2009年4月29日
森林浴に谷津田の話など
大地を守る会にはいろんな通信物が送られてきていて、
そこで目にとまった情報をもうちょっと掘り下げて分析できれば、
面白いネタは尽きないだろうに、なんて思うことがある。
しかし、それがなかなかできない。
たとえば、北里大学学長室から発行されている通信 『情報:農と環境と医療』
というのが送られてきていて、最近届いた号を開けば、こんなトピックが紹介されている。
つくばにある独立行政法人 「森林総合研究所」 が発刊する 「森林総研」 第3号で、
『森林浴が働く女性の免疫機能を高める』 という記事が掲載された。
森林浴によって、女性の抗がん免疫能が上昇し、その効果が持続し、
さらにストレスホルモンが低下する、という研究結果が出たのだそうだ。
研究内容はこのようである。
東京都内の大学付属病院に勤める女性看護士13名が、
長野県にある森林セラピーに滞在し、ブナやミズナラの落葉広葉樹林や、
スギ人工林などのセラピーロードを、森のガイドと一緒に二日間ゆっくり散策する。
森林浴の翌朝8時に採血し、
がん細胞やウィルスを殺傷するNK (ナチュラル・キラー) 細胞の活性や、
NK細胞が放出してがん細胞を攻撃する抗がんタンパク質の量を測定する。
また血液や心拍数を上昇させる副腎の分泌物であるアドレナリンの尿中濃度を測定する。
さらに森林浴の持続効果を調べるために、
森林浴の一週間後と一ヵ月後に同様の測定をする。
その結果-
東京在住の時に比べ、被験者のNK活性は、二日間の森林浴によって38%高まった。
活性値は一週間後も33%の高い値を維持した。
また免疫能は一ヵ月後でも10%高く持続した。
尿中のアドレナリン濃度は、森林浴一日目で57%に、二日目で68%も低下した。
・ ・ ・
森林浴には免疫機能を高める効果がある、とはよく聞くが、
裏づけとなる科学的データを得ると、それは自分の中でも客観的真実に近づく。
しかも、この数字は、かなり高い。
すると、こんな話も紹介してみたいな、とか思うのだが、
しかしトピック記事を読んだだけで (これはまた聞きのようなものだから)、
何かを語るのは憚られる。 ちゃんと原典となる試験報告書にもあたってから、
なんて思うのだけど、そうすると書けなくなる。
このブログではこの手は使わないと決めていたのだが、と思いつつ-
上の話に関心を持たれた方は、(独)森林総合研究所のHPにアクセスしてみてください。
自分の話にまるで責任のない、ただの紹介ですましちゃうわけだけど、
調べようとして、結局紹介もできないのでは、宝の持ち腐れになってしまうし・・・
こんな日があってもいいでしょうかね。
こういうのならなんぼでも書けるのだが、でもなんか、つまらない。
もうひとつ、こんなのもある。
こちらはつくばからの直接情報。 独立行政法人 「農業環境技術研究所」 から、
研究トピックスをまとめた 「農環研ニュース」 というのが送られてくる。
だいたいが解説も困難な小難しい研究をやっているのだが、3月号には、
「谷津田が植物の多様性を高めるしくみを解明」 というレポートがあった。
農村地域には、肥料源や飼料を採取するために、定期的に草が刈られる
「半自然草地」という場があった。 「あった」 というのは、今はほとんどなくなりつつある、
という意味で、多くは草刈りもされずに放置されていっている。
では放置 (ある意味で自然化) された場所には、動植物が増えるかというと、
実は逆で、畑の放棄地や造成跡地に見られるススキを主体とした植物群落では、
草原性の動植物がいないと言われる。
つまり、ヒトが手入れしていた場所がいったん放棄されると、
生物多様性が減退する、という現象が生まれるのだ。
その比較調査が試みられている。
ここで選ばれたのが谷津田 (やつだ:山や丘陵に囲まれた谷底にある水田) で、
水田を取り囲む斜面林の下部は、田面が日陰になるのを防ぐために
定期的に草刈りが行なわれる場所 (裾刈り草地) である。
そこで、植物社会学の手法を用いて、裾刈り草地における植物の多様性が、
造成跡地や放棄畑、過去に調査された半自然草地と比較された。
その結果-
谷津型と松林型 (主にアカマツ林の林床タイプ) では、ワレモコウなど
在来の多年生草本植物の多様性を示す値が高いことが明らかになった。
秋の七草の一つであるフジバカマなど多くの希少植物も見られた。
これによって、谷津田での農作業の一つである隣接斜面の定期的草刈りが
植物の多様性を維持していることが明らかになった、というワケだが、
この研究レポートには、もうひとつ解析が加えられていて、
関東地方東部 (千葉~茨城) の台地地域を調べたところ、
水田と森林が接する部分が長い場所の減少が顕著に見られた、とのこと。
つまり谷津田の耕作放棄が進むことによって、
その地域の植物の多様性が失われていっている、という結論である。
田んぼの生物多様性の話をするときに、
「中規模かく乱説」 というのをもち出すことがあるが、この研究は、
適度に人の手でかく乱したほうが多様性が増す、という説を裏づけたことになる。
これは、放置すると優勢種の天下になる、ということも表わしていて、
草を刈る (撹乱する) とは、実はその場での強きをくじいている作業でもあるワケだ。