食・農・環境: 2010年9月アーカイブ

2010年9月29日

しつこく、ミツバチとネオニコについて-

 

3回に分けて書いた 「ミツバチと農業」 は、それなりにリキを入れたつもりだが、

何人かの方から質問や意見も頂戴し、多少誤解を受けた面もあったかと反省している。

ポイントはやはり、CCD (蜂群崩壊症候群) とネオニコチノイド系農薬問題の

とらえ方である。

 

僕は決してCCDという現象を軽視しているつもりはない。

ネオニコ系農薬に対する独自の対策も進めている。

それは個々の農薬を精査して、生産者とともに対策を立てていこうというものだ。

 

違いといえば、ただ単純にネオニコ系農薬を排除すれば問題が解決するとは

全然思ってない、ということに尽きる。

コトの本質は、ミツバチが健康に育ち働いてもらうこと、つまり

養蜂と農業の健全な関係を取り戻すための環境整備にある。

そのための対策は、まだ灰色の雲の中にあるCCDに焦点を当てて

危機感を煽って済むものではない。

伝染病やダニ被害のリスクだって無視してはならない重大事項なのだ。

ミツバチ「不足」 や 「大量死」 に対して、できる対策を進めることを考えたい。

そのほうが具体的で前向きな姿勢ではないかと思うし、

できるところから着実にミツバチにとっての環境を整えていく、

これこそが目に見えない失踪 (CCD) の原因を取り除いていくことにもつながる

のではないだろうか、というのが実のところ、僕の秘かな確信でもある。

これが、「大量死とCCDはつながっている」 とにらむ藤原誠太さんに対する、

僕なりの応えだったのだけど。。。

 

それに、カメムシは農薬で叩く、という思想が前提にある限り、

ネオニコを排除しても、別なあるいは新たな農薬が登場するだけではないか。

ネオニコを殊更に問題視すると本質的な対策を遅らせる危険性がある、

と懸念するのも、そういう側面を感じるからだった。

病虫害に対する対策思想を変えるのは容易ではない。

農家にとっては目の前の経営の問題でもあるし、

これは技術の再確立という長いたたかいであることを自覚する必要がある。

 

改めて、ローワン・ジェイコブセン著 『ハチはなぜ大量死したのか』

から引用させていただくなら-

  この状況を避けるには、チームとしての取り組みが必要だ。

  養蜂家だけでなく、昆虫学者も自然保護活動家も一緒になって

  奇跡を起こさなければならない。

  私たちがしなければならないのは、土地の酷使をやめること、

  私たちの文化に養蜂と農業の場所をふたたび組み入れること、

  そして昆虫を仲間に組み入れることだ。

  もしそうしなければ、果樹園だけでなく、

  私たちのあらゆる努力も実を結ばなくなってしまう。

 

そのための想像力と根気が必要だと思うのである。

 



2010年9月21日

ミツバチと農業 -優しい連携を取り戻したい

 

ミツバチと農業

- 先週中にまとめるつもりが書き切れず、イベント案内などはさんでしまったが、

  何とかまとめに入っていきたい。

  読んでいただいた方には、もうこちらの問題意識と立ち位置は

  ご想像いただけているのかと思う。

  もしかしたらガッカリされた方もいたりして。。。

 

勉強会のタイトル -ミツバチと農業- から察せられるように、

僕らがつかみたいのは、養蜂と農業の共存の世界である。

話題のネオニコチノイド系農薬に対する評価も、その文脈の中で考えたいと思う。

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まずもってはっきりさせておきたいことは、

日本における花粉交配用ミツバチの不足 (=農業生産への影響) と、

蜂群崩壊症候群 (ほうぐんほうかいしょうこうぐん:CCD) は別問題である、ということだ。

なおかつCCDの原因はまだ推測の域を出ていないのが現状であること。

という以前に、日本ではまだCCDと特定できる事例を抽出して

原因を調査できるレベルに達していない。

そもそもちゃんと実態を把握するための調査体制ができていないのだ。

中村教授の説明によれば、行政改革やコスト削減の影響で、

農業試験場が養蜂関係から撤退して研究者がいなくなったということである。

都道府県の家畜保健衛生所にも、「家畜」 であるミツバチの被害に対応できる

担当係官はいない、というのが実態のようなのだ。

 

農薬被害があっても現場を見に行く人がいない。

したがって被害の実態が行政に届かない。

農業生産を支える花粉媒介者が黙示録的な兆候を示し始めているというのに、

この国には 「農業に対する包括的な政策がない」(中村教授)。

 - これを事実を正確に知るための 「対策・その①」 としたい。

   CCDで騒ぐなら、ネオニコ糾弾の前に、「実態と原因調査を急げ」(その体制を整えろ)

    という要求にして欲しい、というのが僕からの 「提案・その①」 でもある。

   この現状を軽んじては、真実がつかめないまま結果的に対策を誤る可能性があるし、

   いたずらに論争を長引かせ、対立を深めてしまいかねない。

   問題を正しく区分けしたい、としつこく書くのもそんな思いからである。

 

(花粉交配用ミツバチの) 「不足」 は起きているが、

その原因はCCDと言われる 「働き蜂の失踪」 ではない。

国内での 「失踪」 の実態は明らかでない。

ということなのだが、とはいえ、ただ手をこまねいて傍観しているわけにはいかない。

 「事件は現場で起きている」 だけに、コトは複雑なのだ。

昨年4月に名古屋大学の門脇辰彦准教授が実施したアンケートでは、

CCDに似た現象を経験した養蜂家は約四分の1にのぼっており、

その多くは 「農薬が原因ではないか」 と感じ取っていることが浮かび上がっている。

 

原因は未解明としても、農薬の可能性は、否定できない。 

なぜなら農薬が 「大量死」 の原因のひとつ であることはほぼ間違いないからだ。

ここで 「大量死」 の問題が絡んでくる。

中村教授によれば、養蜂被害の30%は農薬が原因だという。

藤原さんは先に書いたとおり、「大量死とCCDは、つながっている」

と確信している (しかしそれを言い切っちゃうと反発も起きる)。

 

可能性があるのなら、現場サイドでも手は打っていかなければならない。

そこでネオニコチノイド系農薬も必然的に検討の遡上にあがるのだが、

僕らが前提としているスタンスは、

農薬は一つ一つの毒性によって判断しなければならない、である。

「○○○系」 といって十把一絡げにして扱うなんて乱暴なことは、したことがない。

現にミツバチへの影響のある農薬はネオニコ系だけではない。

有機リン系、カーバメイト系、ピレスロイド系・・・といった農薬のなかにもあるのだ。

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増野の熊谷さんのように、リンゴの減農薬栽培を進めるのに、

ただ防除の回数を減らすだけでなく、

人や環境への影響度の強いものを出来るだけ排除しようと努めた結果、

現状においてネオニコ系農薬も防除計画に組み込まれているというケースは、実は多い。

彼らの姿勢を批判の対象にしてはならないと思う。

ましてや、ハチが飛ぶ開花期には農薬散布をしない、という配慮をしている人たちである。

彼らとこそ連携を強固にして、前に進みたいと思うのである。

 

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(ハチの扱い方について質問する、茨城から参加した小野寺孝一さん。

 美味いメロンをつくる生産者である。)

 

そこで、大地を守る会のなかで定期的に開いている生産基準の検討会議では、

以下のネオニコチノイド系農薬を 「できるだけ使用を控える」 農薬として

指定する方向でまとまりつつある。

  イミダクロプリド(商品名:アドマイヤー)、クロチアニジン(ダントツ)、

  チアメトキサム(アクタラ)、ジノテフラン(スタークル)、ニテンピラム(ベストガード)

それぞれにLD50(半数致死量) や影響日数などのデータをもとにした判断である。

「できるだけ~」 とは、生産者と一緒に代替策を考えながら、

完全に排除できると判断した段階で 「使用禁止」 農薬に設定するというレベルになる。

批判には提案が伴わなければならない。

 - これが僕らの 「対策・その②」 であり、

   同時に 「ネオニコ、ネオニコ」 と批判する方々にぶつけたい 「提案・その②」 である。

 

イネのカメムシ被害への対策は、小林亮さんが語ったように、

有機農業の世界が答えを出してくれることだろう。

加えて周辺環境の整備が求められる。

そこで訴えたいのが、こういった生産者の取り組みを支えるのが他でもない、

「消費の存在」 だということ。

カメムシ斑点米があっても食べろとは、流通サイドからはなかなか言えないことだけど、

少しの理解はお願いしたい。

温暖化の影響で、暖地のカメムシがどんどん北上していたり、越冬するようになって

繁殖力を強めている、という事態もちょっと想像していただけると有り難い。

今年もカメムシが多発した地域では、

ネオニコチノイド系農薬(ダントツ、スタークル) の散布が指導されている。

こういう状況に対する突破口は、有機農業の推進だと、僕は確信している。

ちなみに小林亮さんたちの地元(山形県高畠町) では、

農薬の使用に対する指導が適切にされているということで、

交配用ミツバチの確保に支障はきたしていない、との報告があったことも付記しておきたい。

 - これを 「対策・その③」 および 「提案・その③」 とさせていただく。

 

改めて再度、中村教授の指摘に耳を傾けてみたい。

ハチの採餌エリアが、農産物生産を目的とした農地 (の植物) に依存し過ぎる

ようになってしまったがために、農薬の直接的影響を受けることが多くなった。

背景の一つに林業政策の失敗があるのではないか。

杉山はハチが利用できる山ではない。

農地の植物 (野菜・果物) を餌資源として利用せざるを得ないということは、

(畑地とは目的とする作物に特化している 「用地」 であるために)

多様な植物が咲き競う自然生態系の衰えを示していて、栄養的ストレスももたらしている。

農地の整備、土地開発による餌資源の減少もある。

農業での花粉交配用資材としての需要増の時期 (秋~春) は、

ミツバチの増殖時期とずれているために、季節が逆の南半球からの輸入に頼る

構造になってしまっている。 これは農産物の自給率の見えない脆弱さを示している。

日本でのミツバチ産業を疲弊させたのは、ハチミツの自由化である。

輸入ハチミツとの競争下で養蜂業は斜陽化した歴史がある。

 

ミツバチ 「不足」 の原因は、実は複合的であり、

不足下の悪循環が、「大量死」 や 「CCD」 とも底辺でつながっているのかもしれない。

負のスパイラル的に。

複雑にからんだ構造的問題であるだけに、簡単に処方箋は出せないけど、

ただ二つの視点は提出しておきたい。

その1 - 農家がレンタルしたミツバチを、できるだけ健康を保たせてお返しできるように、

養蜂家から農家への養蜂技術の伝授を進めるべきだと思う。 農家にもメリットになるはずだ。

その2 - 農薬を問題にするだけでなく、みんなの力で出来ることがある。

四季折々に花を咲かせることで交配用昆虫を増やすこと。

食糧危機が叫ばれる中で増える一方の耕作放棄地や、道路沿いや畦道や、

あるいは家庭の庭などを使って、花粉と花蜜源を増やすのだ。

レンゲやヘアリーベッチなど、農業生産にメリットをもたらす植物も活用したい。

 - 以上を 「対策・その④」 として提示したい。

 

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おまけを言えば、もっとミツバチに親しむという意味で、昨今、ニホンミツバチを飼う、

という行為が、俄然人気を博してきている。

ニホンミツバチの世界は、知れば知るほど取り憑かれそうな魅力を感じさせる。

 

ずいぶんとしつこく書いてしまった。

それだけ慎重になってしまったということで、お許し願いたい。

今回のレポートにあたっては、勉強会で得た情報だけでなく、

以下の文献を参考にさせていただいたので、付記しておきたい。

 ・ 『ミツバチの不足と日本農業のこれから』 (吉田忠晴著、飛鳥新社)

 ・ 『ミツバチは本当に消えたか?』 (越中矢住子著、ソフトバンク クリエイティブ)

上記2点は、入門編としておススメ。

この問題をじっくり考えたい方には、次の書を-

 ・ 『ハチはなぜ大量死したのか』 (ローワン・ジェイコブセン著、文芸春秋)

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アメリカで発生したCCDの背景を追究した迫力ある作品である。

オーガニックへの期待も込められている。

福岡伸一さんの解説、ニホンミツバチの魅力に触れた追録もある。

ちなみに、ネオニコチノイド農薬にも切り込んでいるが、そこは慎重に読んで欲しい。

彼が示唆しているのは、農薬の複合的影響だから。

 

考えるほどに骨の折れるテーマだったけど、今回の勉強会は始まりでしかない。

我々の姿勢と現実的対応力が問われ続けることになるだろう。

逃げるつもりはない、という意思の表明で終わりにしたい。

キューバの革命家、エルネスト・チェ・ゲバラが、

「革命兵士とは何なのでしょう」 という若い兵士の質問に対して応えた言葉がある。

「農民こそが花であり、我々はミツバチなのだ」

 

農民が花ならば、オレたちはミツバチになろう! じゃないか。

 



2010年9月15日

ミツバチと農業 (続)

 

さて、話を急がなければ。

続いての講師は、岩手県盛岡市、藤原養蜂場場長・藤原誠太さん。

「日本在来みつばちの会」 会長として、ニホンミツバチの普及にも努めている。

藤原さんはネオニコ系農薬を批判する急先鋒の養蜂家として、

今やあちこちに講演に招かれるほどの有名人になっている。 

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05年、06年と岩手県内でのミツバチ被害を目の当たりにした藤原さんの主張は、

はっきりしている。

「ネオニコ系農薬が生れてからおかしくなってきた」 という現場での実感が彼にはあるのだ。

大量死の事例は過去にもあったが、8月になって発生することはなかった、と。

しかも、大量死とCCDは、死体が目の前に見えるか見えないかの違いはあっても、

両者はつながっている可能性があると、彼は読んでいる。

合成農薬がだいたい神経伝達物質を標的にするものである以上、その可能性は否定できない。

まさに 「事件は現場で起きているのだ」 派である。

 


藤原さんが真っ先に槍玉に挙げるのは、ダントツという殺虫剤 (成分はクロチアニジン)。

近年になって、イネのカメムシ防除で、有機リン系農薬(スミチオンなど) に替わって

よく使われるようになった。

岩手と同様の事故は、北海道や中部地方など各地で発生の報告がある。

 

岩手や北海道の 「大量死」 の原因は農薬であろう、

ということは中村教授も認めるところである。

しかも、ミツバチが直接浴びるだけでなく、花粉と一緒に運ばれ巣内で蓄積されると、

外役蜂(年寄りのハチ) だけでなく若いハチにも影響がでて、

蜂群の崩壊が進む可能性がある、というところまで、両者は一致している。

 

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生産者は現場感覚で断言し、学者は慎重に 「可能性がある(あるいは高い)」 と表現する。

立場の違いによる表現の差異は、聞く側のセンスで読み解けばいい。

しかしこれが、「ネオニコ」 とすべてをひと括りで語ったり、CCDの原因だ

と断定されるにいたると、学者は眉をひそめることになる。

原因 (犯人) を単純化してしまうと、

かえって真実が見えなくなる (対策を誤る、あるいは遅れる) ことも怖れる。

これは僕もその立場であることを表明しておきたい。

悪事をはたらいた会社の社員全員を悪人扱いするのは、アブナイ社会のすることだ。

それに農薬の影響でミツバチが大量死した事例は、

ネオニコチノイド系農薬が登場する前から実はあったのだから。

 

さて第二部。 ここからが大地を守る会ならではの展開だといえるだろうか。

実際に農薬を使用している農家にも登場してもらっての意見交換の設定、である。

これによってまたひとつ、違った現場の世界が見えてくる。

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まず今回、一研究者の立場として参加してくれた根本久さん。

(下写真左。 公的肩書きは伏せる。 こういう人が来てくれるのが嬉しい。) 

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根本さんの説明と主張はこんなだろうか。

- ネオニコといっても、ダントツとスタークル(成分:ジノテフラン) では影響は違ってくる。 

  また、かつての有機リン系に戻せばよいワケではない。

  防除せざるを得ない現実があるのならば、選択にあたって正確な情報提供が必要だ。

- なぜミツバチが花蜜のない水田に立ち寄るのか。 水を求めてきていると思われるが、

  花粉を求めてきているとすれば、その時期に周囲に花粉源が減少していることも

  考えなければならない。

- ハチへの影響があるものは、サイズの小さい天敵昆虫にはもっと強い影響を与えている。

  また米国では乳幼児へのリスクがあるということで、有機リン系の全面禁止に動いている。

  事はハチとネオニコだけではない。

  農薬の影響評価の全面的なやり直しが必要な時期にきている。

 

根本さんの隣は、長野の農事組合法人増野・熊谷宗明さん。

リンゴや洋ナシを栽培する熊谷さんには少々居心地の悪い場だろうけど、

率直に発言してもらう。

「リンゴの減農薬栽培をやる上で、ネオニコ系農薬は防除計画に入っているし、

 実際に使っています。 急性毒性が弱いという部分もあります。

 有機リン系の農薬を使っていたときは臭いがきつくてつらかったですが、

 ネオニコに替わって楽になったのは事実です。

 ハチへの影響も考慮して、開花期には防除しないという申し合わせもしながら

 やってるんですけど・・・ 」

 

移動養蜂でハチミツを生産する (株)フラワーハネー代表の西尾清克さん。

北海道で採蜜中という忙しいなか、参加してくれた。

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1月の三重から始まって岐阜、北海道と、ミツバチと一緒に移動しながら蜜を集めている。

今年の北海道は集中豪雨が多く、まったく採れない状態だという。

雨の影響は野菜だけじゃないということか。

農薬散布期になると急いで山に上げるといった苦労も聞かされる。

交配用ミツバチも農家とリース契約で出したりしているが、

農家から帰ってきたミツバチは弱っていて使えないのだとか。

農家がミツバチの扱い方を知る必要がある、というのは、

生産収益率を上げる意味でも、また輸入依存率を下げていく意味でも、

けっこう重要なポイントである。

 

山形から来ていただいた、おきたま興農舎代表・小林亮さん。 

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長いこと無農薬でコメを作ってきたが、カメムシで苦労したことはそんなにない。

コツは、チッソ濃度を上げないこと、そして畦の雑草管理にある。

カメムシの棲み家にならないよう草刈りをするが、穂が出た後は逆に刈らずにおく。

カメムシは決して稲が好きなわけではない。

畦に留まらせて、稲を吸いに侵入しなくてもよい環境にするのである。

 

それを受けて根本さんが補足する。

カメムシが水田に集まらないよう、河川敷の草も刈らないようにしているところがある。

棲み家を残してやるのだ。

キレイにすることだけを考えていると、水田に皆集まってくる。

結局農薬に頼らざるを得なくなる。

イネの花が咲く時期に、周囲にもっと花蜜源があるようにすることも大切である。

農薬に頼らない生産方法の普及と、ミツバチに影響を与えない環境整備、

それらが総合的にリンクした施策が求められる。

 

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農家と養蜂家が農薬をめぐって対立するのでなく、

共存に向けての処方箋と環境づくりを進めなければならない。

それは可能である。 共同のテーブルさえできれば-。

始まる前は、正直ヒヤヒヤしていたのだが、何のことはない、

みんな前向きである。

 

多少、伝え残したところがあるか。

あと一回いただいて、まとめとしたい。

 



2010年9月14日

ミツバチと農業

 

ようやっと夜が涼しくなってきて、

この夏ハマってしまった省エネ・水シャワーも終わりかな、という今日この頃。

日々先送りしていた気がかりな宿題を片づけておきたい。

8月26日(木)、東京は神宮球場の隣にある日本青年館にて開催した

「ミツバチと農業」 勉強会の報告を。

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数年前からミツバチに異変が起きている、そんな話を聞いた方も多いことかと思う。

ミツバチが不足して農業生産に影響を与えている、

あるいは原因不明の大量死が発生している、

あるいは突然女王蜂を置き去りにしてハチが姿を消す蜂群崩壊症候群(CCD)・・・など。

しかしどうも情報は錯綜していて、やや短絡的な報道も見受けられる。

中には 「いい加減にしてよね」 と言いたくなるような論評もあったりする。

 

冷静に事態を見つめ直し、私たちのとるべき方向性を見定めていきたい。

そんな問題意識で、大地を守る会の生産者会議のテーマとして初めて設定された。

 

お願いした講師はお二人。

まずはミツバチ研究60年の歴史を有する玉川大学ミツバチ科学研究センター

教授、中村純さん。 

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中村さんは養蜂専門の学者らしく、

ミツバチを取り巻く現状と農業とのかかわりを概括的に説明してくれた。

蜂の巣を連想させる絵柄のシャツを着てきたところに、

ひそかなツカミのねらいも感じられたりして。

 


まず 「養蜂 (ようほう)」 といわれる産業は、日本においては畜産分野に位置づけられている。

つまり動物を飼育して生産物を得る分野という意味で、

ミツバチは昆虫ではあっても 「家畜」 なのである。 

しかしこの家畜は、餌を生産物に転換する、たとえば穀物を与えて肉をつくる、

というような他の動物とは決定的に異なる。

彼らは自然の資源 (植物の花) から蜂蜜という 「生産物」 をつくる (濃縮させる)、

という  " 働き "  によって我々に貢献してくれている。

養蜂業とは、蜜や花粉を集めて回るという、ミツバチが生きるための行為を

うまく管理しながらその生産物を頂く、という共存のシステムによって成り立っている。

 

ところが今日においては、実はミツバチはもう一つの役割のほうが

経済的には重要になってしまった。

ミツバチは、花粉を採取する際の行動によって、

おしべについていた花粉がめしべに移る 「花粉交配」 を助けている。

植物が花の形や色や匂いなどで動物を呼ぶシグナルを発し、

訪れた動物は蜜や花粉をもらっては交配を助けるという、

これこそダーウィンが  " 忌まわしき謎 "  と呼んだ、

億年単位の時間をかけて創りあげてきた植物と動物の共存共栄の仕組みなのだが、

この宿命的提携関係を利用しているのが、今日の農業というわけなのである。

人間がハチを使って野菜や果物を効率よく生産する技術は、

この半世紀近くのうちに実にいろいろな作物に利用されるようになった。

イチゴを筆頭に、メロン、サクランボ、スイカ、トマト、ナス、キュウリ、カボチャ、

タマネギ、リンゴ、モモ、ナシ、ウメ、マンゴー、ブルーベリー ・・・・・

農業に利用するとは、花粉交配用にミツバチが売買 (あるいはレンタル) されるということである。 

 

そして今や直接養蜂生産物 (蜂蜜、ローヤルゼリー、蜂ろう) より

花粉交配による経済貢献 (交配によって得られる作物総生産高) のほうがおよそ5倍、

全体の98%に達する、という具合だ。

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ミツバチによる交配の助けがないと、クリスマス・ケーキにイチゴは乗らない。

それどころか農産物の供給は年じゅう不安定になるだろう。

ましてやミツバチが滅んでしまったら ・・・

アインシュタインが言ったと伝えられている言葉がある。

「ミツバチが絶滅したら、人類は4年で滅亡する。」

実際にアインシュタインが言ったという文献的根拠はないのだが、

それくらいミツバチの働きは重要なのだという警告だと思えば、伝承されるのも頷ける。

 

ま、学者である中村さんに言わせれば、

「主要穀物は風媒花かイネのように自家受粉する作物なので、食料危機には直結しない」

ということになるのだが (ちょっとつまんない?)、

しかしそれも、あくまでも 「ミツバチ利用作物がなくても、それだけでは死ぬことはない」

という食料生産量の数字上の話である。

ミツバチをめぐる今日の状況は、" アインシュタインの警告 (予言と言う人もいる) "

がまことしやかに語られるだけの不安な兆候を見せてきているのはたしかなのだ。

 

ただ、ミツバチの 「不足」 と 「大量死」 と 「働き蜂の失踪(CCD)」 が

ごっちゃになって語られ、また不安を煽る論評もあって、

中村さんたち専門家を苛立たせてしまっている。

 

「不足」 の原因はといえば、最大のきっかけは2007年11月、

オーストラリアから輸入していた女王蜂に

ノゼマ病という病気 (監視伝染病) が発見されたことによる輸入停止である。

それによってイチゴ農家などの需要に対してミツバチの欠品が発生し、

価格の高騰=農業生産コストの上昇 - 採算割れ (=生産の減退) という現象が生まれた。

またハワイから輸入していた女王蜂からは

バロア病という伝染病の原因となるダニが発見され、こちらもストップされたのだが、

国内でも発見され、新たな被害が拡大している。 これも要因のひとつらしい。

さらには気候変動による影響も指摘されるが、因果関係は未解明の世界である。

そもそもなぜ輸入なのか、についてはあと回しにして先に進みたい。

 

一方で5年前に、岩手県で大量に死んだミツバチから農薬が検出されたことによって、

農業生産現場での農薬散布が原因でミツバチの 「大量死」 が発生している、

という事例が報告されるようになった。

岩手で検出された農薬は、「ネオニコチノイド系」 農薬のクロチアニジン。

ネオニコチノイド系農薬は、人への毒性が (これまでの農薬に比して) 低いということで、

90年代から使用が増えてきた新しい系統の農薬群である。

しかし花粉交配昆虫への影響度の度合いにより、

使用にあたっては 「ミツバチへの影響」 の注意喚起がされている農薬がある。

クロチアニジンはそのひとつである。

具体的な話はあとに回して次に進みたいが、記憶しておいてもらいたいことは、

ネオニコチノイド系農薬にも多種あって、ミツバチへの影響度は個別に異なるという、

ある意味であたり前の前提である。

 

さらに話をややこしくさせたのは、2006年の秋から

(現実にはその前から予兆的に発生していたのだが)、

北米大陸で原因不明の 「ミツバチの失踪」 が多発したことである。

それは女王蜂を残して働き蜂が忽然といなくなる (巣に戻らない) という現象で、

「蜂群崩壊症候群(CCD)」 と名づけられた。

 

「2007年の春までに、実に北半球のミツバチの四分の一が失踪したのである。」

    (ローワン・ジェイコブセン著 『ハチはなぜ大量死したのか』 文芸春秋刊 より )

 

原因はまだ諸説紛々なのだが、大量 「死」 も確認できないという不気味な現象は、

" アインシュタインの予言 "  を想起させるに充分な要素を持って

私たちの視界に出現したのである。

 

日本でも経験した養蜂家はいる。

しかしその原因は農薬とはまだ断定できない、というのが今の調査研究段階なのだが、 

日本国内では、「不足」 も 「大量死」 も 「CCD」 も、すべてネオニコのせい、

という論調に支配されようとしている。

中村さんにしてみれば、それぞれの原因が何によるのかを正確に見極め、

あるいは複合的な要因ならその問題も整理して有効な対策を立てていかないと、

かえって取り返しのつかないことになる、という感覚がある。

でなければ養蜂家だけでなく、農家にとっても不幸なことだ、と。

 

そこで次は現場の養蜂家の登場となるのだが、ここまでで話が長くなってしまった。

このテーマに関しては、とても慎重になっている自分を自覚する。

視野脱落が怖い。。。

冒険的な断言も避けなければならないと思っている。

だからといって、 「いい勉強会でした」 で済ませたくもない。

続きは明日 (もしかしたら数日後) に。 すみません。

 



2010年9月 5日

祝の島

 

山口県熊毛郡上関町祝島 (いわいしま)。

瀬戸内海・周防灘に浮かぶ周囲12kmの小さな島。

瀬戸内海屈指の豊かな魚場に恵まれ、釣り人のメッカとも謳われる。

島内は山の傾斜を利用してミカンやビワ栽培が営まれている。

大地を守る会も一時期、無農薬のビワの販売でお付き合いした時代がある。

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海と山しかないのどかな島。

一方で祝島といえば 「原発反対運動の島」 として全国にその名を馳せる島でもある。

この島に、8月21日(土)~22日(日)、

大地を守る会の専門委員会 「大地・原発とめよう会」 の主催でツアーが組まれた。

10数人ほどの会員が島を訪ね、島民たちと親交を温められた。

僕も誘われたのだが、実はこの日程は、

大和川酒造の佐藤工場長たちと飯豊山に登る計画を立てていて、お断りするしかなかった。

結局は仕事でどちらも行けなくなってしまったのだけど。。。 哀しいね。

 

ツアーに参加したU君から写真が送られてきたので、お借りして、紹介したい。

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この平和な島に原発問題がふって涌いたのは1982年のこと。

上関町長が町議会で原発誘致の意向を表明したのだ。

翌年、祝島漁協が原発反対を決議して、長い長いたたかいが始まった。

 

「上関原子力発電所」 の建設予定地は

祝島から4km東の対岸にある上関町長島の田ノ浦湾。

この美しい名前の湾を埋め立てる計画である。

建設されれば、祝島島民は目の前に原発を見ながら日々暮らすことになる。

おそらく観光客は激減することだろう。

今年からいよいよ埋立工事が始まることになったが、

現在のところ島の人たちの必死の実力阻止にあって着手できていない。

 

島民のほとんどは建設反対だが、あくまでも 「ほとんど」 であって、

島には今も深いしこりが刻まれている。

そんな中で、島民たちはこの28年間、毎週月曜日に欠かさず島内デモを行なってきた。

「原発ハンターイ、エイ、エイ、オー!」 という掛け声をかけながら、

集落の路地裏まで練り歩くのだ。

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毎週のデモは、みんなの結束を確かめ、島の意思が衰えてないことを示すだけでなく、

実はおっちゃんおばちゃんたちの楽しいお喋りの場でもあったりする。

犬もハチマキして参加していたりして。

実は僕も一度この島を訪ね、月曜デモに参加したことがある。

1987年の、季節は秋だったか。

(デモの、エイエイオー!にはちょっと馴染めなかったけど・・・)

 

祝島漁協組合長(当時) の山戸貞夫さんが反対運動のリーダーで、

大地を守る会は漁協を通して無農薬ビワやビワ茶の販売で支援をしたのだった。

今回のツアーでは、山戸さんの息子さんと交流できたとのこと。

またビワの生産者を取りまとめてくれていた坂本育子さんは、

僕のことを覚えてくれていたようで、とても嬉しく思った。

 

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祝島はまた、岩の島でもある。

掘っても掘っても出てくる岩を家の練塀や段々畑の石垣に利用してきた。

傾斜のきつい山だが、島民は島の隅々まで利用し、共生して生きてきたのだ。

 

これは平満次さんの棚田。 

1段5メートルはあるだろうか。落ちたら死にそうな棚田である。

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この石垣を、満次さんの祖父、亀次郎さんが一代で築いたというから驚愕である。

子や孫の代まで米で困らないようにと願いながら、

巨大な岩石を一個一個運んでは積んでいったのだという。

日本人の米に対する恐るべき執念を感じさせる。

 

ツアー一行と語らう平さん。

眼下は海。 こけたら一気に海まで滑落しそうな風景だ。

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こうやって島の風景は人の営みとともにつくられてきた。

海の環境を守るのも、実は漁民の倫理と矜持(きょうじ) こそにかかっているのだ。 

原発は、自然も、人々の絆も、人と自然の絆も、傷つけてしまう。

それは営々と紡がれてきた絆の歴史を愚弄するものでもある。

反対する現地の人々が嫌悪するのは、そういう精神への冒とくを感じるからだ。

 

賛成あるいは推進する人々は現地の深い苦悩を慮ることがない。 

だから 「公共」 の名のもとに 「人 (あるいは自然) は死んでもいい」 に票を投じることができる。

その究極の選択が 「戦争」 だと思う。

反対した人は敵となった人々の死にも自身の判断の責任を考えようとし、

賛成派はだいたいが他人事のように批評する。

 

ま、戦争はともかく、原発に 「公共」 性としてのメリットがはたしてあるか、

これはとことん慎重に議論したいところだ。

あらゆる観点から見て、原発は本当にどれだけの貢献をしてきたのだろうか疑問である。

未来永劫にわたるリスク管理 (ストレス社会) を子孫に強制し、

建設から廃炉・廃棄物管理に至るコストは補助金 (税金) なしには採算は合わない。

事故はレベルによるが、最悪の場合、取り返しのつかないたくさんの生命危機につながる。

原発受け入れで得られるのは交付金や法人税による経済効果だが、

他人のお金(税金) をあてにして、持続可能な社会資産を差し出していいのか。

海と共生しながら暮らしていきたい、とはそういう意味で

基本的人権以上の意味を持つものだと思う。

昨日に続いてジャレド・ダイヤモンド (カリフォルニア大学教授) の言葉を借りるなら、

 「先進諸国が現在味わっている繁栄は、預金口座にある環境資本

  (再生不能のエネルギー源、天然の魚介資源、表土、森林など) を食いつぶすことで

  得られたものだ。 引き出した預金を稼いだお金と勘違いしてはならない

ということだ。

 

ましてや、今のエネルギー政策の世界潮流は、石油やウランなど枯渇資源に依存しない

太陽エネルギー経済に移行しようとしている。

地球に降り注ぐ太陽エネルギーの1万分の1を効率利用できれば、

エネルギー問題はなくなるとまで言われているのだから。

そのための技術確立に向けての推進力が加速している。

引っ張っているのは砂漠の産油国である。

西欧諸国もそこで技術提携の権利を得るのに躍起である。

日本は乗り遅れようとしている。

 

次世代エネルギーの覇権争いはすでに 「原子力発電所」 ではない。

誰も電力不足を感じていない中で、

中国地方の電力需要は増える、という前提のもとでの、

28年に及ぶ建設をめぐる争いなど、もうやめたほうがいい。

 

エネルギー源は、空と海と大地にあるのだ。

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祝島周辺海域には、国の天然記念物であり絶滅が危惧されているスナメリ (小型のクジラ)

や海鳥・カンムリウミスズメの生息が確認されている。

科学者から活断層の存在も指摘されながら、ちゃんとした調査は実施されていない。

 

こんな島の人々の暮らしと自然を、実に優しい目線でとらえた映画がある。

纐纈(はなぶさ) あや監督作品 『祝(ほうり) の島』 。

ゆったりと生きながら、しかし敢然と原発を拒否する島の人々の強さとその意味を、

「原発は必要だ」 と思っている人たちにも見て欲しいと思う作品である。 

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東京では現在、東中野 「ポレポレ東中野」 で上映中。

一日1回、19:00~で、今月10日まで。

ご来場者には、当会からのプレゼント応募用紙が配られています。

応募された方から抽選で50名様に、

祝島の対岸・愛媛県は明浜町の生産者団体 「無茶々園」 のちりめんをプレゼントします。

どうぞご応募ください。

 

以上の写真はすべて内田智明さんからの提供です。

原発ネタは久しぶりだけど、写真を見て、ちょっと熱くなりました。

感謝します。

 



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