産地情報: 2009年7月アーカイブ

2009年7月29日

杜氏に感謝

 

ここは港区高輪、駅で言えば泉岳寺。

5月28日の日記で紹介した地酒と蕎麦の店 「良志久庵(らしくあん)」 にて、

宴席が催されたので、出席する。 

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我が大地を守る会オリジナル純米酒 「種蒔人 (たねまきびと)」 を造っていただいている

大和川酒造店(福島県喜多方市) で長いあいだ杜氏(とうじ、「とじ」とも) を務められた

安部伊立(あべ・いたつ) 氏の労をねぎらい、感謝する宴である。

安部杜氏は現在は引退しているが、蔵には機会あれば出張ってきてくれている。

 

今回集まったのは安部杜氏に手ほどきを受けた酒造り体験グループの皆さん。

大地を守る会では造りの体験まではやってないけれど、

大和川さんにオリジナル酒をお願いしてよりかれこれ16年、

毎年2月に開かれる大和川交流会には、今も新潟から駆けつけてくれるほど

杜氏には随分と親しくしてもらっている。

娘のように可愛がってもらった元職員もいたりして、

ぜひどうぞと声をかけてくれたのだった。

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記念の一枚を頂戴する。

「杜氏、お元気でなによりです。」

「いやいや、エビさんも白くなったのう」 と頭をなでていただく。

 


越後杜氏・安倍伊立、78歳。

人生を米と酒造りに傾注して60余年。

丁稚奉公 (でっちぼうこう、今では死語? ) から始めて、群馬、福島、愛知の蔵を経て、

大和川酒造に入り40年を勤め上げた。 

職人気質の厳しさを持ちつつも、素人の酒造り体験も喜んで受け入れ、

日本酒文化の心を伝える姿には優しさがあった。

それゆえか、スケベ爺(じじい) の一面も可愛い色気に見えるのだろう、

不思議に女性陣にモテるのだった。 我々野郎は敵わない。

 

参加した専門委員会 「米プロジェクト21」 のメンバーと。

 

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右端が、娘のように可愛がってもらった元職員、陶文子。

生き物博士・陶武利の連れ合い。 今や二人の愛娘のママである。

 

みんなに囲まれて、喜んでくれる杜氏。

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感謝の記念品と花束が贈呈される。 

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最後にみんなで記念撮影。

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たかが日本酒、されど日本酒。

良い酒は水や土とともにあり、人をつなぐ。

 

杜氏へ。

小千谷に帰って、これから米づくりの正念場ですかね。

豊作でありますよう。

そして来年の2月、また元気でお会いできることを願ってます。

 

良志久庵の熊さんにも感謝。

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喜多方に家族を置いて単身赴任状態。

自分用に大地の食材が欲しいとのこと。 今度は食料持って慰問に来ますね。

 

最後に、佐藤和典工場長。

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種蒔人基金を立ち上げてから、工場長も

水の源・飯豊山の環境保全に動いてくれている。

7月には、山小屋周辺のゴミ清掃登山を決行したとの報告があった。

送ってくれた写真を掲載したい。

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メールには、「行政もようやく本気になってきました」 とある。

「種蒔人」 を飲んでいただいている会員の皆様。

これがこの酒の力、です。

改めて呑ん兵衛の皆様に感謝申し上げます。

そして、1993年、思いだけしか用意してなかった僕らを温かく迎え入れて、

種蒔人 (最初の銘柄名は 『夢醸』 ) をしっかりとファンがつく酒として

仕込んでいただいた安倍伊立名杜氏に、深く感謝します。

 

この酒が飲まれるたびに、森が守られ、水が守られ、田が守られ、人が育つ。

 

基金のキャッチ・コピーです。 自画自賛? でも、悪くない、よねぇ。

 



2009年7月 6日

八郎潟から白神へ (Ⅱ)

 

二日酔いの最高の良薬は、うまい空気と清い水だ。

念願の白神山地を、黒瀬さんたちと歩く。 

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広葉樹林の森の中でもブナ林帯は、いつも水に覆われているようで、

最高の森林浴だと思う。

 

白神山地は、青森・秋田両県にまたがる標高1000~1200m級の山々で構成される。

人為の影響を受けず、分断されていないブナ原生林としては世界最大級で、

ほぼ純林として残っている。 ブナ林は保水力が強く、数々の川の源にもなっていて、

多種多様な動植物を育む。 もちろんヒトの生活水も賄ってくれている。

 

世界自然遺産に指定された区域のコアゾーン (核心地域) は約1万ヘクタール。

この地域にヒトが入るのは指定のルートに限られ、かつ届出が必要となる。

しかも秋田県側は学術調査や取材に限って許可が出る、入山禁止エリアである。

その周辺にバッファーゾーン (緩衝地域) が約7千ヘクタール。

僕らが今回歩いたのは、その外にある田苗代湿原 (たなしろしつげん:秋田県藤里町)

という地帯。 世界遺産区域から見れば麓にあたる位置だが、

紛れもない白い神の宿る山系の一角である。

 

水の涌く山を歩く。

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藪を越えると、突然、ここは涅槃 (ねはん) の地かと思わせるような湿原が現われた。

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ニッコウキスゲの群落だ。

 


黒瀬さんは、この時期を選んで誘ってくれたんだね。

草取りで忙しいっていうのに。 

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花弁を思いっきり広げて虫を呼ぶ。 この行為には意思がある。

この形も、色も、香りも、必要とする虫を集めるためにレベルアップさせてきたのだ。

虫たちに花粉を運ばせて、性質の違う個体と受粉させることによって、

植物は自然界への対応力 (多様性) を豊かにし、種を繁栄させようとする。

数億年の時間をかけて、花 (植物) と虫 (動物) が築きあげてきた共進化の形がある。

 

ドウダンツツジ。 -だと教えてもらう。

こういう姿を可憐だと表現したりするけど・・・ ああ、日本語をもっと究めたい。

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若い頃は、花の名などには興味がなかった。 

エコロジストっぽい講釈垂れたりしながら、

山はただ逞しい自分が欲しくて登っていただけだったように思う。

だから続かなかったのかな。

 

今は、何だろう・・・

こんな樹々の葉にも、素直に畏怖し、仰げるようになった気がする。 

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圧倒する緑を美しいと思う。 生命の美しさ以外の何ものでもない。

これは成長したのだろうか。 それとも、社会生活に疲れたのだろうか。。。。

 

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老木の風情は、山の守り神のようだ。

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熊や鹿や小動物に齧(かじ) られながら、何百年も大らかに皆を見守っている。

くそ! スゴすぎる。

そんな力強さにヒトも畏敬の念を抱き、その木に名前をつけたりするんだ。

 

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岩の上にタネが落ちたばっかりに大変だったろうが、

しっかり岩を抱え込み、根づいた者もいる。

苔むした岩に草が生え、土になるのにはまだ数百年はかかるか。

植物は、微生物も育てながら、一緒にこうやって土を作ってきた。

ヒトはその表土という名の地球の薄皮の栄養分で生きているのだけれど、

何でか痛めつけるのを気にとめないでいる。

 

ギンリョウソウ。 -だと教えてもらう。

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こいつも何かの役割を果たしているに違いない。

 

ホオノキ (朴の木)。 -だと、これも教えてもらう。

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これがホオノキか。 たしか下駄とか楽器とか、色々と使われている木だよね。

今はどうなんだろう。

 

樹々の葉っぱや枝や幹を伝って落ちながら、雨や雪は大地に蓄えられる。

水はゆっくりと地下に染み込み、沢から谷に落ち、川をつくる。

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この川が、青森の田も秋田の田も潤してくれる。

途中で汚れなければ、近海の海も、だ。

魚は上流の状態を感じとりながら生きている。

 

何度でも言いたい。

水と水を育む生態系はコモンズ (公共のもの) であり、未来のものでもある。

誰の手にも渡してはならないし、今の世代でダメにしてよいという権利もない。

 

この白神山地を世界自然遺産にするには、議論もあったようだ。

世界遺産になるとかえってヒトが入って荒らすことにならないか (このままでいい)。

いや、ちゃんと伝えて残す意味を分かってもらう必要がある。

このまま美しく残すには、残す意思が共通遺産にならなければならない、

ということで登録に動いたのだという。

やっぱり自然の天敵はヒトなのか・・・。 

 

ま、心洗われた、黒瀬さんに感謝の白神体験でした。

 



2009年7月 5日

八郎潟から白神へ

 

昨日から土日を使って秋田・大潟村に行ってきた。

実はこの時期に大潟村に来るのは初めてで、草取りの真っ最中でのお邪魔となった。

 

こんな田んぼの風景、日本ではないだろう。

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一枚が1町歩 (≒1ヘクタール) とか1.5町歩といった田んぼが、

1万5千ヘクタールに及ぶ平野部に整然と固まってある。

平野部といっても、ここは日本第二の湖・八郎潟の湖底だったところ。

1957年から20年、852億円の税金を投入して2万ヘクタールの湖を干上がらせた。

龍に姿を変えさせられた八郎太郎という心優しい男が、

十和田湖から流れ流れて、ここに棲みついたという伝説のある湖も、

大地に変わり、一大米どころとなったのだが、

思いっきり米づくりをしようと入植者が続々と入ってきた頃に減反政策が始まった。

国の政策に翻弄され続けた大地である。

八郎太郎はどこへ行ったのだろう。 天に昇ったか・・・。 

 

ここで無農薬での米づくりに挑戦し続ける黒瀬正さん。 

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減反政策に反対して米づくりをする以上、補助金には一切頼らず、

有機JASの認証も取らない。 しかし文書管理はしっかりやる。

これは彼のたたかいなのである。

 

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大地を守る会は、生産者も多様性に満ちている。


雑草対策は色々と試してきたが、何をどのように駆使しても、

やっぱり人の手は入らざるを得ない。

それにしてもこんな広い田んぼ。

見るだけで気が遠くなってしまう、容易ならざる作業だ。

おばさんたちがお喋りしながらやってくれているのが救いか。

 

黒瀬さんは、新しい有機稲作の技術は貪欲に吸収し、必ず試している。

現地への視察も頻繁に行く。

これは先日の米生産者会議でも登場したチェーン除草機の黒瀬版。

自作して、すでに検証している。

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大きな動力除草機も持っているのだが、

しかしこのほ場条件にあっても、黒瀬さんが今行きついている草対策は、

人力の除草機とマンパワーである。

「やっぱり、これやなぁ。」

 

こうやって除草機を押し、なおかつ人の手を入れる。

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これを3回はやる。

 

目を凝らしてみれば、いろんな虫がいる。

これはゲンゴロウの幼虫。 いっぱいいる。 

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カエルやクモにイトミミズ、タニシ・・・メダカやエビの一種も見つけた。

ここで生き物調査をやってみたいなぁ、という気になるのだった。

 

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減反政策反対の論陣を張ってきたゆえに、ダーティなイメージもついてまわる方だが、

丹念に、地道に、やることはやっている。

 

ライスロッヂ大潟の提携米には、ゆるぎないファンがついている。 

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紙袋にこだわり、封がうまくいかないとなればミシンまで自作する。

すごいもんだ。

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大地を守る会からの注文には、これで一袋一袋、封をして送ってくれる。

お手数掛けます。

 

コンクリ打ちから鉄骨の組み立て、機械の改良まで、

自分でできることは徹底して自分でやる。

黒瀬さんの倉庫には、随所にオリジナルの工夫が施されている。

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元滋賀県庁職員という安定した職場を蹴って、大潟村に入植して40年近く。

「どこでこんなに技術を学んだんですか?」

「何もかんも見よう見真似よ。 百姓は何でも自分でやるのよ」

と笑う黒瀬さん。 その創意工夫、飽くなき試行錯誤に脱帽する。

 

さて今回、この時期にやってきたのには、もう一つの目的がある。

世界自然遺産にも登録された白神山地のブナ林を見に行こう、

というお誘いを黒瀬さんからもらったのだ。 (続く)

 



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