2008年1月 8日

穀物高騰の裏で ~米国の農場から~

 

(昨日から続く)

ファンドマネーで翻弄される穀物。

それは私たちの暮らしもストレートに直撃してきている。

 

家畜の餌が上がり、卵を使った加工品も上がって、

4月からは小麦が上がることが、すでに発表されている。

パン、菓子、めん類...影響は広範囲に及ぶ。

値上げ幅は最低でも2~3割という。

 

そんな中で、今もアメリカの農家は、

昨日報告したようにウハウハ浮かれているのだろうか。

 

「では現地からの声を聞いてみましょう。

 ケントさ~ん。聞こえますか。そちらの様子はどうですか?」

 

「ハーイ。こちらイリノイ州。では現場からケント・ロックがお伝えします」

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なんてヴィヴィッドに中継できればカッコいいんだが、

私の英語力は、とうに大学受験で終わっている。

成績はまあまあ良かったんだけどなぁ。

街ではまったく通用しない、ていうかァ、18歳で四国から上京してェ、

ガイジンさんの生の言葉がァ、ホンモノの英語だと知った時のショックといやぁァ......

ま、そんなことはどうでもいいか。

 

実は、週に1回くらいのペースで、メールでレポートが送られてくるのだ。

昨年の視察でお会いしたケントさんに、

本人とは会えなかったけど息子さんとは一緒に食事をさせていただいたチェットさんから。

ともに非遺伝子組み換えのセンチュリーコーンを作ってくれている農家だ。

 

『チェットさんのセンチュリーコーン・ニュース』 といったタイトルで、

日々の仕事や家族の様子、周囲の動向などがフランクに語られたレポート。

カーギル・ジャパンの女性の方が、こなれた翻訳までして、送ってくれる。

 

アメリカらしい楽しい家族の話題もあるが、時に生々しい報告がある。

昨年末、クリスマス前の二人からのレポートには、少し震えた。

 

「イリノイ州カントンにあるエタノール工場が、稼動を前にして破たんしました。

 工場は予算オーバー、そして規模が小さかったのです。投資資金の多くは

 地域の農家から集められましたが、投資分は回収できないでしょう。」 (ケントさん)

 

「私が思うに、工事はほとんど終わって、工場を引き受けていた業者が

 2千万ドル以上の不払いを理由に引き上げてしまったようです。

 この工場へは約400人が投資していて、その多くは農家の人々で、

 彼らはこれによって多くのお金を失いました。

 この工場に投資していた私の友達によれば、このエタノール工場は高利の融資、

 なんと年19%もの金利を払って資金を手当てしていたとのことです。」 (チェットさん)

 

カントンの、建設中の中規模の工場といえば、

もしかして俺たちが見てきた、あの工場だろうか。

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あの時の懸念が、現実として進んできているようだ。

経営の甘さとも言えるが、バブリーなトレンドになっているということではないだろうか。

 

「穀物市場は今週また上がりました。ある人によると、市場は、あるニューヨークのファンドが

 巨額の資金を穀物に投資するといっている1月の第2週から上昇するようです。」

 

「私は大豆の作付けを増やすことについて、農家の話を聞きました。人によりますが、

 大豆の作付けを増やすといっている人が多かったです。

   ~(中略)~

 大豆の種子会社から手紙が届きました。種子はもう在庫がなく、もしもっと必要なら、

 今すぐ注文しなければならないということでした。」 (チェットさん)

 

地価 (農地価格-オークションで売買される) も上がり続けているようだ。

 

「今週、近所の農地がエーカー辺り7200ドルで売られました。

 この値段は非常に高く思えます。

 7200ドルの現金には、金利6%でエーカー辺り432ドルの金利が発生します。

 さらに元金を年360ドルずつ20年をかけて払い終えます。

 さらに耕作するのに300ドルの費用がかかります。

 合計するとエーカー辺り1092ドルの費用が発生し、これを払って損益ゼロです。

 これではたとえトウモロコシの値段が4ドルでも高すぎて払えません。」 (チェットさん)

 

「地価は1年間でエーカー辺り5000ドルから7500ドルに上昇しました!

 7500ドルに対して5%の利回りは、エーカー辺り375ドルの賃借料と税金を払うことと同じです。

 現金で年にエーカー375ドルを払って利益を生むことは、農家にとって大変なことです!

 土地の入札に参加しているのは農家以外の投資家をパートナーにした土地を買いたい農家です。

 どんなことにおいても、パートナーシップというものは、

 入りは簡単ですが、抜け出すのは難しいのです。」 (ケントさん)

 

農機具も、トラクターも、肥料も、そして種も......

 

「とうもろこしの種子の値段は、

 トリプルスタック種(遺伝子組み換えの組み合わせ種子)でエーカー辺り85ドル、

 NON GMO種で50ドルです。

 トリプルスタック種の価格は2007年に13%も上がりました。」 (ケントさん)

 

みんな振り回されている。

それでも必死で分析し、日々を乗り切っているのだろう。


来年は大豆だぞ、とか言いながら。

決して農民は、ファンドの言う、WIN、WIN! の恩恵には浴していない。

 

投資で儲けるのは犯罪ではない。許された権利である。

しかし、できるだけ等しく行き渡らせることが、

古今東西、政治の使命でもあった 「穀物」 というものを、

指でこめかみを指しながら 「ここで儲けるんだよ」 と得意げに私利の対象にするのは、

どう考えても、人道にもとる (私の価値観では)。

誰も手をつけなかったモラルの枠を破壊したことを、知るべきだ。

 

あのファンドのゼネラルマネージャーも、日曜日には教会に行くのだろうか。

 

正月に、牛頭さま、薬師如来さま、お稲荷さま、弁天さま、観音さま、と

「何でこんなにいっぱいおるんよ」 とか言いながらも、

神仏に小銭を捧げて回った私の方がずっと信心深い、とだけは宣言させてもらいたい。

何の力にもならないけど・・・。

 

本当は国内の論争にも触れたいのだが、それはまた。

 



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