2011年4月23日

ファイトレメディエーション

 

放射能による土壌汚染の程度によって、

米の作付を見合わせる (米を作るな) 、という指導がされ始めている。

この判断は、いいのか? 逆じゃないのだろうか?

 

 - と前回書いたが、思うところを書いてみたい。

 

昨日、原子力災害対策本部長・菅直人内閣総理大臣は、

福島県知事に対して指示を出した。

「貴県のうち、避難のための立ち退きを指示した区域 (半径20km圏内)

 並びに新たに設定した計画的避難区域及び緊急時避難準備区域においては、

 平成23年産の稲の作付けを控えるよう、関係自治体の長及び関係事業者に

 要請すること。」

 

そして農林水産省では、稲の作付けを禁じる基準として、

「土壌中の放射性セシウム濃度が土1kgあたり5,000ベクレルを超える水田」

と設定した。

これは過去のデータから、水田の土壌から玄米への放射線セシウムの移行は

10分の1と示されたことによる。

つまり、玄米中の放射性セシウム濃度が、食品衛生法上の暫定規制値(500ベクレル)

以下となるための土壌中放射性セシウム濃度の上限値は5000、というわけだ。

過去のデータとは、独立行政法人農業環境技術研究所が、

1959年から2001年まで、全国17カ所の水田の土壌および米の放射性セシウムを

分析した合計564の測定データで、それをもとにして算出された。

 

福島県内の水田113地点の土壌を検査した結果、

幸いにして (という言い方は不適切か)、20km圏内および避難区域外からは

基準を超える水田はなかったようだ。

避難区域はその意味からしても、営農そのものが持続困難なのだが、

それにしても、ただ 「作るな」 でいいのだろうか。

また仮に区域外で基準超過の水田が発生した場合においても、

「作るな」 より 「作らせる」 ほうがよい、と僕は考えるものである。

 


もちろんその米を人に食わせてよい、と言っているのではない。

稲が土壌の10分の1を吸い上げるのなら、何もしないより、

むしろ稲にセシウムを吸わせて土壌を浄化させる方がよい。

収穫された米は東京電力さんに買い取ってもらって、バイオ燃料にする。

燃料にしても移動したセシウムの問題はついて回るかもしれないが、

生命をつなぐ基盤である土壌からの除去・浄化は何より必須の課題である。

しかも、半減期30年というセシウムが相手なので、

基準値を超えた水田では 「来年はつくれる」 という保証もない。

何もしないで放置された水田はだんだんと再生が困難になってゆく。

「つくり続ける」、作り続けながら土壌の浄化を進める、のがよい。

 

土壌に蓄積された様々な汚染物質 (重金属類や農薬、PCB、ダイオキシン類等々) を

植物の持っている機能や力を利用して吸収させ、あるいは分解させることで

土壌を浄化する技術がある。

「ファイトレメディエーション」 という。

 

植物が大気や水を浄化する機能を持っていることは多くの人が知っていることかと思う。

逆に、植物によって特定の有害物質を吸収(蓄積)する特質があることも、

部分的ではあるが分かってきている。

こと放射性物質についていえば、

アカザ科の植物がセシウムに対する吸収特性が高いことが確かめられている。

アカザ科 -野菜でいえばホウレンソウ! だ。

福島原発事故はまさにそれを証明してくれた格好になったか。

しかしそれはまた、ホウレンソウが指標作物になる、ということでもある。

土壌からの除染だけを考えるなら、回転の速いホウレンソウを植えまくる、

という考え方も、ないわけではない。

現実には、そのホウレンソウをどうするか、だけど。

 

こういった植物を、汚染物質を吸収するからといって排除するのでなく、

むしろその力を借りて浄化に取り組もうというのがファイトレメディエーションである。

チェルノブイリ原発事故では、菜の花 (菜種) やヒマワリを栽培することで

土壌浄化に効果があったというのは有名な話で、

篠原孝・農林水産副大臣はこの手法を提唱している。

 

汚染土壌の修復に土の入れ替えといったことが言われているが、

20km圏内に加えて避難区域まで含めた広域にまたがる水田土壌を入れ替えるなんて、

不可能というより絵空事としか言いようがない。

とにかく物理的あるいは化学的な方法による修復は、べらぼうなコストがかかる。

ファイトレメディエーション技術は時間はかかるが、

エネルギー消費やCO2の排出といった環境負荷がなく、

汚染土壌の拡散を防止できるし、緑化にもつながる。

太陽エネルギーによって植物が生長する、ただそれだけで環境汚染物質を

土壌から吸い上げていくという、究極の環境調和型修復技術であり、

経済合理性に適った考え方として、

欧米ではすでにその応用、つまりいろんな形での産業化が進んでいるものである。

 

ファイトレメディエーションにはいろんな考え方・方法が研究されている。

生長中の植物の根から分泌される物質によって根の周りに微生物が増加する原理

を応用して、汚染物を分解・無害化する菌を繁殖させるという方法。

あるいは植物根や分泌物に汚染物質を吸着させることによって

固定させる (地下水への流出を防ぐ) といった方法、などなど。

 

読みにくいカタカナを駆使して書いているけど、ここまでくると要するに、

根圏微生物を増やす、つまりは土壌を肥沃にしていくことが、

有害物質の除染にも有効である、ということになる。

有機農業の力はここにある、というのがわたくしの結論である。

 

「化学肥料でも肥料効果は同じである。」

あるいは 「農薬は適正に使えば、農産物の安全性は同じである。」

こういう論がいまだに跋扈しているが、土から目線で言えば、

農薬は土壌に残留する有害物質のひとつであり、いずれ植物に吸収される。

化学肥料は植物を育てる食べ物にはなっても、土壌の肥沃性を増すものではない。

最終的に放射性物質も含めた汚染物質を除去あるいは固定・無害化する力は

菌であり、それを育てる土壌の力、ということになる。

土が豊かであるほど、私たちの健康は保たれる。

その関係にあることを忘れてはいけないだろう。

 

私たちが有機農業を目指す生産者たちを大事にしたいと思うのは、

環境修復の担い手でもあると思うからだ。 

それは長期的な時間でみれば経済合理性にも適っている。

 

いずれにしても、自然界の力と調和しながらきっちりと安定化させていく、

といのが最も効率がいい、ということになると思うが、いかがだろうか。

 

大切な食料基地でもある福島を、荒涼とした大地にしてしまうのでなく、

稲やヒマワリや菜の花を咲き誇らせながら修復へと向かおうよ。

その田園はきっと僕らに 「希望」 を語りかけてくれるはずだ。

 


Comment:

 なすべき事が少し見えました…
 あとは、施策する側にどう納得させ実行を促すか。
 反原発の想い、行動が間に合わなかった事へのザンキの念を生かしたい、です…。

from "ナッティ" at 2011年4月25日 11:14

ぼんやりと植物の力を考えていたのがハッキリしました。
休耕田がいろんな地方で本当に取り返しのつかない荒れ地に成り果てているのに怒りを感じる事度々。
是非、一挙三得にもなりそうなこの手段を取り上げて欲しいと思います。

from "カメ" at 2011年4月25日 15:02

私も同じようなこと考えていました・・・
でも、この国で実現することの難しさが心から悔しい。

また戎谷さんにとてもお会いしたいです。
腹をわってお話する機会にまだ恵まれていませんが、尊敬しています。
私も自分のできることをひとつひとつ・・・すすめています。
リスクについて、もっと消費者に知らせなければ・・・と思っています。
一緒に、ぼちぼちと・・・歩いていきましょう。


ナッティ様、カメ様、なっちゃん様

有り難うございます。なんだかすごく心強くなっておりまして、具体的な可能性に向けて動き始めています。ただこれにかかりっきりになれないので、動きは遅く見えるかもしれません。逐次報告していきますので、時々は覗いてみていただけると嬉しいです。

ところで、なっちゃんさん
ワタシは尊敬されるのに慣れてないので、こういうコメントには…ただウロウロするばかりです。とても恥ずかしいです。でも精一杯頑張りたいと思ってますので、今後ともどうぞよろしくお願いします。

from "戎谷徹也" at 2011年4月28日 15:26

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