2012年1月20日

放射能と栄養

 

厚生労働省が発表した 「食品中の放射性物質に係る基準値の設定(案)」

に対する 「共同テーブル」 としての見解をまとめる作業を進めているところで、

一冊の小冊子が届いた。

 

『チェルノブイリ:放射能と栄養』

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これは放射線医学総合研究所の元内部被ばく評価室長、白石久二雄さんが

翻訳して自費出版された、いわゆる私家版である。

 

白石さんは食品学の専門家であり、

かつ放医研で内部被ばくの問題を長く研究してこられたという、

日本では稀有な 「食品による内部被ばく」 の専門研究者である。

チェルノブイリ原発事故後、ウクライナにも足を運び、

「ウクライナ医科学アカデミー放射線医学研究センター」 と共同研究を続けてきた。

 

昨年3月をもって退官され郷里・四国に戻られたのだが、

福島原発事故のせいで今やあちこちから引っ張りだこの状態らしい。

現役時代には縮小されつつあった研究が、退官直後から引く手あまた、

とは実に皮肉な話である。

 

上記の小冊子は、

国際赤十字社と赤新月社連盟の支援により1994年に発行され、

ウクライナの汚染地域に住む人々に無料で配布されたものである。

放射線とは何か、から始まり、生物と人への放射線作用、

汚染地域の住民の栄養状況などの解説、そして

食品の基本的成分と栄養素としての役割、濃度を減らす加工法や調理法などが、

専門知識のない住民にも分かるように苦心して書かれている。

 


放射性物質の摂取を少しでも減らすための前処理や調理法については、

すでにいろんな解説本も出ているし、白石さんも別な著書で書かれていることだが、

あえてこの小冊子の送付を白石さんに申し込んだのは、

事故から6年後 に、専門家たちが専門用語をほどきながら、

食事法や栄養についての解説を住民に無料配布したという、

その空気に触れてみたいと思ったからだった。

 

ここで書かれている結論の一つは、

缶詰や輸入食品に偏ることなく、栄養バランスのとれた食事を

規則正しく摂ることの大切さである。

そこで汚染の影響をできるだけ避けるための処理や調理法も具体的に書かれる。

たとえばこんなふうに。

 

「 住民の一部は牛乳や乳製品、野菜、果物、いちごの摂取を自ら制限し、

 遠方より導入された缶詰食品、一級や最高級の精製小麦粉から焼き上げた白パン、

 (中略) 等々を摂取しています。 すべてこれらは事故以前にはあり得なかった

 悪い食生活を促進しているのですが、健康な食生活を行なっていると

 思い違いをしているのです。」

「 粗挽き粉から作ったパンの中に含まれている穀類のふすまはビタミンB群、

 マグネシウム、カリウム、繊維に富んでおり、

 我々にとても良い満腹感を与えることができると共に、すでに述べましたが、

 胆汁分泌と正常な糞便の形成と排泄を助けます。

 その過程において若干ですが、消化器官において、

 放射性物質の吸収を抑えることになるのです。」

 

「 環境が放射能汚染された状況下において栄養素のビタミンが不足すると、

 電離放射線に対する生体の安定性が低下することになります。

 ビタミンは放射を受けて急激に生じたフリーラジカルを不活性化したり、

 油脂の過酸化物の生成反応を止める作用があります。」

「 ビタミンD不足はカリウムや燐酸塩不足を生体内に起こし、

 これが放射性ストロンチウムの生体内への吸収、沈着効果を促すようになります。」

 

要は、体がカリウム不足になればセシウムをつかみにゆき、

カルシウム不足になればストロンチウムの吸収を促進してしまう。

植物や土壌対策と同じである。

必須の微量元素をしっかり摂るためには、いろんな食べものをバランスよく食べること。

放射線被ばくによって怖いのはガンだけでなく、

むしろ免疫力低下による様々な病気である。

健全な食事で打ち勝とう、と励ましているのだ。

 

もう食品の放射性物質の濃度はかなり減ってきているのだから、

今さら読む必要はない?

そうだろうか。

正しい食こそが健康を守る。 

それを支える環境がいかに大事なものか、学びすぎて損をすることは決してない。

これは日常の指南書でもある。

自力で翻訳して出版された白石さんの意思にも敬意を表したい。

 

白石久二雄さんは、

「食品と放射能問題 検討共同テーブル」 の、次のヒアリング候補である。

目下、交渉中。

 


Comment:

白石久二雄さんのおっしゃることはよく理解できます。
3・11のあと人に勧められて秋月辰一郎さんの「長崎原爆記…被曝医師の証言」を読みました。秋月さんは爆心地から1.8キロの所にあった浦上第一病院で診療中に被曝されましたが、食料庫に残っていた材料で玄米ご飯と味噌汁を作り、病院スタッフに食べさせ、病院のスタッフは誰一人命を落とす事なく怪我人の治療に当たったそうです。
秋月さんも89歳まで生きられました。
私はこの本から勇気を頂きました。
今の私たちにとっては初めてのことですので、不安に思ったらキリがありませんが、栄養のバランスを考えられる境遇にあることに感謝しつつ、一日も早く放射能が降って来なくなって欲しいと願うばかりです。

from "加藤利江" at 2012年1月28日 21:04

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