産地情報: 2012年5月アーカイブ

2012年5月11日

菅野正寿、満身に怒りを込めて

 

里山交流会で、二本松市から招かれた菅野正寿(すげの・せいじ) さんは、

各地からやってきたボランティアたちに向かって、

いま福島の生産現場で進んでいる事態を、訴えるように語った。

 

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食品中の放射性物質に関する国の新基準値 (米は100Bq/㎏) が施行される

4月1日の2日前、3月29日付で農林水産省から1枚の通知が出された。

通知の書名は 「100Bq/㎏を超える23年産米の特別隔離対策について」。

 

そこにはこう書かれていた。 

「食品中の放射性物質の新基準値の水準(100Bq/㎏) を考慮し、

 暫定規制値(500Bq/㎏) を超える放射性セシウムの検出により

 出荷が制限された23年産米だけでなく、100Bq/㎏を超える23年産米についても、

 市場流通から隔離することとする。」

 

しかも、暫定規制値(500Bq) を超えた米だけでなく、

本調査と緊急調査で新基準値(100Bq) を超えた米(=暫定規制値未満)

が発生した地域の、すべての米が 「隔離対象」 とされたのである。

なんら説明もなく、3月末の一枚の通知によって。

これによって、菅野さんたちが必死の対策努力をもって生産し、

測定を行ない、ND(検出限界値以下) を確認した上で、

その旨表示して販売していたコメまでが、

自慢の直売所 「道の駅 ふくしま東和」 から一方的に撤去された。

 

「ND なのに、それまでも ・・・」

これでは 「安全な米作り」 に賭けてきた生産者が浮かばれない。

菅野さんの怒りは収まらない。

 

検査して合格した米までが、地区でひと括りにされて 「隔離」 された。

法律上のことで言えば、米については新基準後も経過措置が取られていて、

今年の10月までは暫定規制値が適用されることになっている。

今回の一方的措置は、経過措置を無視していることと、

基準内(しかもND) であることが確かめられているものまで販売を禁止するという、

二重の意味で国の方針に離反しているのではないだろうか。

生産者や販売者の自主的な考えに基づくものではない。

国からの指示、である。

菅野さんの憤りが伝播してきて、僕の腸(はらわた) も煮えてくる。


菅野さんの訴えは、これに留まらない。 

 

菅野さんの地域は 100~500Bq の間の米が検出された地区で、

国は条件つきで作付を認めていたものだが (「事前出荷制限区域」 と言われる)、

その指示がまた現場を無視した一方的通告なのである。 

 

国から当該区域の農家に指示されていたことは、

ア) 可能な範囲で反転耕や深耕等を行なうほか、

イ) 水田の土壌条件等に応じたカリ肥料や土壌改良資材の投入、

等により、

農地の除染や放射性物質の吸収抑制対策を講じていることを確認すること。

- ということだったのだが、それが県 - 市町村と降りてきた段階で、

ゼオライトを300㎏、ケイ酸カリ20㎏、ケイカリン50㎏(ともに10アール当たり)

投入せよ、という指示になった。

 

「ゼオライト300㎏なんて、科学的に実証されてない」 と菅野さんは言う。

いや、かなり多過ぎる、というのが僕の感想。

それに 「ゼオライト」 とひと言でいっても、実は数百種類あって、

セシウムの吸着能力も千差万別だと言われている。

その辺のデータは明らかにせず (業者への利益誘導になる、という言い分らしい)、

ただ300㎏撒け、とは乱暴すぎる。

カリ肥料についても、「投入適期がまったく考慮されてない」。

加えて、その作業記録を一筆(田んぼ1枚) ごとに台帳管理しろというお達し。

試験栽培も認められないという。

 

これらの指示が4月に入って押し付けられてきたものだから、

高齢者を中心に、今年の稲作を断念する人が増えているそうである。

「出荷段階で全袋検査する方針なんだから、

 事前から強制的に、しかも地域一括で制限をかけるとは、

 農家の主体性を奪う以外の何物でもない!」

菅野さんの怒りは、もっともだと思う。

 

思うに、国にとって、農家の主体性や自立は厄介なことなのだ。

恐れているのではないか、とすら思える。

そして、民間の力を活用するとか連携するという発想に乏しい。

ジェイラップが須賀川で取り組んだ対策事例などは、

民間力を活用すれば、食の安全に対する信頼回復が

もっと効果的かつ効率的に進むことを示唆している、

と思うのだけれど。

 

信用してないのかな、国民を。

それとも自己保身なのだろうか。

手続きひとつとっても、福島農家の意欲を逆なでするような手法では、

生産者の経営安定も消費者の信頼も得られない、とだけは言っておきたい。

 

先だって紹介した 『放射能に克つ、農の営み』(コモンズ刊) に続いて、

菅野さんが執筆されている本(17人による共著、戎谷も執筆)

が出版された。 

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『脱原発の大義 -地域破壊の歴史に終止符を-』

(農文協ブックレット、800円+税)

 

「有機農業がつくる、ふくしま再生への道」

というタイトルで、菅野さんはここでも熱く語っている。

 

   私たちはあらためて日本型食生活の大切さを教えられた。

   母なる大地と太陽の力を活かす、有機農業による生命力ある農畜産物が

   健康な体と健康な人間関係をつくると思うのだ。

 

「放射性物質を土中に埋葬して 農の営みを続ける」

菅野正寿、心魂を込めた宣言である。

 



2012年5月 9日

光(ひかる)さん と 未明(みはる)くん

 

想定外にしんどかった特命堰さらい体験と里山交流会が明けた翌5月4日、

会員さんもお誘いして、帰る前にチャルジョウ農場に立ち寄る。

 

農場主の 小川光さん は、地元の方々から耕作を依頼された西会津の農場に

主体を移していて、こちらは息子の未明(みはる) さんが仕切っている。

 

覗けば、オリジナル品種のトマト 「紅涙(こうるい)」 の定植に入っていた。  

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ここは標高400メートル。 まだ朝夕は肌寒い山間部。

水も引けない場所で、光さんは無潅水での有機栽培技術を確立させた。

冷涼な気候は病害虫が少なく有機栽培に向いている、と光さんは言う。

ただし生産性は低い、はずなのだが、そこからが光さんのスゴイところである。

徹底した省エネ・低コストと環境共生で 「ちゃんと食える」 農業を実践してきた。

 

ヨモギなどの野草を生やし、害虫の天敵を共生させる。

有機質肥料もあえて生で使い、作物の根が伸びてゆく先に施す(溝施肥)。

ハウスの資材はすべてリサイクル。 パイプも農家から譲り受けては修理して使う。

わき芽や側枝をあえて取らない多本仕立のトマト、メロン栽培。

光さんが編み出した技術は本にもなり ( 『トマト、メロンの自然流栽培』 )、

08年には農水省の 「現場創造型技術 『匠の技』」 の認定を受けた。

 

息子の未明さんも、負けてない。 

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一昨年、NPOふるさと回帰支援センターが実施している

「農村六起」 プロジェクトの第1回ビジネスコンペで見事受賞し、

「ふるさと起業家」 7名に選ばれた。

 

「農村六起」 とは、六次産業 (1次・2次・3次産業をミックスさせた事業) 化の

ビジネス・プランを持って地域活性化を目指そう、という意味。

未明さんは、会津在来種の雑穀や豆類を遊休地で栽培し、

加工・販売するプランを構想している。

しかも都会から若者たちを呼び込み、地域活性にもつなげたいと、

親父に負けず、立派な農村起業家として頭角を現してきている。

 

ちなみに未明(みはる) という名は、

童話作家・小川未明(みめい) から頂いたものである。

相当に影響を受けたようだ。

僕も小学生の時、誕生日に母親から童話集を買ってもらったことがある。

赤いろうそくと人魚、牛女(うしおんな)、野ばら、港についた黒んぼ、といった

ヒューマニズム溢れる作品群が強く心の底に残っている。

でも、、、名前にまでつけられるとちょっと、しんどいかも。。。

 

研修生に、ロシアから来た若者が加わっていた。

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有機農場での研修や農作業先を提供する (農場は宿と食事を提供する)

国際的ネットワーク組織 「ウーフ(WWOOF)」 の紹介でやってきた。

「次はヨルダンに行く計画」 だと言う。 

こういう若者が増えている。

昔なら、こんな生き方してると、ヒッピーと言われて親は泣いたものだが。。。 

ま、頑張ってくれたまえ。

いや、" 頑張る "  という言葉も、彼らには適切ではないのかもしれない。

 

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好きにすれば・・・・・て感じ? 

 

未明さんを代表として、浅見彰宏さんや新規就農者・研修生たちで結成された

「あいづ耕人会たべらんしょ」も4年目に入った。

夏には 「会津の若者たちの野菜セット」 が組まれる他、

在来種 「庄右衛門いんげん」 が

とくたろうさん 』(地方品種・自家採種品種のファンクラブ) に入る予定です。

乞うご期待。

 

さて、残してしまった話題がある。

里山交流会で聞かされた、菅野正寿さんの重たい報告。 

すみません、気を締め直して・・・ 続く。

 



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