放射能対策: 2012年5月アーカイブ

2012年5月22日

「農水省からの通知」 てん末

 

2012年5月21日(月)、月暦 四月一日。

草木が青々と繁り天地に生気が満ちてくる 「小満(しょうまん)」 の日。

午前7時36分、

関東では173年ぶりという 金環日食 を拝む。 

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こんなふうに撮ったヤツもいる。 

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こちらの撮影は、農産チーム・市川泰仙くん。

 

世間では、この瞬間に人生をかけた勝負に出た人もいるようだ。

ま、問題はプロポーズから先の長い人生だからね、

とか野暮なことを言うのはやめて、どうぞ、おシアワセに。

 

ものぐさ人間は、少々のことでは 「見る」 という目的のためだけに

無理して遠方まで足を運ぶ、という行動はとらないので、

間違いなく一生に一度の 「体験」 のはずなのだが、

あっさりと見終えて会社に向かう。

もっと世界が暗くなって、ざわざわと不気味な風が吹いてきたりする

のかと思い込んでいたワタシ。。。  小学生以下?

 

こんな特別な日に、千葉・幕張の事務所までやって来られたのは、

農林水産省の方2名。

食品流通業界を回っているのだと言う。 正確には、

「食品での放射性物質の基準値を独自に設定し、自社測定を実施している団体」

を回っているようだ。

 

用向きは2点。

1.4月からの新基準は、十分な科学的根拠をもって設定したものなので、

  その旨ご理解いただきたい。

2.自主検査に当たっては、信頼できる分析に努めていただきたいこと。

 


これは4月20日付で、農林水産省産業局長から

「食品産業団体の長」 宛てに出された通知に基づいたもので、

これによれば、以下の2点が強調されている。

 

1.食品産業事業者の中には、食品中の放射性物質に係る自主検査を実施している

  事業者も見られるが、科学的に信頼できる分析結果を得るためには、別添の

  「信頼できる分析の要件」に沿った取り組みを行なっていることが必要である。

2.食品衛生法に基づく基準値は、コーデックス委員会の指標である

  年間1ミリシーベルトに合わせる一方、算定の際の一般食品の汚染割合を50%として、

  コーデックス委員会ガイドラインより厳しい前提が置かれ、

  さらに特別な配慮が必要な飲料水や乳児用食品等を区分して、

  長期的な観点から設定されたものですので、

  過剰な規制と消費段階での混乱を避けるため、自主検査においても

  食品衛生法の基準値(一般食品:100ベクレル、等) に基づいて判断するよう

  周知をお願いします。

 

この通知による波紋は、農水省担当部局にとってまったく想定外だったようで、

翌21日からマスコミはこぞって、国が流通サイドの 「自主基準」 を潰しにかかった、

といった調子で書き立てた。

大地を守る会にも各社から問い合わせがあり、

僕が対応せざるを得ない羽目に陥ったのだが、

そもそもこちらは21日の新聞記事で知ったばかりなので、

間の抜けた対応にならざるを得ない。

こんな感じ。

「大地さん、農水から来ましたか?」

「いえ、何にも。 通知はHPで見てますけど、ウチには届いてないので、

 対象外なんじゃないですか?」

「あれぇ、おかしいですね。 なんで大地さんに送られてないんですかね?」

「さあ、私に聞かれても・・・」

「大地さんに行ったら、騒ぎが大きくなるからですかね?」(どうゆう意味じゃ)

「さあ、どうでしょうかね」

「来たら、どうします? やっぱ返り討ち、ですよね?」(嬉しそうに言うな)

「さあ、どうでしょうかね」

「そもそもこの通知、どう思います?」

・・・と突っ込まれて、吐いたコメントがあちこちに掲載されてしまった。

 

 自主基準を槍玉に挙げられた民間側の怒りは収まらない。

 厳格な独自基準を設ける生鮮宅配大手の大地を守る会で放射能対策特命担当を

 務める戎谷徹也氏は 「国の検査体制に、消費者が相当な不信感を持っているから

 自主基準を設ける流れになった。 自主基準を控えろ言うなら、

 信頼されるものを作ってほしい」 と憤る。 - 『日経ビジネス』 5月7日号-

 

 新基準施行後すぐに 「勝手なものさしで測るな」 と 「指導」 されたことに

 反発は続出した。

 「国に押しつけられる筋合いのことなのか。 ~中略~

 指導の前にやるべきことがあるのではないか」 (大地を守る会、戎谷徹也) 

  - 朝日新聞 「AERA」 5月14日号-

 

などなど。 こんなにきつく言った覚えはないのだが (だいたい通知も貰ってないし)、

いろんな人から 「気合い入ってますねえ」 と冷やかされる始末。

 

ちょっと本気になったのはマスコミ取材がひと通り終わった数日後、

農水省から電話をもらってからだ。

いきなり 「文書が届いているかと思いますが・・・」 ときた。

「いや、何も受け取っておりませんが・・・」

「あれえ、、、〇〇〇〇(ライバル会社) さんには送ったんですけどね」

カチン!!!!

スイッチ入っちゃったよ、もう。

「どうせ、うちは弱小団体ですから」 とスネオ調から始める。

 

とまあ、そんな経過があって、来訪となったのだが、

いざ合えば、僕も紳士である。

・放射性物質には安全のしきい値がなく、流通サイドとしては消費者の健康に配慮して

 予防原則の観点を捨てるわけにはいかないこと。

・生産者サイドでも、できるだけ低減させる努力を必死でやっているワケで、

 その努力が報われるよう、信頼を得られるための水準を示していくのは当然のこと。 

・こういった自主基準の設定で消費が混乱しているという事実はない。

・消費の混乱を招いたのは、むしろ国の対応によるところが大きい。

 我々は消費者の期待を一身に受けて、検査体制を構築し、情報公開に踏み切り、

 生産者の除染対策を支援し、ここまで来たものである。

といった主旨でお話しをさせていただいた。

 

農水省の方も、けっして (報道されているような) 自主基準をどうこうしろと言うつもりは

まったくない、との説明。

「なら、なんでこんな報道先行になっちゃったんですかね」

「出し方もよくなかったかと反省しているところです」

 

この通知と報道は、

この一年で全国各地に設置された市民測定所の方々にまで動揺を与えた

こともお伝えした。

提示された 「要件」 は、ひとことで言って 「市民測定所潰し」 に見えましたよ。

「いや、そんなつもりは全くない。 あくまでも商売としてやっている方々へのお願いです」

という答えだった。

 

国はもっと民間を信用して、生産現場での対策や測定などで

連携することも考えるべきだ、と付け加えた。

規制するばかりと思われているから、こういうことになるんじゃないだろうか。

「私たちもそういう方向で考えていきたい」

とは言ってくれたが、さてどうだろうか。

 

説明に来られた方は実に物腰の柔らかい方で、

終始穏やかに話し合えたのだが、結局のところ、

今回の動きの背景と本音はこうである。

- 「検出されたものは販売しない」 と宣言している小売店があるが、

  あの表示は優良誤認を招いていると思われる。 指導されたし。

という要望がどこからか出されたのだろう。

農水省としても動かざるを得なかったということか。

だったら、いろいろ歩き回るより、直球勝負でやってもらいたい。

そのほうがずっと業界にインパクトを与えるというものです。

 

今日も新聞社の記者がやってきた。

ひと通り説明したけど、本件はもうあんまり報道価値はないように思う。

僕の怒りは、むしろ先日書いた 菅野正寿さんの訴え である。

こういう問題をこそ取材してもらいたい、と切に願う。

 



2012年5月17日

放射能連続講座(続報)・・・こわい予感

 

「大地を守る会の 放射能連続講座

第2回(7月7日) の会場が決定しました。

江戸川区船堀(ふなぼり) にある 「タワーホール船堀」 。

都営新宿線「船堀」駅下車、徒歩1分。

新宿からだと直通で約30分(快速21分)。

東京からは、JR総武線「馬喰町」(東京から5分)で

新宿線「馬喰横山」 に乗り換え、約15分(快速10分)。

展望台もあり、面白そうな場所です (行ったことないけど)。

 

第2回のテーマは、「正しい食事こそ最大の防護」。

講師は、元放射線医学総合研究所・内部被ばく評価室長、白石久二雄さん。

日本で、食品による内部被ばくを公的に研究した唯一の研究者。

高松(香川県) から駆けつけてくれます。

時間は、午後1時半~4時

 

第2回のコーディネーターは、鈴木奈央さんにお願いしました。

鈴木奈央さん。 元 「月刊 ソトコト」 編集者。

現在、NPO法人グリーンズ代表、株式会社ピオピオ代表。

あなたの暮らしと世界を変えるグッドアイディア・Webマガジン 「greennz.jp」 を発行。

ちなみに、男性です。

 

どうぞお早めにお申し込みください。

 

連続講座の概要は、大地を守る会HPでも逐次更新してまいります。

http://www.daichi-m.co.jp/cp/renzokukouza/

 

さて14日に、第1回の質疑応答タイムのコーディネーターをお願いした

" やまけん "  こと 山本謙治 さんと打ち合わせを行なったところ、

ヤマケンさん、けっこうノリノリで、

「オレも一消費者として、いっぱい聞きたいことあるんだよなあ。

 質疑の時間、もうちょっと取ったほうがいいと思うなあ」

ときた。

おかげで講師の上田昌文さん(NPO法人市民科学研究室 代表) に、

講演90分のところを80分で、とお願いする羽目に。

 

「大地に対する質問も、しちゃうかもね。

 エビちゃんも前に座っててもらおうかな」 と勝手に段取るヤマケン。

 

USTREAM中継で視聴者からの質問受付、

質疑応答では出過ぎの司会者  ・・・どうなっちゃうのでしょうか。

どうもおさまりそうにない、恐ろしい予感が涌いてきたのでした。

 

第1回は6月2日(土) 午後1時半~4時。

テーマは、「今後の影響をどう予測し、どう心構えをするか」。

会場は、杉並区立産業商工会館。

申し込み締め切りは18日という設定ですが、ねじ込めばOKかも。。。

念のため、お問い合わせください。

経営企画課広報担当 TEL:043-213-5860/メール:press@daichi.or.jp

 

それにしても、会場取りには かなり苦戦を強いられています。

都内 + 土曜の午後 + 150~200人の会場 + 少々の予算オーバーまで

 = だいたい 半年先まで ×

「原発とめよう会」 やCSR事務局にも手伝ってもらって、

第3回は、ようやく仮予約までこぎつけたところ。

 

先に会場を取ってから講師を探す、というケースがよくあるけど、

その事情もよく分かる、という今日この頃。

 



2012年5月11日

菅野正寿、満身に怒りを込めて

 

里山交流会で、二本松市から招かれた菅野正寿(すげの・せいじ) さんは、

各地からやってきたボランティアたちに向かって、

いま福島の生産現場で進んでいる事態を、訴えるように語った。

 

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食品中の放射性物質に関する国の新基準値 (米は100Bq/㎏) が施行される

4月1日の2日前、3月29日付で農林水産省から1枚の通知が出された。

通知の書名は 「100Bq/㎏を超える23年産米の特別隔離対策について」。

 

そこにはこう書かれていた。 

「食品中の放射性物質の新基準値の水準(100Bq/㎏) を考慮し、

 暫定規制値(500Bq/㎏) を超える放射性セシウムの検出により

 出荷が制限された23年産米だけでなく、100Bq/㎏を超える23年産米についても、

 市場流通から隔離することとする。」

 

しかも、暫定規制値(500Bq) を超えた米だけでなく、

本調査と緊急調査で新基準値(100Bq) を超えた米(=暫定規制値未満)

が発生した地域の、すべての米が 「隔離対象」 とされたのである。

なんら説明もなく、3月末の一枚の通知によって。

これによって、菅野さんたちが必死の対策努力をもって生産し、

測定を行ない、ND(検出限界値以下) を確認した上で、

その旨表示して販売していたコメまでが、

自慢の直売所 「道の駅 ふくしま東和」 から一方的に撤去された。

 

「ND なのに、それまでも ・・・」

これでは 「安全な米作り」 に賭けてきた生産者が浮かばれない。

菅野さんの怒りは収まらない。

 

検査して合格した米までが、地区でひと括りにされて 「隔離」 された。

法律上のことで言えば、米については新基準後も経過措置が取られていて、

今年の10月までは暫定規制値が適用されることになっている。

今回の一方的措置は、経過措置を無視していることと、

基準内(しかもND) であることが確かめられているものまで販売を禁止するという、

二重の意味で国の方針に離反しているのではないだろうか。

生産者や販売者の自主的な考えに基づくものではない。

国からの指示、である。

菅野さんの憤りが伝播してきて、僕の腸(はらわた) も煮えてくる。


菅野さんの訴えは、これに留まらない。 

 

菅野さんの地域は 100~500Bq の間の米が検出された地区で、

国は条件つきで作付を認めていたものだが (「事前出荷制限区域」 と言われる)、

その指示がまた現場を無視した一方的通告なのである。 

 

国から当該区域の農家に指示されていたことは、

ア) 可能な範囲で反転耕や深耕等を行なうほか、

イ) 水田の土壌条件等に応じたカリ肥料や土壌改良資材の投入、

等により、

農地の除染や放射性物質の吸収抑制対策を講じていることを確認すること。

- ということだったのだが、それが県 - 市町村と降りてきた段階で、

ゼオライトを300㎏、ケイ酸カリ20㎏、ケイカリン50㎏(ともに10アール当たり)

投入せよ、という指示になった。

 

「ゼオライト300㎏なんて、科学的に実証されてない」 と菅野さんは言う。

いや、かなり多過ぎる、というのが僕の感想。

それに 「ゼオライト」 とひと言でいっても、実は数百種類あって、

セシウムの吸着能力も千差万別だと言われている。

その辺のデータは明らかにせず (業者への利益誘導になる、という言い分らしい)、

ただ300㎏撒け、とは乱暴すぎる。

カリ肥料についても、「投入適期がまったく考慮されてない」。

加えて、その作業記録を一筆(田んぼ1枚) ごとに台帳管理しろというお達し。

試験栽培も認められないという。

 

これらの指示が4月に入って押し付けられてきたものだから、

高齢者を中心に、今年の稲作を断念する人が増えているそうである。

「出荷段階で全袋検査する方針なんだから、

 事前から強制的に、しかも地域一括で制限をかけるとは、

 農家の主体性を奪う以外の何物でもない!」

菅野さんの怒りは、もっともだと思う。

 

思うに、国にとって、農家の主体性や自立は厄介なことなのだ。

恐れているのではないか、とすら思える。

そして、民間の力を活用するとか連携するという発想に乏しい。

ジェイラップが須賀川で取り組んだ対策事例などは、

民間力を活用すれば、食の安全に対する信頼回復が

もっと効果的かつ効率的に進むことを示唆している、

と思うのだけれど。

 

信用してないのかな、国民を。

それとも自己保身なのだろうか。

手続きひとつとっても、福島農家の意欲を逆なでするような手法では、

生産者の経営安定も消費者の信頼も得られない、とだけは言っておきたい。

 

先だって紹介した 『放射能に克つ、農の営み』(コモンズ刊) に続いて、

菅野さんが執筆されている本(17人による共著、戎谷も執筆)

が出版された。 

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『脱原発の大義 -地域破壊の歴史に終止符を-』

(農文協ブックレット、800円+税)

 

「有機農業がつくる、ふくしま再生への道」

というタイトルで、菅野さんはここでも熱く語っている。

 

   私たちはあらためて日本型食生活の大切さを教えられた。

   母なる大地と太陽の力を活かす、有機農業による生命力ある農畜産物が

   健康な体と健康な人間関係をつくると思うのだ。

 

「放射性物質を土中に埋葬して 農の営みを続ける」

菅野正寿、心魂を込めた宣言である。

 



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