2012年6月14日

映画 『フードインク』 とTPPを語る

 

6月3日(日)。 この日の記録を終わらせておきたい。

 

田んぼの草取りを追え、シャワーして着替えて渋谷に向かい、

17時前には何とか会場である 「アップリンク」 に到着。

映画 『フードインク』 はすでに上映が始まっていて、

スタッフと打ち合わせをして、頭の中を TPP モードに切り替える。

「基本的なところからひも解いていただけると~」 という要望をもらって、

かえって緊張した、というのが本音。

 

映画が終わり、18時20分、会場に入りトークを開始。

ミニシアターなので客席は一杯だが、100人弱といったところか。

司会はアップリンクの松下加奈さん。僕に質問する形で進められる。 

前日の講座よりは静かに話せたように思うのだが、よくわからない。

 

どうも流れに任せてしまった感じなので、正確に報告できない。

構成を考えながら記しておいたメモに沿って羅列してみたい。

(この通りに話せたワケではない、ということです。)

 

TPP -環太平洋経済連携協定。

シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4ヶ国によって2006年に発足した

FTA(自由貿易協定) に端を発する。

≪ ここで 「ブルネイの位置を知っている人?」 と会場に問うつもりだったのだが、忘れた。

  「ブルネイ・ダルサラーム国」 -ボルネオ島にある人口40万人の国。 ≫

元々が経済構造の違う4国による自由貿易協定の話し合いだったのだが、

ここに08年9月、アメリカが全分野での交渉参加を表明、割り込んできた。

11月にオーストラリア、ペルー、マレーシア、ベトナムが参加表明して、現在9カ国。

 

交渉分野は物品の貿易から、原産地規制、検疫、知的財産権、投資、金融、

サービス、環境、労働、などなど24分野にわたり、

あらゆる部門で徹底した経済活動の障壁を取り除こうとするもの。

これに日本も早く入れ、と言う。 すべてアメリカの戦略である。

 

★ ともに意識するのは、中国の存在。 中国・韓国はTPPには参加せず。

  アメリカの市場戦略 ~ 狙っているのは日本の市場と金融資産

  オバマの発言- 「TPPで (米国の)失業者を減らす!」

  これは公正・平等な取引をコントロールするものではなく、

  明確に、激しく (自由な) 競争の海に投げ出されることを意味する。

 

すでにいろんな場面でアメリカは圧力をかけてきている。

車では軽自動車の税率にまで口をはさんできた。

民営化によって、国民の汗の結晶である郵貯資産まで狙われる。

医療でも格差が生まれる。 日本の優れた国民皆保険制度が揺らぐ。

高度な医療が (貧しい人にも) 等しく受けられなくなる可能性があるとして、

お医者さんたちも反対している。

労働環境でも、臨時雇用の自由度が広げられ  " アメリカ化 "  していく。

つまりは格差が拡大していく、というとである。

 


民主主義の根本である 「国民主権」 に関わるほどの大ごとであるにも拘らず、

交渉の中身はまだよく分からず、議論がかみ合わないまま進んでしまっている。

これでは、反対せざるを得ない、というのが今の自分の立ち位置である。

 

「すべてを自由な市場取引に委ねれば、世界の経済的利益は最大化される」

という経済思想に基づくものだが、TPPは誰のための利益となるか。

ひと握りの人、一部の輸出産業に集中していくことが、「国益」 だろうか。

仮に利益が平等に分配されたとしても、一人当たり年収が3千円程度増えるだけ、

という試算がある。

これによって失われるものをちゃんと理解した上で判断したい。

 

「アジアの成長を取りこむ」 なんて、ごまかしの呪文のようなものだと思う。

農業について言えば、日本にも海外市場でたたかいたい農民はいる。

しかしそのターゲットは中国を中心とした富裕層であり、TPPとはほぼ関係ない。

彼らは国内の  " 守らなければ敗北する "  論に苛立っているんだと思う。

日本農政の歴史で見れば、「保護」 とは 「縛り」 でもあったりするから。

米価維持のためと言い、「米を作らせない」 ために国家予算が使われ、

農村は荒れ、消費者との乖離も進んだ。

「補助金はもういいから、自由に経営させてくれ!」 というやる気のある農民は多い。

しかし、だから  " TPPに乗ろう "  ではアブナイと思う。

この国の、国づくりの青写真(ビジョン) がないこと、こそが問題なのだ。

どこ行きのバスなのか、真逆の予想が提示される状態の中で、

" 乗り遅れるな "  という脅迫は、一部の利害関係者を代表するものでしかない。

 

日本の農業は保護され過ぎているか。

農業産出額に占める農業予算 (国による支援) の割合を見てほしい。

アメリカは65%、ドイツ62%、フランス44%、イギリス42%。

みんな守っている、守りながら攻め合っている。

かたや日本は27%。

ことは単純な  " モノの生産 "  に係るコストや競争力の問題ではない。

 

日本は自由化しては自給率を落とし、農業予算も削られてきた。

問題の根本は、農産物を 「物品」 としてしか見ていないことにある、と思う。

農業政策が日々の暮らしとつながっている感がないのはどういうことなのだろうか。

暮らしの安定のための農業政策になってないからだ。

だから、生産と消費がいともたやすく対立する。

( 以前に、「消費税を上げるなら、農業予算を投入してでも国産食材は据え置くべきだ。

 " 国産食材は消費者を守る "  関係を見える化しよう」 と主張したけど、

 誰も相手にしてくれなかった。。。)

やる気のある生産者がTPP推進を唱えるのは、国への怒りに他ならない。

 

その国の保護政策を貿易障壁とみなして撤廃を求めてくるのが、アメリカのTPP戦略。

そのためには日本の安全基準や環境政策もお構いなしだ。

「世界共通化」 という名目で、「アメリカ並み」 を要求してくる。

ここで映画 「フードインク」 にもつながってくる。

 

BSEでは、「日本の全頭検査は異常である」 と言われる。

米国での牛の検査は1%しかできてない。 それでもBSEが発見される。

アメリカ並みでいいとは、僕は思わない。

GMOでは、「日本の表示義務は無用なものである」 と言われる。

しかし米国では、100万人の表示要求署名が出されている。

表示義務化を求める法案が準備されている州もあると聞く。

遺伝子組み換え技術による環境や種への影響は、より慎重に見なければならない。

また消費者には選択権が与えられる (表示がある) べきである。

 

安全基準では、農薬の残留基準にも圧力がかけられる。

「日本の農薬ポジティブリスト制度は、米国産イチゴ輸出の妨げになっている」

というわけだ。

農薬が残っているから問題なのではなくて、

「規制がおかしいから損をさせられている」 という圧力に、

あなたは何と答えますか。

 

守るべきものは守る、という思想と戦略なく、完全な自由化に走ろうとしている。

誰のためなのか、しっかり考えたい。

完全な自由化とは、利益がひと握りの集団に集中化していくこと。

必然的に格差は広がる。 不平等社会が進む。

極めて不安定な社会に進んでいる現在、

 「食」 については、その生産基盤は守っておく必要がある。

これは社会の安定と国民の健康を維持する上で必須の要件だから。

 

貧しいからウェルマート (全米1の安売りスーパー) でしか買えないのか、

ウォルマートで買うから貧しくなり健康も損ねる (医療費がかかる) のか、

映画 『フードインク』 は問いかけている。

 

英国の有機農業指導者、アルバート・ハワード卿が、

著書 『有機農業』 で残した言葉を、紹介させていただきたい。

 「 国民が健康であることは、平凡な業績ではない」

 「 民主主義の真の温床は肥沃な大地であり、その新鮮な生産物こそ

  民族の生得権(生存権) なのである」

 

生物多様性も、持続可能な社会も、野田さんの言う 「国民生活の安定」 も、

その土台は、肥沃な大地から、である。

米は輸入できても、田んぼは輸入できない。

ボトル・ウォーターや木材は輸入できても、水や木を育てる森は輸入できない。

暮らしの安定を保証する環境(の土台) は、貿易の対象ではあり得ない。

 

ロバート・ケナー監督が映画に残したメッセージ

 - 私たちには、日に3回の投票行動が与えられている。

 

忙しい毎日、日々妥協もあるのだけれど、

この意味は忘れないで暮らしていきましょう。

 



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