2013年9月15日

反転耕にかけた未来への責任

 

いやはや、こき使われる毎日。

なかなかスピーディに続けられないですね。

でも続けます。

 

8月31日(土)、大地を守る会の放射能連続講座Ⅱ-第6回

『福島と語ろう! ~3.11を乗り越えて~』。

福島有機倶楽部・阿部拓さんの話を受けて、

コーディネーターの大江正章さんがフォローしてくれた。

 

有機倶楽部に残った2軒のうち1軒の方 (小林勝弥さん・美知さん夫妻)に、

大江さんは7月に取材で訪れている。

とても明るく元気な奥さんだが、話を聞いているうちに

感極まってきて、泣きながら当時の状況を話してくれたそうだ。

「 いわき市でも、2万4千人の人が避難を余儀なくされた。

 目立った活動をしている所ばかりが報道されがちだが、

 今も苦しんでいる地域がたくさんあることを知っておいてほしい。

 移る・移らない は各々に考えた末のこと。

 それぞれの選択を尊重しながら応援していく姿勢が

 私たちに求められているように思います。」

 

さて3番手は、

福島県須賀川市 「稲田稲作研究会」 伊藤俊彦さん(「ジェイラップ」代表)。

この2年半にわたって積み重ねてきた対策と、

そこから得られたデータを示しながら、伊藤さんは説明を進める。

どの知見も試行錯誤を経て獲得した  " 未来への財産 "  である。

 

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事故のあった2011年、伊藤さんたちは

「稲田稲作研究会」 メンバー全員の、341枚の田んぼごとに

土と玄米の測定を行なった。 

そこで一番高かった玄米の数値は 19.9 Bq(ベクレル)、平均で 3.11 Bq。

2年目となった昨年では、最大測定値が 11.8 Bq、平均値が 2.66 Bq。

着実に下げられたと思っている。

かたや、除染対策を行なっていない近隣の数値では、

最大値が 22.2 Bq、平均値が 6.71 Bq。

稲作研究会のほ場で、10Bqを超えたのは3つだったのに対して、

未対策地では66を数えた。

やれば結果はついてくる、

少しでも下げられるなら面倒でもやらなければならない。

それは生産者としての責任だと、伊藤さんは考える。

 

(注:数値はすべてセシウム134 と 137 の合算値。)

 


昨年福島県で実施された米の全袋検査では、

農家の保有米も含めて検査されている。

結果は、99.7%が 25 Bq(検出限界値) 未満だった。 

  (注... ジェイラップも検査所となって地域の米の測定を引き受けている。)

 国の基準(100 Bq) を超えた米は 0.0001%、

100万分の1という数字である。

50 Bq以上は再検査に回されている。

稲田稲作研究会では県より細かいデータを取り、

11年秋の収穫後に反転耕(天地返し) の実施に踏み切った。

これまでに 120 haの田んぼでやり終えている。

その結果として、反転耕実施ほ場では

10 Bqを超える田んぼはゼロになった (平均値 2.14 Bq)。

 

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福1原発事故によって私たちは、

水田が汚染されるという世界で初めての経験をしたことになる。

まったくデータがない中で、いろんな実験にもトライしながら、

伊藤さんたちはいくつもの知見を獲得していった。

 

その過程で、田んぼと畑の構造的な違いも発見する。

高濃度の土に水を加えて撹拌して置いておくと、

だんだんと重い土が沈殿していって、上のほうに薄く濁った水の層が残る。

その薄濁った水の濃度が高いことに気づいたのだ。

つまり、畑は耕すことで分散していくが、

水田は水を張ってかき回す代かきという作業があり

(目的は、土の塊を砕いて田面を平にすることで田植えをし易くさせる)、

そこで放射性セシウム(Cs) は、「代かきすると表面に上がってくる(戻ってくる)」。

どうも Cs をよく吸着するゼオライの種類によって、

比重の軽いものにくっついている可能性がある。

かき回しても表面に戻ってしまうのであれば、

まだ Cs が沈降していない 15 cm下の下層土と入れ替え、

下に閉じ込めることが最も有効な手だということになる。

その場所の空間線量も確実に下げられる。

 

また表面の土ぼこりは風に舞う。

除染しても、吹き溜まりの場所は濃度(線量) が戻ってしまう傾向がある。

春風の舞う日に、農作業する農家やその脇を通学する子どもたちに、

土ぼこりを吸わせてはいけない。

 

仮に 4 Bq の玄米を精米した場合、白米は 1 Bq 以下になる。

その米を研いで水を加えて炊飯すると、さらに 5 分の 1 になる。

今の米であれば、年間 60 ㎏(日本人の平均消費量) 食べても、

1000分の1 ミリシーベルト以下である。

 

土ぼこり 1 g を吸う方が、米を食べるより内部被ばくのリスクが大きい。

 

伊藤さんたちが反転耕を徹底してやると決めた根拠は、

科学的データと、大人としての将来に対する責任感、に他ならない。

自分たちが農業できればいい、国の基準未満ならそれでいいではないか、

という話ではないのだ。

農作物のためだけでなく、地域の人たちの健康被害をできる限り防ぐために、

やれることは、やる。

そういう姿勢を持った農家になろうと、伊藤さんは言い続けてきた。

 

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そんな取り組みが、地域全体にも認められてきて、

今年の秋から 3 年かけて 1500 ha の反転耕を実施することになった。

自分たちの田んぼさえ良ければ、ではない。

地域全体を守ることで、自分たちの米も家族も守ることができる。

伊藤さんたちは、その率先垂範を見事にやってのけたのだ。

 

他の地域で反転耕が進まない理由の一つは、

日本のトラクターでは歯がたたないからだと、伊藤さんは言う。

そこでジェイラップでは、EU製の150馬力の大型トラクターを手に入れた。

チェルノブイリ後に開発されたトラクターで、

キャビンのドアを閉めると気圧が変わって、外からの埃が入らない構造になっている。

オペレーターの健康にも配慮されたものだ。

日本のメーカーから、なんで日本製を使ってくれないのかと聞かれ、

「日本のトラクターは零戦だ」 と言ってやった。

農作業者の体のことなんか考えてないだろう、と。

 

「 数 km の面単位でやった時に、どれだけ線量が下がるのか。

 そのデータを、来年の春にはお見せしたい。

 そのために、今年の稲刈りが終わったら、すぐに作業に入ります。

 科学的根拠を持って、着々と進めていきたい。」

 

聞いてるだけで、胸が震えてくる。

僕たちは、命の糧を通じて、彼らとつながっている。

このつながりを築いてこれたことを、僕は腹の底から誇りに思う。

 

あと一回。

3人の言葉を拾って、終わりにしたい。

 

≪注≫

「大地を守る会の備蓄米」 については、

ゲルマニウム半導体検出器による自社測定を行ない、

すべてのサンプル玄米で 「不検出」(検出限界値=3 Bq) となっています。

 



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