食・農・環境: 2010年1月アーカイブ

2010年1月31日

水戦争と 稲の旋律

 

今日はふたつの映画を観た。

場所はともに 「ポレポレ東中野」。

 

ひとつめはこれ。

世界の各地で不気味に進む水の私物化 (水の危機) と、

噴出する争いや悲劇を描いたドキュメンタリー作品。

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水に恵まれた日本ではまったく信じられないような恐ろしい出来事が、

世界の各地で起きている。 

原因は、この星に生息するすべての生命体にとってのコモンズ (共有財産)

であるべき 「水」 が、特定の企業に奪われていっていることにある。

これはSF映画なんかではなく、

上下水道システムの民営化とか水源地の買い占めだとか、現実に進んでいる話であり、

争いで人が死ぬ事態まで起きている、生々しい 「今」 の記録映像である。

 


内容を解説しようとすると、映された現実を長々と追っかけてしまいそうで、やめたい。

ここでは、この映画の原典となった本がすでに邦訳されているので、

その紹介をもって替えることにしたい。

『 「水」 戦争の世紀 』 (集英社新書、760円+税)。

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「水のない惑星を救える科学技術など存在しない」

「資源の配分は支払い能力によって決定される」

「生態系から湧水を取るのは、人間から血液を抜くのに等しい」

 

本書では、水や水源が一部の企業に独占されることによって起きる恐ろしい事態を

告発するだけでなく、農薬・化学肥料に依存した農業やグローバリゼーションによって

進む汚染、生物多様性の減退、要するに生態系そのものの危機を訴えている。

 

映画監督サム・ボッゾは、水がなくなった地球を描くSF映画を構想中、本書に出会い、

今地球で起きている現実を撮らなければならないと決意したのだ、と語っている。

世界中の現場を回り、科学者や環境活動家と語り、映像によって、

世界が 「水」戦争 (水パニック) の時代に入っていることを可視化した。

 

「ブルー・ゴールド」 -青い黄金。 

21世紀が、水という究極の生命資源を奪い合う時代になろうとは・・・。

終末論者になってしまいそうになるが、

希望は、未来への責任を果たそうとする人たちの存在である。

登場する人々は力強く行動し、語りかけ、観る者を励ましている。

 

残念ながら観るのが遅くて、ポレポレ東中野での上映期間は2月5日まで、とのこと。

スミマセン。 今後の上映予定もよく分かりません。

いずれDVDで。 当面は本だけでも・・・・・

 

さて、続いては、こちら。

お昼もとらず、出口から入口の列に直行。 

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(画像がモノクロなのは、カラー・スキャンができなくなったプリンターのせいです。)

 

金田敬監督、新妻聖子主演 - 「アンダンテ ~稲の旋律~」。

原作は、旭爪(ひのつめ) あかねの同名小説。

 

絶望的な水戦争の映像を見せられたあとで、ニッポンの美しい風景を眺める。

引きこもってしまった女性に生きる喜びを与える、田園と農の力。 もちろん人のつながりも。

水はなんとも美しく、豊かに流れている。

女性を救う農民を、筧利夫が好演している。

 

ああ、もう解説はいいよね。

ドラマの筋立ても泣けるが、先の映画の影響が強くて、

"  僕らはまだ、水に守られている  "  という歓びと安堵に浸ってしまったのでした。

水の共同体を支える水脈を、僕らは死守しなければならないよ。

人類の未来のためにも。

 

こちらは12日まで上映中です。

おそらく各地でも上映されると思うので、よろしかったら。

 



2010年1月27日

木村秋則さん

 

・・・の名前は、ご存知の方も多いことかと思う。

青森県中津軽郡岩木町のリンゴ農家。

このブログをチェックする方なら、すでに木村さんと直接話をしたり、

現地の見学までされた方もおられるのかもしれない。

 

不可能といわれたリンゴの無農薬栽培に挑み、しかも無肥料で実現させた方。

彼のリンゴは 「奇跡のリンゴ」 と言われ、

一昨年にはNHKの人気番組 「プロフェッショナル ~仕事の流儀」 に登場して、

時の人になった。 その後、本も何冊か出版されてベストセラーになっている。

農業関係では、異例の社会現象である。

 

僕も木村さんの著書は読ませてもらったが、お話を聞く機会はなかった。

実は大地を守る会でも、講演と見学を申し込んだ経緯があるのだが、

園地の見学はお断りしているとのことで、残念ながら実現しなかった。

 

そんなワケで、木村秋則さんの名は僕らには実に気になる存在としてあったのだが、

昨年の暮れ、知人から講演会のチケットを譲ってもらうという幸運に恵まれた。

1月24日、日曜日。 場所は埼玉県ふじみ野市。

3~400名くらいは入ろうかという会場が、満杯だった。 

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木村さんの話し口調は、テレビや著書で感じていた通りの実直さで、

苦節10年、どん底まで見てきた方だから出せる優しさと、そして強さを感じさせた。

ひと言ひと言、丁寧に言葉を選びながら、しかも途切れず話を続けるなかに、

ゆるぎない自信も垣間見せながら。

 


木村さんが無農薬・無化学肥料でのリンゴ栽培に移行したのが1978年。

きっかけは農薬によるご自身と家族の健康被害だった。 

それもつらかっただろうが、しかしその後の苦難も、聞けば聞くほど壮絶である。

病気で葉っぱが落ち、夏に枯れ木のようになったリンゴからは実はできない。

収入が途絶え、木村さんはいろんな働きに出るのだが、

その10年を僕が解説するのは憚れる。 とても出る幕ではない。

言えることは、この人は、その間も執念をもって樹とその周辺を観察し、

土壌の下まで調べ、虫を眺め続け、相当な研究と勉強を重ねたことだ。

 

木村さんは語る。

「虫が涌くのは、土のバランスが悪いからではないでしょうか。

 害虫は、人が食べてはいけないものを食べてくれているように思うのです。」

 

木村さんが、書著 『リンゴが教えてくれたこと』 (日経プレミアシリーズ) のなかで、

 「高かった本も買って読んだ」 と書かれてある J.I.ロディル著の 『有機農法』

(一楽照雄著、農文協刊) には、こんなくだりがある。

 

「ほかのすべての虫も、自然の総合計画のなかで、それぞれ特殊の役割を果たしている

 のであろう。 害虫は植物の病気の原因ではない。

  彼らは、生育が不完全であるとか、その植えられている土壌の肥沃度がたらないとか、

  作物に何らかの不都合がともなっていることを指摘する自然からの使者である。」

 

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語りかけ続けた樹は枯れなかった、とかいうくだりは、

実は僕も、稲作体験などで思い当たった経験を持っている。

科学的立証はない。 まだない。 ただ昔の人は、みんなそう言う。 

これって何だろう。 オカルトで済ましていいのだろうか。

 

「結論は、未来に期待すべきである。」  (上掲・ロディルの 『有機農法』 の一説)

が冷静な姿勢だろうか。

 

しかし一点、これだけは納得できない。

木村さんは、ご自身の自然栽培と、有機栽培、そして一般栽培の米や野菜の保存試験をして、

スライド写真を使ってこう言うのだ。

 

自然栽培は枯れてゆく。 しかし有機JAS農産物は腐る。 一般栽培はもっと早く腐る。

 

この論法は、危うい。

" 腐る "  という行程は腐敗菌との関係だろうから、

自然栽培でも傷があって菌と接触すれば腐るのではないか。

それに僕自身、有機栽培の人参が見事に枯れた状態になっていたのを、

我が家で確認したことがある。 そんな単純明快な話ではないと思うのである。

 

この論にこだわってしまうのは、正直に言えば、

僕が有機農産物の流通に携わっているから、でもある。

木村さんが個人的実験で確信を持ったのなら、まあしょうがない。

しかし嫌なのは、それを自社の宣伝に使う人たちがいることである。

いざそこの店に行けば木村さんのリンゴはなく、

特別栽培のリンゴが売られていたりすることに、セコい僕は違和感を感じてしまうのだ。

 

あらゆる技術には発展段階があり、仲間が増えれば増えるるほど

育てるべき人は増えるのであって、その段階を批判してはならないのに、と思う。

木村さんでも 「堆肥を使うときは、完熟にしてね」 と言っているのに、

堆肥利用をまるで 「自然栽培以下」 と語る人たちがいる。

僕は、肉を食べる以上、家畜の糞尿を良質な堆肥に変えて土に返す有機農業の技術を、

資源循環の観点から否定することはできない、と思う立場である。

 

大地を守る会の会員からも、木村さんのリンゴがほしいとか、

大地の生産者も (無農薬で) できないのか、といった質問が寄せられる。

 

お答えします。

木村さんのリンゴをお届けすることはないでしょう。

それはまず、木村さんのたたかいに付き合った人たちのものだから。

ただ有機農業の発展と拡大のなかで、木村さんの世界が広がっていく過程で、

その仲間たちを応援することは、充分ありえることです。

また木村さんのリンゴを使ったお酢、という形でのお付き合いは始まりますので、

どうかメニューに載った折には、ご支援ください。

今はただ、大地を守る会と長年付き合ってきてくれたリンゴ生産者と一緒に、

木村さんの思想や実績を吸収することに努めたいと思うのであります。

 

この日は、前にも紹介した野口種苗研究所の野口勲さんの、

種に関する大切な講演もあったのだが、すみません、野口さん。 もう書けません。

いずれ、でお許しください。

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