放射能対策: 2013年10月アーカイブ

2013年10月18日

" 希望 " の源はどこに

 

" 分断 "  を越えなければ、希望は語れない。

しかも環境や平和を守ろうとする人たちほどカンペキを求めて批判しあい、

スクラムが組めないでいる。

これじゃあ再稼動や原発輸出を推し進める側の思うツボだよね。

 

-と、我々を叱咤するかのように宿題を提示した上で、

鎌田さんは自ら撮った写真を映しながら話を進める。

 

e13101801.JPG

 

例えば、事故後も緊急時避難準備区域に残り、末期ガンとたたかいながら、

80人以上の赤ちゃんをとり上げた

南相馬・原町中央産婦人科医院・高橋亨平先生の話。

残念ながら今年1月、74歳で亡くなられた。

高橋先生は生前語っていたそうだ。

「妊婦と子どもを守れない社会に未来はない。」

 

例えば、ベッドが満杯になっても来る人を拒まず治療を続けた

ひらた中央病院(石川郡平田村) の話。

今も全国すべての人に門戸を広げ、

ホールボディカウンターによる検査を無料で受け付けている。

本来は国がやるべき仕事なのだが、

だからと言ってやらないワケにはいかない。

目の前の困っている人、待っている人をどう助けるか、

1例でも子どもの悲劇を生み出さないために、

現場でやれる最大限のことをやる。

それが大人の務めだと、鎌田さんは強調する。

こういう人たちから僕らは何を学ぶのか。

 


例えば、白血病を患ったベラルーシの少年、アンドレイ君の話。

亡くなる前に 「パイナップルが食べたい」 と聞いて、

日本の看護師たちが雪の中、一軒一軒店をたずね

パイナップルを探して歩いた。

アンドレイ君は亡くなり、鎌田さんは 「助けれらなかった」 と悔やむのだが、

お母さんは、こう言ったそうだ。

「雪の中、息子のためにパイナップルを探してくれた日本人がいたことを、

 私は忘れません。 日本人に感謝しています。」

 

イラクには9年にわたって毎月300万円ぶんの薬を送り続けている。

劣化ウラン弾が原因と思われる白血病で亡くなった少女は

絵を描くのが好きだった。

その絵をバレンタイン・チョコの缶のフタに印刷して寄付を募っている。

その少女が亡くなる前に言ってくれた。

「私は死にます。 でも私は幸せでした。」

学校には行けなかったけれど、この絵によって日本の人たちとつながり、

仲間の子どもたちが救えるなら、私は幸せだと。

 

e13101802.JPG

 

たくさんの人たちが目頭を押えながら聴き入っている。 

絶望的な状況の中でも、希望は芽生える。

この希望の根源は何だ・・・・・ 僕にはこの言葉しか浮かんでこなかった。

愛、か。

 

もちろんこのひと言で済ましてよいとは思ってない。

冷静な分析も、しっかりと声を上げることも、行動も必要だ。

でも、人をつなげ、現場で最善を尽くさせる力は、本能のような 「愛」 なのだろう。

そして論理だけで決めつけず、現場の苦悩を知ること、

あるいは想像力をはたらかせることが大切だ。

現場の困難さや様々な事情、違いを理解し合い、

〇 を目指しながら今の △ をしっかりと刻む、

その原動力となるものを失わずに歩いていきたい。

これが僕なりに受け止めた、

鎌田さんからの  " 希望への答え "  だった。

 

e13101803.JPG

 

途中、加藤登紀子さんと一緒につくられたCD 『ふくしま・うた語り』 の曲が流れ、

鎌田さんの詩 「海よ、大地よ」 の朗読があった。

その一節に、大地を守る会初代会長・故藤本敏夫さんの名前が出てくる。

 

  1968年、日本を変えようとした一人の若者が怒っていた。

  「人間は、地球のすべての生きものたちに、土下座して謝るべきだ」

  この男は2011年の出来事をマチガイナクこの時、予感していた。

 

地球に土下座して、やり直そう。

僕がこのメッセージに出会ったのは80年代だけど、新鮮だった。

もう一度、怒りだけでなく、深い反省から出直す心が求められている。

" 分断 "  を越えて進むためにも。

 

チョー多忙な中、講演を引き受けていただいた鎌田さんに感謝して、

ここで新著の紹介を。

日比谷図書文化館は販売禁止のため貢献できなかったし。

 

e13101600.jpg

〇に近い△を生きる 「正論」や「正解」にだまされるな

(ポプラ新書、780円+税)

 

鎌田さんは書いている。

「〇 と × の間にある無数の △=「別解」 に、限りない自由や魅力を感じる。」

「自分の自由を守るのは、いつも希望だった。」

「地球の人間は、愛に一生懸命になるしかない。」

 

e13101804.JPG

 

約 1年半、13回にわたって行なった

「大地を守る会の 放射能連続講座」、これにて終了です。

改めて、安い講演料で快く受けていただいた講師の方々と、

毎回のように足を運んでくれた会員の皆様、

時に休み返上で手伝ってくれたスタッフに、

深く感謝申し上げます。

至らない点、不満に思われた点など多々あり、

要望もたくさん承りました。

今後に活かしていきたいと思います。

(ただし何でもできるわけではありません。 〇 に近い △ でお願いします。)

 

希望を失うことなく、前に! 歩み続けたいです。 

 



2013年10月16日

連続講座最終回-鎌田實さんが語る " 希望 "

 

台風26号来襲。

電車も止まり、交通網は大混乱の様子。

職場は就業時間になっても人はまばらで、土曜日のようだった。

(それでも物流は止まることなく走ってくれている。)

今日は、農水省で予定されていた

「第2回 日本食文化ナビ活用推進検討会」 も中止の連絡が入る。

 

甚大な被害を受けた地域の方々には、一人でも多くの方の無事と

一日も早い暮らしの復興を祈るしか今の僕には術がない。

一方、北海道・帯広では平年より22日早く積雪を記録したとの報道。

十勝や富良野あたりの生産者の顔が浮かぶ。

どこか狂った自然のリズムだ。

すべてが平衡に向かってのダイナミズムなんだけど。。。

 

暴風とともに凄まじい量の水が太平洋から運ばれてきて、

やられてもやられても、自然の力を受け止めて生きてきた民族。

こんな日、決まって浮かぶ言葉が哲学者・和辻哲郎の 「湿潤」 である。

 

  湿気は最も堪え難く、また最も防ぎ難いものである。

  にもかかわらず、湿気は人間の内に 「自然への対抗」 を呼びさまさない。

  その理由の一つは、

  陸に住む人間にとって、湿潤が自然の恵みを意味するからである。

  洋上において堪え難いモンスーンは、

  実は太陽が海の水を陸に運ぶ車にほかならぬ。

  この水ゆえに夏の太陽の真下にある暑い国土は、

  旺盛なる植物によって覆われる。

  特に暑熱と湿気とを条件とする種々の草木が、この時期に生い、育ち、成熟する。

  大地は至るところ植物的なる 「生」 を現わし、

  従って動物的なる生をも繁栄させるのである。

  かくして人間の世界は、植物的・動物的なる生の充満し横溢せる場所となる。

    (和辻哲郎著 『風土 -人間学的考察-』/岩波文庫より)

 

" 耐える "  とは、ただ我慢することではない。

我々は日々" 鍛え "  られているのだ。

そう思いたい。

 

さて、そろそろこの宿題をまとめなければならない。

10月4日(金)に開催した、

「大地を守る会の 放射能連続講座Ⅱ」 シリーズの最終回(第7回)。

お願いしたのは長野・諏訪中央病院名誉院長で、

日本チェルノブイリ連帯基金 理事長の 鎌田實 さん。

" がんばらない "  けど  " あきらめない "  の人。

 

タイトルは、

『鎌田實さんが語る、希望 ~子供たちの未来のために~』。

" 子供たちの未来のために "  は、

大地を守る会が設立された 38年前から掲げてきたスローガンだ。

あえてこの副題をつけて、鎌田さんにお願いした。

e13101601.JPG

 (会場は、日比谷図書文化館・コンベンションホール)

 


鎌田さんが語ってくれた話を要約してみる。

 

大地を守る会は、僕に希望を語れという。

しかし、未来への希望を語るためには、

いま様々な局面で起きている  " 分断 "  を乗り越えなければならない。

避難した人たちと残らざるを得なかった人たち、

数値を冷静に読み取り判断しようとする人と 「ゼロでないとダメ」 という人、

帰りたいと願う人と新天地で生きようとする人・・・・・

みんな被害者なのに、いたる所で対立と分断が生まれている。

これを乗り越える道筋を見つけ出さないと、希望は語れない。

被害者は連帯が必要。

スクラムを組んで、政府や東電に要求を続けることが大事である。

 

そのためには、わずかな違いで人を非難したり否定したりしないで、

それぞれの考え方を理解し、接点を見つけ出す努力をしなければならない。

〇か × かではなく、〇に近い△を見つけ出す作業、

それが民主主義の姿だと思う。

 

いま福島の子どもたちのために必要なことは、

健康診断のスピーディな実施、それも継続的にやり続けること。

次に  " 放射能の見える化 " 、そのための徹底した測定と情報公開。

そして保養、できれば一年に1ヶ月程度の期間で。

(代謝の早い子どもは、それだけで劇的に減る。)

低線量内部被ばくの影響についてはまだ分からないことが多い。

だからこそ、徹底した検査でデータを積み上げていくことが必要なのに、

国はまったくやろうとしない。

忘れられていくことを待っているかのようだ。

将来、差別的な  " 分断 "  が起きないためにも、

今やれることをしっかりやっていくことが重要なことだ。

 

最大限やれることをやる、

それが27年間に渡ってチェルノブイリを支援してきた経験で掴んだことだった。

何もやらずに 「大丈夫だ」 と言ったり、

わずかな妥協も許せないと批判し続ける態度は、

現場感覚に合わない。

「(事故が)起きてしまった中で、どうやって子どもの命を守るのか」

という目の前の現実に対しては、

たくさんの考え方があるなかで、〇にできるだけ近い△を探すしかない。

 

e13101602.JPG

 

長年地域医療に取り組んできて、長野県は日本一の長寿県になった。

粘り強く生活習慣を変えていく努力をしたが、

例えば減塩の味噌汁を徹底させるより効果的だったのが、

野菜をふんだんに使った具沢山の味噌汁だった。 野菜の力は大きい。

 

しかしもっと興味深いのは、ハーバード大学の研究グループが

日本の長寿の要因を調査して導き出した見解である。

それは 「社会的格差が少ない。 そして人と人の絆・つながりがある」

というものだった。

なぜ長野県が長寿で、医療費が少ないのか。

鎌田の考えは、高齢者の就業率が日本一だということだ。

高齢者が生きがいを持って仕事 (その多くは小さな農業) をし、

助け合って生きている。

お金はたくさんなくても幸せ、これが長寿の秘訣だった。

しかし小さな農も、国民皆保険という素晴らしい医療制度も、

TPPによって崩されようとしている、たいした議論もないまま・・・。

みんなもっと声を上げないといけない。

 

動脈硬化やガン化を起こすフリーラジカルの中に、

活性酸素、農薬、放射線などがあるが、

フリーラジカルを暴れさせないために、抗酸化力のある色素が大切。

野菜を摂ることは、実は放射線防護にも大変有効である。

加えて醗酵食品が挙げられる。

食によって免疫システムを強化することを忘れないようにしたい。

そして自分なりの数値基準を持つことだ。

その判断力を得るためにも、

データを取り続けること、そして見える化が必要なのである。。。

 

e13101603.JPG

 

この連続講座も昨年の 6月に始めてから延べ 13回、

12人の専門家と 4人の生産者を招いて

放射能とどう向き合うかを模索してきたけど、

ほぼ鎌田さんの話に集約されたような気がする。

 

しかし、希望を語るためには乗り越えなければならないことがある、

と鎌田さんは強調される。

僕らにはまだ、希望は語れないのか。

どうすれば乗り越えられるのか・・・

いや、答えは、鎌田さんがスライドを映しながら語ったエピソードの中に

見事に示されてあるように思えた。

それは、みんなの中にあるものだ。 

この答え、間違ってないと思う。

長くなったので、次回に。

 



大地を守る会のホームページへ
とくたろうさんブログへ