あんしんはしんどい日記: 2011年7月アーカイブ

2011年7月26日

福島 -希望の道筋を探りながら

 

7月23日(土)、グラジオラスの花が咲いた。

 

5月の被災地視察の際にお会いした

飯館村の高橋日出夫さんからいただいた球根 が、

ついに花を咲かせたのだ。

 

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蕾がふくらんできたかなと思っていたら、

朝起きれば一斉に開いていた。  

 

グラジオラスを7月からお盆にかけて、

トルコギキョウをお盆から11月の婚礼期に、、、と

高橋さんが出荷計画を立てていた花。

あろうことか千葉・幕張の片隅で、たくさんの人に愛でられることもなく、

どこに飾られるわけでもないのに、それでも強く、健気に咲いてくれた。

やや切なくもあり。。。

 

難民と なれど孤高の 唐菖蒲  ・・・なんちゃって俳句。 失礼しました。

 

ま、そんな感じで少しカツを入れられた気分にもなって、

ありがとうの気を送り合って、出かけたのだった。

この日は 「稲作体験2011」 の2回目の草取りと蛍見会の日なのだが、

そちらはすべて実行委員諸君に一任して、

今日は二つの集まりのはしごとなった。

 

午後1時半から、四谷にて、山崎農業研究所 の総会とシンポジウム。

報告者として呼ばれたので、出席する。

 

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                    (写真は同研究所幹事の田口均さん提供)

 

本研究所とのお付き合いは、昨年、 福島県喜多方市山都町の 「チャルジョウ農場」主、

小川光さんが 「第34回 山崎記念農業賞」 を受賞 した際に、

お祝いのスピーチをさせていただいてからである。

 

その由緒ある団体の総会記念シンポジウムで

僕に与えられた課題は、「福島-希望の道筋を探りながら」。   


シンポジウムで最初に発表されたのは、同研究所幹事の渡邊博さん。

宮城から福島にかけての被災地をつぶさに見て回ってきての報告。

たくさんの現場写真を映しながら、被害の要因を分析し、

復興に向けた提言や問題点を指摘された。

 

詳細は省かせていただくが、この間いろんな学者・研究者の講演や報告を聞いては、

話の内容とは別に、いつもモヤモヤとした消化不良感が残ったりしたのだが、

渡邊さんの最後の言葉で、わだかまっていたものの真意が少し見えた気がした。

やや挑発的に、こう言い放ったのだ。

「(研究所創設者の) 山崎不二夫先生は、いつも

  " 現場を大切にしろ・現場から学べ "  と教えておられた。

 今こそその意味を捉え直し、実践しなければならない時ではないか。

 研究所がサロンになってはいけない。」

 

研究所への指摘については、僕には論評する資格はない。

農業土木史に名を残した故山崎不二夫東大名誉教授の思想に共鳴される

研究所会員の方々なら、当然現場を大事にされていることと思う。

いやだからこそさらに、という発破なのだと受け止めたい。

 

加えて、学者・研究者と言われる人たちは、僕が知る範囲では、

皆さんおしなべて血を騒がせながら現場を回ろうとしているように見える。

(現場を回らない方には出会えないから、

 僕は象の鼻だけ見ているのかもしれないけど・・・)

 

とは言え、どうも、、、なのだ。

専門家の現場分析が復興の社会政策づくりにつながってない感が

拭えないのだ。

銘々一所懸命に調べてはいろんな提言が語られるのだが、

それはいったいどこにつながっていってるんだろう。

僕の焦燥は、そこにあった。

 

実は、僕がここでのツカミに用意していた言葉は、

「今ほど生産現場が専門家を欲しがっている時はない」

だった。 渡邊先生の挑発に倣って言うなら、

「調べて論文を発表するだけですか。 現場からのメッセージは聞こえていますよね 」

という感じか。

ただ言うべきはここにいる方々に向かってではなく、さすがにそこは自粛した。

 

放射能汚染の影響を受けたと想定される範囲の生産者はすべて、

いま自分のほ場がどんな状態なのか、知りたくて知りたくて、焦っている。

その一方で、知ることはとても怖い。

ガックリくるような結果だったらどうしよう。

知ったら知ったで、その現実にどう立ち向かったらいいのか。

消費者は離れていかないだろうか、という不安も募る。

当然のことだ。

そこで彼らに勇気を与えるのは、事実に基づいた対策の提案と、

「やってみよう」 の後押しだと思う。 そして 「付き合う」 ことだ。

 

やってみよう。 やるしかない。

これは未来を守るべく、俺たちがやらなければならない仕事なんだから・・・

そんな 「希望」 に転化させたい。

僕らは今、充実させてきた分析機器をもって、

その勇気の後押しをしようと次のステップに進みつつあるのだが、

この挑戦に欠かせないのが、行動の裏づけと成果の科学的解析である。

 

やってみれば、成果がゼロだった、なんていう結果は、実は存在しない。

" ない "  と思ったときに、ゼロになるのであって。

そうならないためにも、計画と、チームが必要である。

付き合ってくれる専門家が欲しい。

 

「復興の社会政策につながる」 とは、上へ上へと提案を上げていって、

国の政策に到達させる道筋、ということだけではないと思う。

現場から、様々な試行錯誤と大量のデータが集積された時、

それはとてつもない力になると、僕は信じている。

 

事実を客観的に検証しながら、対策を粘り強く進めた者に、結果は与えられる。

不明なことが多すぎる状況に対しては、実証精神で臨みたい。

今、僕らはあらゆる意味で、試されている。

試行錯誤でも行動することが問われている、一歩前に向かって。

だからこそ、研究者、専門家が欲しい。 これが現場の強い思いである。

一つの生産現場に一人の冷静な検証者がいてくれれば・・・・・

 

与えられた約1時間は、

大地を守る会が取り組んできた各種の復興支援活動の概要から始まって、

放射能汚染に対して取った行動を裏話なども交えながらお話している間に、

タイムアウトとなってしまった。

 

僕が描いている希望への道筋を、舌足らずにお伝えして、終わり。

生産者の除染対策から、有機農業の力を再発見したい。

土の中に潜む生命力とそれに寄り添う人の技術が合わさった総合力で

「希望」 を示したいと、今強く思っています。

 

市民科学者・故高木仁三郎さんが2000年7月、亡くなる3ヵ月前に

書き残した言葉で締めたかったのだが、カッコよくまとめられなかった。

ここに記したい。

 

  開けてしまったパンドラの箱を閉じることはできないでしょうが、

  その中に残った 「希望」 を取り出し、育てていくことはできるのではないでしょうか。

     - 『原子力神話からの開放』 の結びの言葉 -

 

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<補足>

本書は2000年8月に光文社から刊行されましたが、最新の注釈が加筆され、

今年の5月に講談社+α文庫より再刊されました。

病苦と闘いながら  " 原子力神話 "  の本当の姿を語った警世の書。

しかも今日の状況を、高木さんはしっかり見抜いていたことも思い知らされます。

「2010年 ~ そういう時代に大きな原発事故が起こる可能性を、

私は本当に心配しています。」 是非ご一読を。

 

もうひとつ補足を。

山崎農業研究所の創設者である故山崎不二夫博士(1909~1994) は、

生前より (チェルノブイリ以前から) 原発の危うさを指摘されていた方です。 

その遺志を継がれた方々が、怒りを抑えながら現場を回られ、

力になろうと尽力されていることに、この場を借りて敬意を表したく思います。

 



2011年7月21日

西から応援 野菜セット

 

台風6号が 「上陸した模様」 と伝えられた 「徳島県南部」 という、

どうせ大雑把に括られるだけのしがない漁村地帯に住んでいる年寄りの、

意地っ張りのセリフはともかく、

紀伊半島にまで記録的な雨量を残していったことで、

俄かに不安になったのが 「西から応援 野菜セット」 である。

 

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このセット。

奈良県五條市に本拠を置く 「王隠堂農園」 さんがつなげている生産者の野菜から、

色々とバランスを考慮しながら、現地で箱詰めまでしてくれている野菜セットである。

 

王隠堂農園さんとは、

最初は梅と柿という特定品目でのお付き合いから始まった関係だが、

年々少しずつ取り扱い品目も増えてきて、

今回の野菜セットの販売へと至った。

これは王隠堂さんがこの間取り組んできた耕作放棄地対策や

新規就農者支援のための一環としてつくられたものであるが、

その販路を広げたいとの提案を受けていたものだ。

 

当会にとって、原発事故の影響があったことは、正直認めるところである。

子どもには放射能汚染の心配のない産地を選びたいという消費者の要望が

ひしひしと伝わってくる中で、

かねてよりの王隠堂農園さんからの提案が符合した。

とはいえ、ただの場当たり的な企画ではないことは、申し上げておきたい。

両者の相互支援という格好で、ひとつの企画が成立したのだから。

 

「西から応援セット」 をご購入いただいた方には、

心理的に安心できる西日本方面の野菜が手に入るとか、

復興支援の義援金も含まれているから、ということだけでなく、

西への連帯にもつながっている、という意味合いが隠されていることも

お含みおき願いたい、ということであります。

全国に有機農業者の輪を広げ、山や里が荒れるのを防いでいくためにも、

新規就農者の受け皿作りは必須のテーマであり、かつ

僕らは今、しなやかに、かつしたたかに、

支え合いの全国的ネットワークを強化しなければならないのです。

したがって 「福島と北関東がんばろうセット」 も応援していただきたい。

僕はもっぱらこっちで頑張ってます。

念のために言っときますけど、

これは悲壮な決意主義で食べているのではありません。

いま、福島・北関東の野菜はほとんどND (検出せず=検出限界値以下)

で安定してきています。

この先の土壌からの影響については未知数だけど、

そこは先進的な農家たちと、先進的な取り組みでもって答えを出したい。

(畜産と稲ワラについては別途整理したい。)

 

さて、「西から~」 へのオーダーが週を追って増えてきたところで、

大型の台風がやってきた。

王隠堂農園さんは気丈に、頑張りますわ! と言ってくれているけど、

台風の影響は直後だけでなく、その先の出荷や品質にも影響を及ぼす可能性がある。

まったく、青果物の仕事は報われないことが多い 。。。

 

「西から応援野菜セット」 をご購入の皆様。

もしかしたら流通途中で品質劣化が起きたものが届くかもしれません。

入荷時の検品も気をつけますが、もし、葉物が一部溶けていたりとか、

気になったところはご指摘ください。

食べられなかったものは返金させていただきます。

ただ、「西から応援~」 とは、たんなる一時しのぎの商品ではなく、

みんなの力で築き直そうとしている世界につながっていることだけは、

どうかご理解願いたい、と思うのであります。

 

なお 「西から~」セットは、8月22日~の週を持って、いったん終了となります。

これからいろんなセットが波状的に組まれてくる予定なので。

王隠堂さんからの野菜で継続して取り扱うものは、

「子どもたちへの安心野菜セット」 に吸収する形になります。

 

放射能測定体制 もだんだん整ってきて、

農産物については全産地・全品目を検査・確認する体制に入りました。

夏から実りの秋へ、いろんなバリエーションで届けられる野菜を、

どうぞ楽しんでいただければと思います。

 

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2011年7月 2日

今日も悶々と放射能対策を学ぶ

 

今日も一台のトラックが被災地に向かって走っている。

職員の間で 「復興大臣」 の異名をとる吉田和生 (畜産水産グループ長) が

自ら配送車に食料や物資を積んで、

炊き出しボランティアとして昨夜から宮城・石巻に向かった。

かたや、僕が担当する専門委員会 「米プロジェクト21」 (略称 「米プロ」)

のスタッフは、夏の白神山地の自然散策と

大潟村の田んぼ見学を兼ねたツアーを実施してくれている。

硬軟織り交ぜながら、土日も何だかんだとせわしない、いや

元気な組織だ、ということにさせていただこう。

 

では、お前は何をやっているのかと問われれば、

また今日も、土壌の放射能対策についての研究会に参加していたのだった。

今回は日本有機農業学会のテーマ研究会 「放射能汚染と有機農業」 。

場所は池袋にある立教大学。

何度聞いても、状況への理解は深まっても、

特効薬のような処方箋を出してくれる専門家はいない。

しょうがないね。 そういう手に負えない厄介モノを放出させてしまったんだから。

 

それならそれで、一つ一つ丁寧に結果を検証していくしかないのだが、

とにかく、各地の生産者の取り組みが無駄にならないように、

また間違わないようにしたいと思うのである。

そして早く、全体的な除染対策の見通しを立てたいと思う。

 


悩ましいのは、森林に降った放射能である。

表層の腐葉土がしっかりセシウムをつかんでくれることで、

水系の汚染をガードしてくれているのだが、

一方で落葉を利用することには不安が募る。

地域の自然資源を活用する循環型の農業のほうが、

かえってリスクが高まる恐れがある、と指摘されたりするのだが、

では自然資源利用はやめて購入資材に頼ればよいというものでもないと思う。

水田なら、一定のほ場内循環 (生物多様性が肥料分も生産する世界) が

可能かもしれないと思ったりはするが。

 

もっと奥深い世界が、この迷路の向こうにあるのではないか、

という気がしてならない。

追求したいのは、微生物の力、そして醗酵という世界、である。

 

今、大地を守る会では放射能の測定体制を構築中だが、

体制が整った暁には、

ただ入荷する食品を3段階で検査する (安全性を確認する) だけでなく、

生産者の様々な取り組みや試験を、測定という科学でバックアップしながら、

新しい扉をこじ開ける力も獲得したい、と思うのである。

 

復興大臣・吉田と相方の嶋田 (会員サポート・グループ長) は、

今日は石巻で  " お酒抜き "  の夜だ。

米プロの西田と大熊は、ライスロッヂ大潟の生産者たちと

楽しく語り合っているのだろう。

僕は、悶々としながら面白くない論文を読んでいる。

 

3.11以降、消えてしまったオイラの休日を返せ! と叫びたい。

いや、そうじゃない。

すべての人の平穏を返せ! だ。

 



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