2014年1月18日

「完全養殖」 という時代の切なさ

 

飲み会が続いてしまって間が空いちゃったけど、

東京海洋大学大学院・中原尚知准教授のお話 -後編

を上げておかなければ。

マグロ養殖と市場の最新動向から、魚食の今を考えてみたい。


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まずは、養殖による利点と問題点について。

利点のひとつは、何と言っても生産の安定性が挙げられる。 

生産量・品質・価格等を安定的にコントロールできる。

天然ものだけでは、どうしても価格は乱高下する。

身質については、天然ものに劣るというのが根強い評価だ。

原因は餌と運動量にある。

しかし脂の乗りや柔らかさによって市場にはニーズというものがあり、

ニーズにマッチさせられればプラスにもなり得る。


安全性については、昔は薬漬け養殖とか言われたが、

相当に改善されてきている、と中原さんは語る。

なおかつ、食物連鎖を考えた時、天然=安全とは必ずしも言い切れない

時代になってきてないか、とも指摘された。

餌の残さによる環境汚染についても、だいぶコントロールされてきているようだが、

赤潮の原因になるなど、まだ課題は残っている。

「有機養殖」 という考え方も生まれているが、日本では制度化には至っていない。

(わたし的には、この業界そのものがまだ信用ならないという印象が払拭できない。)




量について言うと、

一般的には養殖がどんどん増えていってると思われがちなのだが、

むしろ日本の養殖全体としては衰退期に入っている、というのが現状である。

世界的には、この 25 年間で養殖漁業は 1.7 倍に発展している。

シェアで言えば、6.5 %から 40 %にまで伸びている。

しかし日本では、1050年代から70年代まで急上昇して、以降横ばいである。

原因は、過剰生産-過当競争-価格下落という悪循環だ。


マグロについて言えば、

アブラマグロ(クロマグロ、ミナミマグロ) の資源減少と需要の狭間で、

養殖の割合が高まってきた。

当初は高級品市場での天然マグロの代替品としてあったが、

量が増え価格が下がるにしたがって、

今では量販店や回転寿司といった大衆市場向けに、普通に出回っている。

 

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マグロ養殖には、幼魚を採捕して 2~3 年かけて育てる日本型養殖と、

成魚を捕獲して数ヶ月で太らせるヨーロッパ型の 「畜養」 があるが、

天然資源の枯渇という問題に直面するようになって、

日本が取り組んだのが、人工ふ化によって稚魚から育てる 「完全養殖」 である。

クロマグロの完全養殖は、70年の水産庁の試験からスタートして、

74年に近畿大学で成功させた。

以後、西日本で普及し、近年は非水産系の大手企業や商社も乗り出して、

爆発的に増加傾向にある。


マグロ養殖の現在の課題としては、

取り上げ・加工技術の向上 (捕獲してすぐに締めて氷詰めにすることで品質劣化を防ぐ)、

台風など天然災害による経営リスク (保険制度の充実)、

斃死(へいし) 率の低下 (生簀の大型化)、そして原魚の確保。

人工種苗が成功したことによって、今では人工種苗のほうが多くなったが

(さきがけとなった近畿大学水産研究所では種苗販売も行なっている)、

まだまだ盤石なビジネスとは言えない。

加えて、飼料費(マグロの餌は生魚である) も静かに高騰しつつある。

質疑の際に、気になる薬剤の使用について聞いてみたが、

マグロは無投薬でやれている、との回答であった。


アブラマグロ類については、すでに持続可能なボーダーラインを切っている。

資源管理が強化されるのは必然的流れである。

完全養殖の普及によって生産量と価格の安定化に貢献できれば、

天然ものと棲み分けられる市場がしっかりと形成できるのではないだろうか、

というのが中原さんの展望である。


しかし、どうも手放しでは共感できない違和感が残る。

マグロを 1㎏太らせるのに必要な生餌(資源) が 13~15 ㎏。

やっぱ普段着で食べる魚としてはムリがある、とだけは言っておきたい。

バランスの取れた食べ方の上で成立させなければ、

どこかで破たんするような気がするのである。


資源管理と需要のバランスをどう取るか、

海洋環境の保全と漁業経営の安定をどう両立させるか。

水産業の発展と魚食文化を守りたいと考えるなら、

「完全養殖」 に一定のポジションを与えることは必須かもしれない。

しかしそれはあくまでも、補完的な位置づけとしてあるべきだろう。

上手に、末永く付き合っていくためにも。


講座終了後、築地場外に期間限定でオープンしている

Re-Fish 食堂」 で新年会。

" ウエカツ "  こと、水産庁職員の上田勝彦さんも登場して、

魚をしっかり食べることが海を守ることにつながる、と一席ぶってもらう。

今やメディアでも引っ張りだこの、魚食文化の伝道師だ。


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島根県出雲の漁師出身という変わり種。

「最近は、水産庁にはどれくらい行ってんの?」 と聞けば、

「オレ、こう見えても毎日霞ヶ関勤務っすよ」 と大声で返されてしまった。

いやたしかに、ヘンな質問だった。 

長靴履いて全国を飛び回ってるような雰囲気なもんで、失礼しました。


今日のテーマを受けて用意してくれたのか、

何と天然マグロと養殖マグロの食べ比べ! が登場した。


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ほとんど区別つかない。

食べても違いは微妙で、意見は分かれた。 

さいわい当たったけど、ただ単純に

「さっぱりした感じのほうが自然なんかな」 と思っただけ。

別な場所で出されたら、判別はまず無理だろう。


無投薬で、水域を汚すことなく、天然稚魚に依存しない 「完全養殖」。

それは苦心の賜物として認める。 

いやむしろ、ここまで来たかと感心させられた次第である。

マグロに限らず、資源管理型漁業に進まざるを得ない時代にあって、

この技術は育てなければならないのだろう。


しかし、だからといって無頓着に喰いまくるのは戒めたい。

四国の漁村に育った者として、近海の大衆魚をこそ大事にしよう、

という思いは変わらない。

なんか切ない・・・・  と心が晴れないのは、

豊穣の海が遠ざかっていくような喪失感のせいだろうか。




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