産地情報: 2012年7月アーカイブ

2012年7月19日

郷酒

 

 - と書いて、「さとざけ」 と読む。

初めて聞いた、という方も多いことと思う。

それもそのはず、これは最近生まれた言葉である。

全国各地に点在する36の小さな蔵が集まって活動する

日本地酒協同組合」 が新たにつくった造語。

 

「郷酒(さとざけ)」 は 「地酒(じざけ)」 とは違う。

「地酒」 とは、その土地で造られた地の酒という意味だけど、

特に原料までは規定していない。

それに対して 「郷酒」 とは、原料である米からして地元で栽培したお酒、

というこだわりを表現したもので (もちろん仕込み水も)、

長年、日本地酒協同組合を引っ張ってきた元理事長(現在は専務理事) である

大和川酒造店代表・佐藤弥右衛門さんは、

「これからは、この言葉を広めていきたい」 と目論んでいる。

 

実は 「地酒」 という言葉も、知られていない各地の銘酒に光を当てようと、

日本地酒協同組合が 「全国地酒頒布会」 を催してから広まっていったものと聞いている。

で、これからは 「地酒」 じゃなく 「郷酒」 だと?

そう。

何を隠そう、その 「郷酒」 をもって全国新酒鑑評会2年連続金賞受賞

という栄冠を勝ち取った蔵こそ、

会津・喜多方の 「大和川酒造店」 に他ならない。

 

というわけで昨夜(7月18日)、

大和川酒造の2年連続金賞受賞を祝って、

「郷酒(さとざけ) を楽しむ会」 なる催しが開かれたのだった。

場所は池袋・東武百貨店バンケットホール。

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全国新酒鑑評会に出品するお酒の多くは酒造好適米 「山田錦」 で造られている、

という話は日本酒愛好家の間では常識である。 

山田錦の産地は兵庫県で、蔵の腕を競う鑑評会のために多くの蔵は、

その山田錦を兵庫県から仕入れている。

 

この風潮に敢然と立ち向かったのが、大和川酒造店だった。

地元の米を使ってこそ地酒屋であろう、という意地と誇りをかけて、

自社保有の田んぼで山田錦の栽培に挑んだのだ。

暖地の米である山田錦を雪深い会津で育てる。 これは暴挙に等しかった。

雪の中で稲刈りをやった話など、何度となく聞かされたものだ。

しかし苦節13年、今や自社農場 「大和川ファーム」 は

酒造好適米の横綱 「山田錦」 栽培の北限地と言われ、

そして2年連続の金賞、という栄誉をゲットしたのである。

 

お祝いに駆けつけた応援団を前に挨拶に立つ九代目・佐藤弥右衛門さん。

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右が工場長&杜氏を務める弟の和典さん。

左が大和川ファームの責任者、磯辺英世さん。

 

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集まった酒客たち。 

 

次世代も育ってきた。

長男の雅一さん。 右が次男の哲野(てつや) さん。 

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去年のパーティ は、震災と原発事故もあって感動もひとしおだった。

今年はだいぶ落ち着いた趣になったけど、 

復興はまだまだ終わっていない。

 

九代目弥右衛門の宣言。

「福島はこれから、食だけでなくエネルギーでも自給率100%を目指す!」

 

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おめでとうございました。

これからも共に-

 



2012年7月11日

耕し続けたい! の思いを込めた野菜セットを

 

番組の途中ですが、お知らせを一つ。

 

宅配会員の方々には今週のカタログと一緒にチラシが入っているかと思いますが、

僕の所属する専門委員会 「米プロジェクト21」 からの応援企画である

『 ~里山の有機農業とつながる~

 会津・山都の若者たちの野菜セット』 も、

早いもので5年目のご案内となりました。

 

このセットをつくるのに結成された 「あいづ耕人会たべらんしょ」 を代表して、

浅見彰宏さんからメッセージが届けられたので、

ここでもぜひ紹介させていただきたいのです。

 

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 ( 「たべらんしょ」 のメンバーたち。

  後ろ左から二人目、愛犬を抱いているのが浅見彰宏さん。)

 

今年は3月11日に最初の種を播きました。

まだ辺りには 1m もの雪の残る中、鎮魂と希望の思いを込めた種蒔きでした。

その野菜たちも気温の上昇とともにぐんぐん育ち、

間もなく収穫の時を迎えます。

 


昨年の今頃、私たちは不安の中にいました。

未曾有の放射能漏れ事故で、一体これからどうなっていくのか。

会津での放射能の影響はどれくらいなのか。

福島で農業が続けられるのだろうか。

不安を払拭するために、

そして今まで通り安心な農産物を作り続けることができるのか

確認するために、収穫のたびに野菜を検査に出しました。

そしてうれしいことに、放射能が検出されることはありませんでした。

 

風向きの影響で、喜多方市山都町での放射能の降下はわずかに留まりました。

しかしその偶然の上に胡坐をかいていくわけにはいきません。

と同時に有機農業の基本である土づくりや循環を

断ち切ることもしたくはありません。

ゆえに今年は農産物だけでなく、田畑に投入する堆肥やぼかし、

米糠、鶏糞などの有機質肥料も放射能検査をしています。

これ以上の放射能の蓄積や拡散を防ぐため、

そしてこれからも会津で安心な農産物を生産し続けるために。

 

一方で残念ながら福島全体では、農業はますます苦境に立たされています。

昨年の混乱の中、多くの農民や研究者の努力や検証の結果、

会津だけでなく中通りや浜通りでも放射能の作物への移行は

予想以上に少ないことが判りました。 そのメカニズムも判りつつあります。

福島の豊かな土壌は、降下した放射性物質の多くを土中に吸着させ、

農作物への移行を防いだのです。

 

しかし放射能は土壌だけでなく、農家の心にも大きな影を落としました。

先祖伝来の土地で耕し続けることはおろか、住む所さえ奪われた人たち。

土地を耕し作物を育てたことをなじられ、

被害者がまるで加害者のように言われたこと。

真摯にデータを取り、公表することが一部の人には理解されないこと。

そしてこの春には

県内の一部の地域では新たな作付禁止、制限指示も出されました。

誰かのせいで勝手に降り注いだ放射能を、

農家自身が骨を折って除染しなければならないという現実。

その厳しさを前にあきらめという気持ちが広がっています。

あれだけ美しかった福島の豊かな農村風景が、

まるで櫛の歯が抜けるように、壊れ始めています。

それはただ農地が荒れていくだけではありません。

地域社会が壊れ始めているのです。

 

だからこそ、今までと同じように農業と向き合え

土に触れることができる有難さを、

私たち 「あいづ耕人会たべらんしょ」 は昨年よりも増して感じます。

そしてこの幸運に感謝し、耕せる以上は、

できなくなってしまった人たちの思いも込めて耕し続けなければなりません。

 

今年も山都町にはたくさんの新規就農希望者が集まってきてくれました。

彼らも近い将来、福島の代弁者・後継者にきっとなってくれるはずです。

そんな私たちの思いも一緒に、

野菜セットを味わっていただければうれしいです。

 

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山都(やまと) という美しい名の中山間地の村で、

有機農業に挑む若者たちと出会って5年になる。

つないでくれたのは、

米の生産者・稲田稲作研究会や蔵元・大和川酒造店と一緒に開発した

純米酒 「種蒔人(たねまきびと)」 だった。

山都に入植し、冬は酒蔵で働く浅見さんと出会い、

当地で有機農業を実践・指導する 「チャルジョウ農場」 の

小川光・未明(みはる)父子とつながり、

そこで鍛えられた若者たちによる野菜セットが初めて届いたのが、

4年前の秋のこと。

以来、少しずつでも継続できる喜びを、彼らとともに噛みしめてきた。

 

原発事故と放射能汚染という過酷な事態を経験しながらも、

ここ山都には、有機農業を目指す若者が途絶えることなくやってくる。

彼らはやがて里山や水系を守る柱となってくれることだろう。

未来への希望を捨てない、未来を信じる若者たちが育てた野菜。

彼らが守ろうとしている会津の伝統品種も、さりげなく入ってくるはず。

 

一人でも多くの人に食べてほしい!

今年はホントに、ホントに、そう思うのであります。

 



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