2012年8月10日
食文化を活かした地域活性化
今日は、いやもう日付が変わったので昨日か、
霞ヶ関の農林水産省に出向き、
「地域食文化活用マニュアル検討会」 という会の初会合に出席した。
こういう国の委員会への参加は、
4年前の 「有機JAS規格の格付方法に関する検討会」 以来である。
この検討会、目的はこう謳われている (開催要項より)。
「 『食』 に関する将来ビジョン 」 に基づき、
食文化を総合的に活用する地域づくりのため、
地域の食文化を活用して地域活性化に繋げるための
実務的なマニュアルを作成することを目的とし、関係府省の参画のもと、
有識者による 「地域食文化活用マニュアル検討会」 を開催する。
「『食』 に関する将来ビジョン」 とは、
関係府省が連携する形で検討本部が設置され、
一昨年12月に取りまとめられた、「食」 に関する政策ビジョンである。
・ 地域資源を活用した地域の活性化
・ アジアの成長力の取り込みとグローバル化への対応
・ 少子高齢化への対応
・ 食の安全と消費者の信頼の確保
という4つの視点をベースに、10のプロジェクトを進めることが謳われた。
1.地域資源を活用した6次産業化
2.「食文化」 を軸とする観光・産業・文化政策の展開
3.我が国農林水産物・食品の輸出促進による海外展開
4.「交流」 を軸とした農山漁村コミュニティの再生・地域活性化
5.再生可能エネルギーの導入拡大
6.農林水産分野の有する環境保全機能を支える仕組みの構築
7.医療、介護、福祉と食、農の連携
8.全ての世代、様々な立場の人々が参加する 「生涯食育社会」 の構築
9.「食」 に関する将来ビジョンの実現に向けた国民運動の展開
10.総合的な食料安全保障の確立
いろんな政策ビジョンが総花的に並べられていて、
過去の政策に対する反省はあるのか、と言いたいところだが、
今の 「食」 をめぐる状況を憂うことはあっても、
自己批判はしないのがこの国の官僚の基本的な習い性である。
こうなってしまったから、こういう状況なので、次はこうします、と
腹立たしいくらいに常に " チョー前向き " な種族。
いずれにせよ、これをもとに具体的な施策が立案され、
国家予算(税金) が投入されてゆく。
「ビジョン」 が策定された4カ月後の3.11によって事態は一変するのだが、
ここにきて 「ビジョン」 を加速化させねばならない、という動きになってきた。
僕が呼ばれた検討会は、上のプロジェクト2.に相当する。
地域の食文化を活用して地域活性化につなげる。
そのための、地方行政マンや地元企業・生産者・住民らが積極的に動けるような
実務的なマニュアルを今年度内に作成したい、と。
「マニュアル」 と聞いて、僕の心はまったく動かなかったのだが、
座長が丸の内の 「地球大学」 でお世話になっている竹村真一さん(京都造形大学教授) で、
竹村さんから 「戎谷を入れろ」 という指示だと聞かされると、さすがに断れない。
まあ私でお役に立てるなら精一杯・・・・ と大人ぶった返事をしてしまった。
委員は他に以下の方々。
・ 篠崎宏さん (株式会社 JTB総合研究所 主任研究員)
・ 中田典子さん (福井県小浜市役所 企画部食のまちづくり課課長補佐 政策専門員)
・ 古屋由美子さん (有限会社 INRコンサルティング 代表取締役)
・ 細川モモさん (社団法人 Luvtelli Tokyo & New York 代表理事)
・ 藻谷浩介さん (株式会社 日本総合研究所 調査部主席研究員)
加えて、内閣府、経済産業省、観光庁がオブザーバーとして出席する。
開会の冒頭で、農林水産大臣政務官・森本哲生衆議院議員の挨拶がある。
「 私は田舎の出身ですが、今ほど田舎で食べていくことが大変な時代はない。
これからどう地域を活性化していくか、国はしっかり考えなければならない。
全国的なうねりにつながるようなマニュアルにまとめていただきたい。」
農水省大臣官房の政策課長・大沢誠さんから進め方などの説明がされた後、
一回目ということもあり、銘々の自己紹介や抱負が語られる。
竹村座長
「 日本食は、未来の日本の基幹産業になりうるもの。
マニュアルづくりと言っても、形式的なマニュアルでは意味がない。
地域の食文化を再発見する 「窓」、「虫めがね」 のようなものを創造的に作りたい。
日本の食生活のなかにある色々なシーズは未来的なヒントに満ちている。
日本食をユネスコ無形文化遺産に登録するというだけでなく、
地球文化としての日本食を世界にプレゼンしていく必要がある。
戦後日本は、食やエネルギー、水など、すべてをアウトソーシングしてきた。
今や食べものがどこでどう作られたのかもまったく分からない状況。
そういった状況に新しい示唆を与えていけるようなマニュアルになればと思う。」
篠崎委員
「 観光客は、ストーリー性のあるものに反応する。
観光のシーンにおいて、食文化の豊かさが期待される一方で、
地元事業者の多くは食文化についてほとんど語れていないのでは。
マニュアルが実効性の高いものになることを期待する。」
中田委員
「 小浜市では、2000年から食を核にした町づくりを推進してきた。
2001年に全国初の 『食のまちづくり条例』 を制定、
04年には食育文化都市を宣言し、08年に食育推進計画を策定した。
食文化や食育を通じて地域を活性化してゆこうと、
拠点施設として 「食文化館」 もオープンさせた。
生涯食育として、子供だけでなく大人も含めて食育活動を実践している。
食文化は、健康につながり、人づくりにつながる。
キッズキッチンや伝統行事などと結びついたコンテンツを
地域外の人にも提供することで、観光とも結びついている。」
古屋委員
「 日頃から食文化の保護継承を担っているのは、農村地域の女性たち。
しかし地域の方々はマーケティングの意識が低く、思いつきでモノを作りがち。
点としての取り組みはあるが、面的な広がりになっている事例が少ない。
何をPRするか、ストーリー性が大事。
現場の方々はとても純粋に取り組んでいる。
その勢いを、食文化の継承や発展にうまく結び付けていけたらと思う。」
細川委員
「 ミスユニバースやトップ・アスリートの体づくりに、医療と食の両面から取り組んでいる。
若い世代は、カロリーを摂ること、食べることは悪であるかのような意識があり、
貧血、便秘、不妊などの問題が生じている。 食のリテラシーが崩れている。
アメリカが様々な肥満対策に取り組んでいるにも拘わらず、
肥満率が下がらないのは、味覚の問題。
頭では分かっていても、味覚はファーストフードに慣れ、
それが " おふくろの味 " になってしまっている。
伝統食をもっている国には、伝統食を伝承する責任がある。
フランスでは味覚教育が盛ん。
今やらないとアメリカのような食生活になってしまう、という危機感がある。
ここで復活できるか、この10年の取り組みが重要である。」
藻谷委員
「 食文化の崩壊は最近になって始まったものではない。
日本の食文化は、醗酵調味料や昆布などの天然だしの活用が特徴だが、
食の大量生産の中で、きちんと出汁をとらずに簡便な方法で代用するなど、
日本食本来の味が失われている事例が多い。
地域の伝統的な加工食品も、商品化・大量生産される過程で、
本来のものでなくなってしまっている事例も多い。
本来の日本食文化の基本を押さえたい。」
さて戎谷委員はというと、
「 食とは人の健康を支えるものであり、
その食文化は地域の環境や風土にによって育まれてきたもの。
地域の食文化を継承するということは、
その地域の環境を守ることにつながるものでなければならないと思う。
たんなる食文化の紹介で終わらず、
地域を健全な姿にただしていくという意味を持たせたい。
その上で、地域で食べていける道しるべになるようなものを作りたい。
大地を守る会は設立以来37年にわたって、
農林水産省の政策とは真逆の提案を行なってきた立場だが、
地域環境と食を健全な形でリンクさせるために、協力させていただきたい。」
あとは各委員が自由に発言して、初回を終える。
それぞれに一家言を持つ委員の中で、自分に期待されているものは何か、
役割イメージをしっかり持って関わっていこうと思う。