2011年9月21日

深層崩壊をもたらす放置人工林

 

台風12号の傷痕もまだ痛々しいところに、15号が襲ってきた。 

またもや全国各地に災害をもたらし、各産地の農産物にも被害が出ている。

収穫や出荷が遅れるだけでなく、実が落ちたり傷んだり・・・

産地担当も各地の情報を集めながら、生産者の無事に安堵しつつも、

一方で品揃えに苦慮するのである。

しかし思えば、豊作でも頭を下げ、不作でも頭を下げ、なんだよね。

こんな日々が延々と続くのが農産物仕入の宿命なのかもしれない。

 

自然現象に対して怒りをぶつけても仕方がなく、

まあ人が無事なだけでも 「よかった」 という台詞が口をついたりする。

つくづくこの列島の人々は、自然に対して受容的というか 「耐え忍ぶ」 民だと思う。

哲学者・和辻哲郎が昭和初期に著した 『風土』(岩波文庫) の有名な一節。

 「 湿気は人間の内に 「自然への対抗」 を呼びさまさない。

  その理由の一つは、陸に住む人間にとって、湿潤が自然の恵みを意味するからである。

  洋上において堪え難いモンスーンは、実は太陽が海の水を陸に運ぶ車にほかならぬ。

  この水ゆえに夏の太陽の真下にある暑い国土は、旺盛なる植物によって覆われる。

  ~ 大地は至るところ植物的なる 「生」 を現わし、

  従って動物的なる生をも繁殖させるのである。

  かくして人間の世界は、植物的・動物的なる生の充溢し横溢せる場所となる。

  自然は死ではなくして生である。 死はむしろ人間の側にある。

  だから人と世界とのかかわりは対抗的ではなくして受容的である。

  それは砂漠の乾燥の相反にほかならぬ。」

 

しかし現代における自然災害は、

そんな 「自然な」 事象によるものだけではないことにも

目を向けなければならなくなってしまっている。

 

実は9月6日の日記で、台風12号の影響を心配しつつ、

「元々雨の多い熊野地方で、深層崩壊らしい山崩れが起きるのだから、

 尋常な雨量ではなかったことと思う。」 と書いたところ、

山崎農業研究所事務局の田口均さんよりメールを頂戴した。

「深層崩壊」 の真の原因は雨量ではない。 放置人工林の問題がある、と言うのだ。

アッと思って、軽はずみな一文を反省した。

 


田口さんから紹介されたのは、

『植えない森づくり』(農文協) の著者、森林ライター・大内正伸さんのブログ である。

そこで大内さんは、僕が呑気な事を書いた翌日に

「深層崩壊も放置人工林が下手人」 との見解と解説をアップされていた。

ここで重要なところを転記し始めると長くなるので、

関心を持たれた方はぜひご一読いただきたい。

 

僕が迂闊だったのは、あの雨だらけの、深い谷を有する紀伊半島が、

それほどまでに人工林だらけになっているとは思ってなかったことだ。

しかも間伐も遅れた放置林でそこまで荒廃してきていることにも。

熊野の強いイメージで、勝手な思い込みがあった。 

 

「深層崩壊と言われたその亀裂の始まりをみると、根の浅い線香林ばかりである。」

の指摘が重たい。

そして紀伊半島をフィールドとした生物研究家、故・後藤伸さんの講演録からの

引用の言葉が、どれも貴重である。

「照葉樹のまともな森林があったら何も怖いことはない。水害のもとにはならんのです。

 ~ もともと照葉樹林ていうのは、そういう雨の多いところで発達した森林ですから、

 そういう大雨に耐えるようにできとるんです。」

「結局、こういう山の生態系のつながりというのは 「原因」 と 「結果」 の間に

 20年とか30年とかいう長い時間がかかるわけです。

 ~ 昔は、植林によくないところは全部自然林で残しておったんです。」

 

昔から受け継がれた知恵を捨ててやみくもに人工林を増やし、

グローバル経済がその山を見捨てさせた。

" それくらいの雨 "  でニッポンの山が崩れ出し、人が埋まり、あるいは流される。

ああ、熊野ですら、である。

この崩壊現象は、なんだ。。。。 ヤバイね。本当にヤバイ。

 

まだまだ勉強が足りません。

田口さん。 貴重なご指摘、有り難うございました。

 


Comment:

ほんとうに、全部ヒトがやったことのツケが戻ってきてる感じですね。
忘れた頃にやってくる、本当に怖いですが、よく考えると、既に種がまかれている。
人間が力を過信したり、自然に対して暴挙を犯していたところをほんとによく狙ってくるなあと思わずにはいられないことが続いています。
これからの暮らし方もさらに見直していかなければ、と思います。

from "てん" at 2011年9月23日 21:03

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