2008年10月16日

遺伝子組み換えで食糧増産というロジックについて

 

ベトナムで農村開発支援に携わるNGOのスタッフであるⅠさんから

しばらく前に届いたメールが気になっている。

ベトナムでも、遺伝子組み換え (以下、GM) 作物が大規模に推進されようとしているらしい。

彼女が知らせてくれた報道によれば、

「2020年までに作物栽培面積の30~50%で、GM作物が栽培されることになる見込み」

とのことである。

3分の1から半分ということは、その影響は国土全体に及ぶ可能性がある。

凄まじい数字、というか国家方針だ。

この情報だけでは栽培される作物までは分からないけど、

考えられるのは大豆、ワタ、トウモロコシ、ナタネくらいしかなく、

それでこんな数字になるのか、と思う。

2020年までの見通しなので、コメのGMが実用化される見通しまで

視野に入れているのかもしれない。

まあここで不確かな想像をしてもしょうがないけど、

食糧の増産と貧困の撲滅といった文脈でGM推進が語られているようなので、

やっぱりこの論には反論しておかなければならないと思う。

 


まずはっきりさせておかなければならないのは、

GM技術そのものが食料を増産させるわけではない、ということだ。

「収量が上がる」 仕組みとは、もともと収量の高い品種を選んで、

それに除草剤耐性とか殺虫成分をGM技術で導入しているに過ぎない。

つまりGM技術を使わなくても、元の品種を植えるだけで収穫量は上がるのである。

GM作物によって作業効率や歩留まりを上げるということはあるかもしれないが、

これで食糧増産と声高に叫ぶというのは、

結婚した相手の血統でおのれの能力をPRしているようなものだ。

 

また品種の特性というのはプラスもあればマイナス面もあって、

収量が高い一方で、存在するはずのデメリットの部分は何も語られていない。

その品種がベトナムという高温多湿な地域に適するかどうかは、

慎重に吟味されなければならないだろう。

 

GM技術で収量が上がる仕組みにはもうひとつあって、

機械で除草しなくてすむようになるので、高密度栽培が可能になる。

それによって単位面積当たりの収穫量が増えるという理屈だが、

これにも負の側面があって、高温多湿地帯では病気の発生確率も高くなるように思う。

密植が何をもたらすか、農家なら想像がつくはずだ。

農民に判断させるだけの、正確な事前情報が必要である。 

 

いずれにしても、単一品種・単一技術に依存することは、

天候の影響によっては逆に収穫が壊滅的になるリスクを抱えることを意味する。

多様な品種が植えられ、その地域で育んできた多様な技術が生かされることが、

最終的には安定を支えていることは、考慮されなければならない。

ましてや地球の気候変動はさらに激しさを増しているのだから。

 

またGM作物は、けっして貧困の撲滅にはつながらない。

むしろ逆に貧困を加速させないか、丹念にシミュレーションすべきだろう。

GMは企業の特許技術であるから、農家は自分たちで種を保持することができず、

毎年々々買い続けなければならない (保持すれば訴えられる)。

種はその地域で更新されてきたものより遥かに高価である。

加えて栽培プログラムは化学肥料と農薬を前提にしているわけだから、

農薬も肥料も一緒に買い続けなければならなくなる。

しかもそれらは全部同じ会社であったりするので、

農家にとって、収穫して得たお金が特定の企業に吸い取られる仕組みが出来上がる。

加えて種子の交配 (地域の遺伝資源が汚染される可能性) は、起きる。

土壌や環境へのリスクも視野に入れておかなければならない。

化学肥料が高騰していることはご存知だろうか。

 

大規模な面積で大型機械を使ってビジネスとして商品作物を作る農業をやるのと違って、

地域自給的な暮らしをベースにしてきたところにGM作物が入り込むことが何をもたらすか。

GMとは、食品としての安全性論争以前に、

農民や地域の自立性に、そして生命活動を安定させる根幹である生物多様性に

深く関わる問題なのだ、というのが僕の認識である。

ちなみに食品としての安全性論争について言えば、それは 「不確かである」 に尽きる。

食べて死ぬわけではなく、すぐに健康危害が起きるわけでもないので、

病気とか異常とかとの因果関係は証明不可能 (安全の強弁が可能) である。

問題は、GM作物はどんどん 「進化」 という名の複雑化が進んでいて、

たかだか10年程度で、自然界の必然である耐性とのたたかいが生まれ、

2種・3種の形質の組み合わせへと進んできていることだ。

それらは 「実質的同等性」 という造語によって庇護され、

たいして安全性の実験データも要せずに審査をパスしている。

将来への影響は 「誰も分からない」 。

分からない以上、分からないものは慎重に扱おう、という姿勢に立つ者は必要である。

 

最後に、貧困や飢餓の問題について言えば、

これはGMで解決できるものでは、けっしてない。

食糧問題の本質は、あるところでは大量に捨てられていて、ないところでは飢えている、

という分配の問題である。

GM技術は、さらに格差を広げる可能性のほうが高い、と僕は睨んでいる。

 

それにしても、ベトナムでGMOの推進とは・・・・・

彼らはどこから種や農薬を買うことになるのだろうか。 

かつてベトナム戦争で、森林に大量に撒かれた枯葉剤 (除草剤)、

猛毒ダイオキシンを含んだ2・4・5-Tを開発した、モンサント社からだろうか。

だとすると、この皮肉は、とても悲しすぎる。

 


Comment:

以前、TVで、インドで同じようにGM綿花の栽培が行われたというドキュメンタリーを見ました。結局、ほとんど期待していた収量はあがらなくて、農民はモンサントに何年間は必ずGM綿花を植える契約の元に綿花の種を買わされていたため、採れないことがわかっても、まったく採れる見込みのない種を何年も買わなければならなくなり、離農できる人は離農して行っているような話を見ました。アメリカで試験したときは、期待値どうりの収量(それも理想的な環境下で)があったらしいのですが、気候の違うインドでは、その綿花の種はほとんど実をつけることなく枯れてしまったそうです。従来からあった綿花なら、採れるのでその土着の種類をまた植えたくても、契約で縛られてできない、まったく採れる見込みのない種を買わされ続け、借金だけがかさんでいく、そんな恐ろしい現実がそこでは語られていました。
土着の種も、モンサントの嫌がらせで、ほとんどの農民がモンサントと契約してしまったため、その場所からはほとんどなくなってしまったそうです。
現在の生活も、生活基盤も、そして未来もすべて奪ってしまうGM作物とモンサント社のやりくち。
作物が取れていたとしても、いずれはモンサント社の食いものになって、その道をたどっていたと思います。
ベトナムでインドの事例を紹介できればいいのに、と思いました。

from "てん" at 2008年11月 1日 15:28

てん様
有り難うございます。まったく僕の問題意識もそこにあります。しかし推進派の論理は、今もって「食の安全性は確かめられている」と「食糧増産の切り札=人口増や飢餓を救う」で世界を席巻しようとしています。
このコメントへのお返事は長くなりそうなので、いずれ本文で。Iさんには、インドの物理学者、ヴァンダナ・シヴァさんと連絡とってはどうかと返信したところ、ちゃんと認識されていましたよ。期待しましょう。

from "戎谷徹也" at 2008年11月 3日 01:06

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