「有機農業」あれこれ: 2009年7月アーカイブ

2009年7月21日

全国モデルタウン会議

 

霞ヶ関・農林水産省の7階に、定員200席ほどの講堂がある。

ここで今日、初めての 「全国有機農業モデルタウン会議」 が開催された。 

 

有機農業推進法ができ、全国各地にその推進モデルタウン地区が生まれた経過は

これまでも書いてきた通りだが (たとえば6月8日付日記)、

今回は、全国47地区のモデルタウンの関係者を一堂に集めて、

それぞれの進捗や課題を共有し、推進力をアップさせようという狙いで開催されたものだ。

これ自体は農水担当部局の意欲の現われと評価してよいのかもしれない。

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モデルタウンの主体である関係者に各県行政の職員たち、農水本省や農政局職員、

流通 (大地を守る会はこの範疇に入れらている)、一般参加者など、

合わせて300名近い参加者となって、パイプ椅子が増設されるほどの盛会となった。

これを有機農業の発展が加速されている証しとして語ることもできようが、

その実、地区によって進捗にかなりの差があり、現場の悩みもけっこう深いものがあって、

むしろ他地区の状況に対する関心の強さをうかがわせるものだと感じた。 

要するに皆、真面目に取り組んでいるのである。

 


農水省からの経過と全体の進捗報告から始まり、

5地区の活動事例報告がある。

 

上の写真は、山形県・鶴岡市有機農業推進協議会の会長である

庄内協同ファームの志藤正一さんが発表しているところ。 

農民運動からスタートして30有余年、

彼ら自身ずっと反体制で生きていくのかと思っていたことだろうが、

今や農水省の講堂で先進地としての事例発表者である。

志藤さんからは、米を有機栽培するだけでなく、そのタネ自体も有機栽培されたもの、

というレベルへと進もうとしていることが報告された。

有機JASの 「調達が無理な場合は (一般の種子でも) 許容する」 という

「規定」 を守ればよい、ではなく、有機農業者自身の手で水準を上げていくという意思。

言われなくてもやる。 これぞ有機農業の主体思想だね。

 

福島・喜多方市・環境にやさしい農業推進委員会からは、

実績ある旧熱塩加納村での学校給食への地場野菜の供給の歴史をベースに

発表されたが、なかなかそれ以上の展開はできてない様子。

 

大地を守る会も構成団体になっている

千葉・山武市有機農業推進協議会 (以下、山有協) も事例発表者として指名された。

発表者は、さんぶ野菜ネットワークの事務局・川島隆行さん。

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山武市の紹介から始まり、当地での有機農業の歴史、そして山有協の結成から

本格的に新規就農支援の体制を作ってきたことが報告される。

1年目の昨年は、1週間から3ヶ月の短期研修が2名、3ヶ月以上の長期研修が7名。

そのうち新規就農が2名、研修継続が3名。

そして今年は、研修期間を6ヶ月として4名の受け入れを決定した。

1名の方が昨日より研修をはじめたそうだ。

課題は、独身者の新規就農の難しさ (金銭面や労力面、そして地域との関係作りなど)、

行政の推進体制の未整備、地域農家の問題意識の低さ、

住居の確保の難しさ(作業場つきの空き家がない)、といったところが挙げられた。

 

関与している者から見れば、地道な歩みとしか言えないのだが、

それでも会場から、研修生の宿泊とかはどうしているのか?

(答えは、山有協で空き家を借りて研修施設をつくった) など

基本的な質問が出るところを見ると、もっと苦戦しているところも多いようである。

研修を継続している3名の方が就農すれば、

初年度受け入れ者から5名の農業者が誕生したことになる。

これって、なかなかの数字なんだと、改めて思うのだった。

 

会場からは、農水省の予算の下ろし方への不満から、

有機農業をやっているがゆえに受けられない助成制度があることへの抗議のような発言、

さらには  " 減農薬推進にとどまってないか "  といった手厳しい批評まで挙がり、

有機農業者たちの気骨を感じさせる一方で、

どこか補助金に頼る傾向も生まれてきているなあ、などと感じた次第である。

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いずれにせよ、全国各地で有機農業を推進するための協議会が結成され、

それらが一堂に会して課題を語り合ったわけだ。

有機農業推進委員会会長の中島紀一さん(茨城大学) の言葉を借りれば、

これが 「コミュニケーションの皮きり」 となって発展させられるかが鍵である。

 

これまで生産者と消費者の輪の力で進んできた有機農業が、

推進法によって地方公共団体の役割が明記され、

行政と民間団体の共同によって推進する形がつくられてきている。

80年代から語られてきた " (有機農業を) 地域に広げる " という課題が

ここで一気に前進し始めたのだ。 法律というのはやっぱバカにできない。

 

若者の目も有機農業に注がれてきている。

一般の農家とも " 農業の未来 " を語り合える時代になってきた。

しっかりと着実に、次の担い手を育ててゆきたい。

 



2009年7月 3日

有機農業は進化する -米の生産者会議から(Ⅱ)

 

すぐに続きが書けなくて、間に一本挟ませていただいて、

遅ればせながら米の生産者会議の話、続編を。

 

福島県農業総合センターの実験ほ場を見学する一行。

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「福島型有機栽培技術実証ほ」 を見る ( 「ほ」 というのは 「圃場」、田畑のこと)。

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「福島型」 といっても特別に新しい技術を開発しているわけでなく、

様々な技術や理論を組み合わせながら、この地域に最も合った有機栽培技術を

確立させたいという、公僕たる研究者たちの実直な意欲が表現されたものである。

彼らなりに県の有機農業のレベル向上に貢献し、誇れる 「福島」 にしたいんだ。

前回も書いたけど、時代はようやく

研究者たちがこぞって 「有機栽培技術の実証」 を競うステージに入ったのである。

 

上の写真は、大豆との輪作を試みているほ場。

こちらは同じ条件下で、肥料を変えてみたほ場。

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他にも、小さく区切りながら色んな組み合わせを試験している。

温暖化対策という位置づけで、メタンの発生を抑制する試験ほ場なんてのもあった。

まあしかし、法律ができただけで有機農業が先端産業になったかのように

研究が盛んになるってのも、どうよ、と言いたいところもあるよね。

本当にやりたかったんだったら、もっと早くから取り組めよ、と

へそ曲がりの私は言いたい。

 

しかし農民は、そんな僕なんかよりはるかに現実派である。

研究ほ場は 「ふんふん」 という感じで、隣の人と喋くり合っているかと思えば、

興味を持ったものには、我先にと飛びつく。

 

試験場をあとにして、実際の " 現場 " (やまろく米出荷協議会の生産者の田んぼ)

に入るや、またたく間にみんなで取り囲んだモノがあった。

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いま、有機稲作でホットな話題となっている民間技術、チェーン除草機があったのだ。

 


 

「まあ、ちょっと私らなりに工夫して作ってみたんだけども・・・」 と、

ちょっと自慢したいげの佐藤正夫・やまろく社長。

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生産者の手づくりである。

これを人力で引っ張って進み、雑草を浮かせる。

こんなふうに。 

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「やって見せて」 という声が挙がって、実演してくれたのは山形の方。

「じゃあ、俺がちょっと見せっぺ」 と言う間もなく、裸足になって田んぼに入った。

実演してみる、じゃなくて、自分の体でこっちの性能を確かめたかったのではないか、

と我々は推測するのだった。

面白いねぇ・・・・・みんなの目の色が変わる民間技術での競い合い。

研究者は、まだまだ当分、後追い実証に追われることだろう。

 

けっして研究を揶揄しているワケではない。

これから続々と出てくるであろう研究成果は相当な力になるに違いない。

でもやっぱね、やっぱりホンモノの田んぼのほうが面白いのだ。

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しんどい、しんどい、と言いながら意地で有機に取り組んできた、岩井清さん。

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昨年は、全国食味コンクールで金賞を受賞して、

いよいよ 「有機で美味い米をつくる」 自信がみなぎってきた感がある。

やり続けてきた甲斐があったね。

 

岩井さんの田んぼに掲げられている看板。 もう10年経った。

 

みんなも負けてはいない。 内心は 「俺こそが一番」 と思っている。 

笑顔で語り合う中にも、百姓の矜持 (きょうじ) はぶつかり合い、

腹ん中で火花を散らせ、「よし、早く帰らねば (愛する田んぼが待っている) 」

と思うのだ。

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ということで、公園の木陰で解散式。

 

研究者にも期待はするけど、

現場で日々新しい工夫に挑戦し続ける彼らによって、有機農業は進化する。

明日の暮らしの土台を、弛 (たゆ) まず耕し続けてくれる人々である。

 



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