産地情報: 2014年3月アーカイブ

2014年3月16日

99 %の革命を -さんぶ野菜ネットワーク総会から

 

14日(金)は、千葉・成田の某ホテルで行なわれた

「さんぶ野菜ネットワーク」 の総会に出席した。

 

行けば、あの日と同じ会場である。 3 年前の 3 月 11日。

会議の途中から大揺れに揺れ始め、外に避難させられ、

ロビーの TV 大画面からは

家屋やハウスを呑み込んでいく津波の映像が映し出され、

携帯はつながらず、外国人客はインターネット・コーナーに殺到し、

日本人は公衆電話に長蛇の列を作り、さんぶ野菜ネットの総会も流れた。。。

自然と 「思い出すねぇ」 の会話になる。


e14031601.JPG


何も変わってないかのように、総会は進行する。

でもみんなの心の中には、それぞれに微妙な 3 年の変遷がある。

それを受け止めて生きているかが、僕らに問われている。



事業報告や決算報告、活動計画に事業予算など

予定の議事が淡々と処理され、

新しく加入した組合員と研修生が紹介された。

これから有機農業を目指す若者たち。 

のセレモニーの意味は、けっして小さくない。


e14031602.JPG


僕らは取引先のオブザーバーなので拍手するのみだが、

毎年々々取引先を招いて総会を開く生産団体は他にない。

立派なもんだと思う。


今年は例年以上に平穏に終了し、記念講演に移る。

講師は東京大学大学院農学部教授、鈴木宣弘さん。

元農林水産省国際部で農産物貿易交渉などにあたった経歴がある。

反 TPP (環太平洋連携協定) の論客である。

e14031603.JPG


講演タイトルは、

「日本の食と地域の未来を拓く -強い農業への道-」。


鈴木さんはのっけっから、

今のこの国は 「今だけ、金だけ、自分だけ」 しか見ていない人たちによって

将来を危うくされている、と喝破した。 

このままでは日本は崩壊する、と。


  TPP 交渉はなかなか合意形成に至らず、

  まとまらないのでは、という楽観論も出てきたが、予断は許さない。 

  また農産物交渉で日本が譲らないから合意できないのだ、という

  日本農業悪玉論も間違っている。

  問題は米国からの一方的な要求に各国が警戒し、応じない姿勢を強めていることだ。

  ベトナムやマレーシアやオーストラリアが何に反発しているのか、

  日本はちゃんと分析する必要がある。


  日本はすでに、軽自動車の税金引き上げや医薬品の価格引き上げ、

  がん保険の取り扱い(全国の郵便局で米国保険会社のがん保険を売り始めたこと)、

  BSE の輸入条件緩和、ISDS(投資家対国家紛争処理) 条項などで譲歩を続け、

  国会決議で約束した国益保護を放棄してきている。

  「聖域は守る」 「食の安全基準は守る」 と国民の前では標榜しつつ、

  その実、アメリカの要求に屈している、というより

  進んで 「追加払い」 しているのが現状である。

  この先も、GM(遺伝子組み換え) 食品の拡大や食品添加物基準の緩和、

  「表示制度」 への変更圧力が懸念される。

  世界に冠たる国民皆保険制度も危うい。


  ノーベル経済学賞を受賞したスティッグリッツ教授は言っている。

  「TPP は、1 %の人口で米国の富の 40 %を握る巨大企業の

    " 1 %の、1 %による、1 %のための "  協定である。」

  失うものが最大で得るものが最少という史上最悪の選択肢、それが TPP だ。

  食糧自給率は 20 %前後まで落ち込み(農水省試算)、

  医療は崩壊し、雇用も減り、しかし得られる利益は

  アジア中心のどの FTA (自由貿易協定) よりも小さい(内閣府試算)。


  「1.5 %の一次産業の GDP (国内総生産) を守るために 98.5 %を犠牲にするのか」

  と言い放った民主党の大物政治家がいた。

  しかし、「たとえ 1.5 %だとしても、それが 100 %の消費者を支えている」。

  これは日本人による反論ではない。

  アメリカの NPO 「パブリックシティズン」、ローリー・ワラック氏の言葉である。

  しかも一次産業は食料だけではない、国土や領土を守るものでもある。

  尖閣諸島にも昔は日本人が住んでいて、漁業という産業が存在していたことを

  忘れてはならない。


  自分たちの食は、自分たちで守らなければならない。

  食に安さだけを追求することは、命を削り、次世代に負担を強いることだ。

  1 個 80 円の卵を買って、

  「 これを買うことで、農家の皆さんの生活が支えられる。

   そのおかげで私たちの生活が成り立つのだから当たり前でしょ」

  といとも簡単に答えたのは、スイスの小学生の女の子だった。

  スイスでここまで国民意識が育つには、生産と消費が連携した

  長く地道な努力があったからである。

  日本でも  " やればできる "  ことではないだろうか。


  アジア主導の、柔軟で互恵的な経済連携が、世界の均衡ある発展につながる。

  今こそ冷静な判断をしたい。

  「1 %のための経済学、1 %のためのマスコミ」 ではなく、

  「99 %のための経済学、99 %のためのマスコミ」 に転換させよう。

  「99 %の革命」 を起こす時である!


いや、なかなかに熱い講演だった。

99 %の革命。 鍵を握るのは、世界を変えるのは女性の力だろう、

と鈴木教授は結んだのだった。


夜は懇親会。

鈴木さんと同じテーブルの席を指定されていたので、

いろいろと突っ込んでみたいと思ったのだが、

残念ながら鈴木さんは、次の予定があるとかで帰られた。

またの機会とするか。


懇親会の途中で、組合員の表彰式。

今年、最高の出荷伸び率を果たした人。

特定の作物で一番出荷量の多かった人、などが表彰された。


e14031604.JPG


「いや、伸び率といっても分母が小さいんで・・・」 とはにかむ生産者。

どうも、年によって表彰する項目が違うようである。

みんなで励まし合い、伸ばし合っているのだろう。

拍手。


最後に、締めの挨拶を求められた。

何を喋ったんだったか、、、

鈴木講演の、明日からの我々にとってのポイントは何か、

を僕なりに整理したつもりだったのだが、ヤバい、正確に思い出せない。

帰り際に一人の生産者から、

「そういうことなんですよね。 一番良く分かりました」

と言ってくれたことで良しとしたい。




2014年3月13日

農地除染から地域の再生へ-語り続ける伊藤俊彦

 

3月11日夕方、オーストラリアからやってきた

IFOAM (International Federation of Organic Agriculture Movements、

アイフォーム:国際有機農業運動連盟) 理事長、アンドレ・ロイ氏ご一行と

須賀川駅で合流。

夜は、ジェイラップ代表・伊藤俊彦さんが気を利かして手配してくれた

豆腐の懐石料理を楽しんでもらう。 

e14031201.JPG

 

過去何度か来日経験のあるロイ氏。

和食は大好きだそうで、昨日は納豆も食べたそうである。 

四国出身のワタクシが慣れるのに十数年かかったあの醗酵食品を!

 

昨年12月、「和食」 がユネスコの無形文化遺産に登録された

風土と人の技で磨き上げてきた絶妙なバランスと美、

しつらえとおもてなしの心が失われつつあると言われる中で、

世界の人々が注目し絶賛しているというのも皮肉な話である。

「日本人の心のやさしさは日本食にあるのではないか」

と語ったのはかのアインシュタインだが、

その精神世界を置き忘れ、日本人はどこに向かって突っ走っているのか。

・・・と偉そうにのたまわってみるが、

自分自身底が知れていることも充分承知している。

 

e14031202.JPG



食材をひとつひとつ確かめながら、

very good! を連発してくれるミスター・ロイ。

ああ、もっとちゃんと日本の伝統を解説できるようになりたい、

とつくづく思う。

お隣は、通訳も兼ねて同行された IFOAMジャパン 理事長の村山勝茂さん。

もちろん話は食に留まらず、有機農業の世界へと広がってゆく。

同行されたのは他に、オーガニック認証機関である

(株)アファス認証センターの渡邊義明さん、渡邊悠さん。

自然農法の団体 「秀明自然農法ネットワーク」 の手戸伸一理事長と、

福島県石川町の小豆畑(あずはた)守さん。

小豆畑さんは 「種採り百姓人」 を自称する自然農法実践者である。

ジェイラップの次の視察先になっている。

 

さて翌12日、一行は朝からジェイラップの事務所を訪問する。

伊藤さんたちが必死の思いで取り組んできた放射能対策についての

聞き取りと質疑が始まる。

このやり取りがまた、簡単に終わらないのである。 


e14031203.JPG


農地とくに水田での放射性物質の動きをひとつひとつ検証し、

データを蓄積させてきたこと。

そのデータを基に、さらにはチェルノブイリから学び、

研究者を尋ねては吸収しまくって、

米の安全性を確保するために取ってきた数々の対策。。。

伊藤さんが順を追って説明していくのだが、

節々でロイ氏からの質問が飛び出す。

村山さんが通訳し、伊藤さんが説明し、時々僕も割って入らせてもらったりしながら、

少しずつ少しずつ議論が深まっていく。


e14031204.JPG


専門用語も繰り出されたりするので、

村山さんも時々辞書を開いたりして、大変だ。 


伊藤さんとしてはもっともっと説明を掘り下げていきたかったことと思われる。

ロイ氏もまだまだ聞きたいことがある、といった面持ちなのだが、

何しろ午前中しか時間がない。

ひと通りのところで説明を切り上げ、施設を案内する。


米の全袋検査に使った測定器を見る。

e14031205.JPG


これは福島県の持ち物で、

ジェイラップは県からの委託で全袋検査に携わった。

ベルトコンベア式で 30㎏の米袋(玄米) が通過し、

国の基準値である 100Bqを超える可能性があると判断されたものは、

ゲルマニウム半導体検出器での精密な測定に回される。

厚生労働省が定めるスクリーニング法では、

基準値 100 未満であることを担保するためには、

その半分の 50Bq を正確に測定できる精度が必要とされている。

つまりこの機械で仮に 50 をわずかに超えるレベルで検出された場合は、

わずかではあれ 100 を超える可能性が残る、と判断するわけである。

そこで県の検査では 「25Bq 未満」 を測定基準として実施された。


e14031210.JPG


この検査器が県内 173カ所に計 202台配備され、

検査された昨年産米が 1081万 8127袋(× 30㎏≒32万4544トン)

うち 99.934 %の米が 25 Bq未満、

国の基準である 100Bqを超えたのは 28袋のみ、という結果である。

かかった費用は昨年で約 70億円 (一昨年は90億) とか。

これもまったくゲンパツ事故によって国民に課せられた負債である

自然再生エネルギーでは電気代が上がる、

なんて言ってる場合ではないと思うのだが。


続いてジェイラップの検査室を覗く。

e14031206.JPG


大地を守る会とカタログハウスさんが貸し出した

同じ型の測定器が仲良く並んでいる。

彼らはこの 2台を駆使して測定し続けた。

そして今でもデータ取りに余念がない。

「もう大丈夫」 の先まで続けないと、カンペキとは言えないのだ。


倉庫や加工場の屋根に設置された太陽光パネル。

e14031207.JPG


脱原発を宣言した県の一員として、

未来を創造する始まりの土地として、やれることはすべてやる。

そんな意思が、パネル一枚一枚に託されている。


農地再生のために導入した大型トラクター。

e14031208.JPG


これで反転耕(プラウ耕) をやって、

表面の凹凸を横回転ロータリーで踏圧、均平にして、

さらにロータリー耕で表層を固めて、レーザーレベラーで繰り返し均(なら) す。

これを地域全体で徹底させるために、

彼らは農閑期を返上して作業委託を請け負っている。

農地だけでない、これはコミュニティ再生の事業でもあるのだ。


最後に記念写真を。


e14031209.JPG

時間切れとなって、分かれる前にロイが言うのだ。

「今年の秋の世界大会で、ぜひ発表してほしい。」

日本での放射能対策を、特に福島の農民が報告することは、

とても意義のあることだと。

聞けば開催は10月、場所はトルコ・イスタンブールだと言う。

忙しい収穫時期にトルコまで、しかも渡航費の支援等はないと言う。

いくらなんでも福島の農民にトルコまで自費で行けとは、さすがに言えない。


もっと君たちと話がしたい。

大地を守る会についてももっと知りたいし、

今後の展開について意見交換したい。

そう言いながら、ロイ氏は次の視察先へと向かわれたのだった。

握手して、カッコよく 「イスタンブールで会おう」 とは言えず。




大地を守る会のホームページへ
とくたろうさんブログへ