつのまにか理解が深まる。

 

正解や結論を求めるわけではなく、人の話を聞きながら、

自分の思いや考えを言葉に変えることで、


漠としていた理解が整理されてゆく。

 

私が司会をしたテーブルで、なかなか言葉がまとまらなくて

カードが出なかった若い方に、最後に感想を求めた。

 

  今までほとんど考えてもいなかった干潟という存在が、

  とても大切な場所なんだということを、だんだんと感じてきて、

  すごく理解が進んだような気がした。

 

この手法って、もしかして 「非暴力トレーニング」 が原点ではないだろうか-

ふとそんな気がした。

 

川辺さんも、特に内容に対して講評はせず、

「皆さんの意見はとても貴重で、いま水産庁中心に検討されている、

 環境・生態系保全支援調査・実証委託事業検討委員会のほうでも

 役立たせていただきます」 と締めた。

 

大の大人が、しかも普段威勢のいい水産生産者が、

以外に素直に思いや意見を書き、語ったのが、印象的であった。

 

自分の考えや理解を優しく深めるだけでなく、

コミュニケーションの力を確かめ合う時間でもあったように思う。

 

少しは教条的じゃない伝え方ができるようになったか -その辺は短時間じゃね。

でもヒントはもらったような気はしたのだった。

 



2007年10月16日

水産物生産者会議(前編)-海のエコラベルの可能性

 

さて続いては、10月13日(土)、成清さんを偲ぶ会の前に開かれた、

『第17回全国水産物生産者会議』 をレポートする。

 

大地に水産物(加工品含む)を出荷して頂いている漁業者・メーカー・卸し関係者が

年に一度集まって、
各種の視察や研修、情報交換などを行なう会議。

毎年各地の生産地で開催してきて、もう17回目になる。

 

今回は、ビシッとお勉強の日、とします。

ということで、ちょっとシニア大学といった感もあるが、学問の府に集まっていただく。

 

場所は、東京・品川にある東京海洋大学。


昔の水産大学と商船大学が合併してできた国立大学である。

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テーマは、
「MSC認証」-持続可能な漁業・水産物供給の促進について-


「MSC」とは、
MARINE STEWARDSHIP COUNCIL (海洋管理協議会) の略。

 

漁業資源の乱獲を防ぎ、持続可能な漁業の推進を目指して、


1997年に設立された国際的非営利組織。本部はイギリスにある。

 

どんな活動をしているのか-については、

要するに、まぁ・・・まずは下記の講演スライドを見ていただきましょうか。

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要するに、まあ、

持続可能な水産業を保護・発展させるために、

ちゃんとした基準に則って、

海洋資源を適切に保全・管理する漁業(あるいは加工・流通)を認証して、

独自のラベルを貼って推奨してゆこう、というもの。

 

MSCは、いま世界で唯一の水産物に対する第三者認証機関である。

(ちなみに講師はMSC日本事務局プログラムディレクター・石井幸造氏)

 

言わば 『海のエコ・ラベル』 である。

少しずつではあるが、世界の各地で広がっていて、

日本でも取り扱い店や団体も増えている。

 

今回はまず、その概略を理解すること。

そして、こういう取り組みが求められてきていることに対して、

それぞれどんなふうに考え、自分たちの仕事や経営に生かすか、を考えていただく。

 

そこでもう一人、日本初のMSC認証を取得された築地の仲卸しさん、

(株)亀和商店の代表・和田一彦さんにも登場願った。

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和田さんのMSC認証取得は、かの長寿漫画 『美味しんぼ』 でも紹介された。

いま大地とは、昨年5月に日本最初のMSC認証製品となった、

アラスカの天然キングサーモンの話が進んでいる。

 

3人乗りトロール釣り漁船で、一本ごとに釣り上げたサーモン。

素晴しい話、ではある。

 

しかし、国内漁業や近隣での話となると、コトはそう簡単ではない 。

(なんか、いつもこんな話の展開のような気がする...)

 

資源が枯渇に向かえば向かうほど、やまないのは乱獲だ。

あるいは汚染は、海の向こうから (手前から?) やってくる。

 

これらの問題が厳然と残る限り、

一人で頑張って認証を取得しても、空しくなるばかりではないか-

実に素朴な疑問であり、これこそ漁業者の目の前にある最も厳しい現実だとも言える。

 

自身の努力と技術次第で認証が可能な有機JAS規格とは異なる世界が、

海にはある。なんたって相手は、漁業資源なのだ。

 

MSCの基準-「持続可能な漁業のための原則と基準」 は

FAO (国連食糧農業機関) が2005年に採用した 「水産物エコラベルのガイドライン

に則っている。

この基準と、認証と、漁業者の経営(生活)が上手にリンクするには、

国の規制制度ともちゃんとつながらなければうまくいかない気がするし、

かつ地域的 (あるいは海域的・国際的) 取り組みを支援する仕組みも必要だろう。

 

そして問題解決の鍵を握る 「消費行動」 に、どうアプローチするか。

あるいはどういうコミュニケーションをとるか、とれるのか。

そのために何が必要か・・・霧の向こうに目を凝らして、考えよう。

 

あらゆるジャンルで認証が花盛りとなった時代。

それだけ不安な世の中とも言えるけど、

根本的には生産と消費がうまくつながってないことの証左であって、

特別なマークに寄りかかっても、上手くはいかないのだ。

基準の精神が社会のスタンダードにならなければ・・・

 

ともかくもまずは、

和田さんが多大な手間とお金をかけて先鞭をつけた、

漁師の顔が見える 『MSC認定-天然キングサーモン』 から、

我々は何を語れるか、を大事に追求してみたいと思う。

もちろん、目の前の海を見つめながら。

 



2007年10月 4日

『地球大学』 -地球の水はどうなるのか?

 

東京は大手町、都心のビル街のどまん中に、環境を意識してつくられたカフェがある。

 

「大手町カフェ」

 

そこで毎週水曜日の夜、刺激的なセミナーが開かれている。

カフェで学ぶ地球環境セミナー 『地球大学』。

 

文化人類学者の竹村真一さん(京都造形芸術大学教授)がホストとなって、

毎回多彩なゲストをお呼びしては、様々な角度から環境問題を切り取っている。

 

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開講したのは去年の春。

大地から薦(こも)かぶり(酒樽)を持参して、種蒔人で鏡開きをした。

それに先立つ一昨年暮れのプレ・イベントでは、

日本の気候風土における田んぼの役割について話をさせていただいている。

 

昨年10月には 「食」 について考えるシリーズが組まれ、

私も話す機会をいただき、

またその期間、フードマイレージをテーマに大地の食材でのお弁当を販売した。

 

その後もちょくちょく聴講させていただいてたのだが、

最近はなかなか出られないでいた。

 

さて、昨日(10/3)、外出したついでに、久しぶりに顔を出してみた。

 

テーマは、『地球の水はどうなるのか?-「水の世紀」にむけて』

講師は、東京大学・生産技術研究所教授の沖大幹さん。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)報告書の水問題に関する執筆者、

水循環の権威である。


いま世界人口の5分の1が、安全な水にアクセスできないでいる。

年間300~400万人が、水に関連した病気で死んでいる。そのほとんどが乳幼児である。

 

世界中での過度な取水は、生態系へのダメージを増大させている。

温暖化や都市化の進行は、各地に渇水と洪水被害の深刻化をもたらしている。

 

水というのは循環資源であって、失われることはない。

ふんだんにあるのだ。しかし水不足は生じる。

ある時とない時があるから。

 

また、'ふんだんにある'といっても、

実際にヒトが使える水は地球上の水の0.01~0.02%でしかない。

 

'水資源を使う' とは、'流れを使うこと' だと沖さんは説明する。

ストックではなくフローである。

 

雨が落ち、川を辿って海に流れ、あるいは湖沼にとどまり、地下にしみこみ、

気温変化とともに蒸発し、植物の蒸発散も含めて大気を上昇し、雲になり、

また雨となって落ちてくる。あるいは氷となってしばし落ち着く。

そんな'流れ'として存在する水という資源。

人間の体内も循環している。生命活動に欠かせない'水'というやつ。

 

つまり、水の循環(流れ)を絶やすことなく、また汚さないようにしながら、

どう使い、暮らすか、ということなのだが、

人口増加と工業の飽くなき発展は、水需要を大きく変化させ、

いまや大河も干上がる様相である。

また膨れ上がるいびつな食料需要は、世界の肺・アマゾンさえ切り崩している。

 

温暖化によって想定されるシナリオのひとつは、

同じ地域で渇水と洪水の頻度がともに上昇する、というものだ。

いずれにしても水はヒトの手の中にはなく、今世紀、水ストレスは間違いなく増大する。

 

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さて、沖さんは「バーチャルウォーター」の権威でもある。

よく使われるものでは、牛丼一杯あたりの水消費量は約2000ℓ、というやつだ。

牛を育てるのに消費される水、餌を作るのに必要な水、などを計算すると、

牛丼一杯つくるのに、1ℓペットボトル2000本分の水が使われている。

 

日本の食糧の総輸入量は水に換算して年間640億㎥だと。

国内での農業用水の使用量は570億㎥。

 

これを僕らは、「水を奪っている」と表現したりするが、

沖さんはこう考える。

 

水をある所からない所まで長距離輸送させるのは、経済的にもエネルギー的にも合わない。

だから、水を使って作られたものを送るのを、悪と決め付けてはいけない。

必要とされる水が、モノに代わって運ばれてきているということを理解する

その指標として提示されたのが、「バーチャルウォーター」である。

 

アメリカ産牛肉を使った牛丼の向こうに、膨大な水消費があって、

しかも数値で示されることによって、ある種のリアリティをもって現実を感じることができる。

この手法は説得力がある。

 

そこから簡単に善悪を決め付けるのも、たしかに戒めなければならないことだ。

しかし、沖さんなら当然ご存知のはずだが、

日本では、米の国内生産量以上の食糧が、ゴミとなって捨てられているのだ。

やっぱり、どうしても僕には、「奪っている」指標になってしまう。

 

沖さんは、食べものに水資源消費量を表示したらどうか、と提案する。

  牛丼:1890L  ハンバーガー:2020L

  立ち食いそば:750L  讃岐うどん:120L

 

面白い。フードマイレージと組み合わせてはどうだろうか。

 

最後に、沖さんはひとつの期待を語った。

 

グローバリズムが進むことによって、技術移転が進み、人口調節も進めば、

水ストレスは緩むだろう・・・

 

しかし、これはあまりにも楽観、というか現実認識が僕とは異なる。

グローバリズムが国家間の均衡をもたらす-とは、私には思えない。

もっと話を聞いてみたかったが、まあ、また機会もあるか。

 

いずれにしても、それぞれの分野で最前線にいる方々の話が

ドリンク付1000円で、身近に聞ける。

こういう場は他にそうないと思う。

 

『地球大学』はすでに68回を数え、

来週からは、開催曜日が木曜に変わり、シリーズ「森林」が始まる。

 



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