2009年10月30日

繊細なる野菜 - レタスを学ぶ

 

レタスはとっても難しい野菜である。

繊細で、傷つきやすく、わずかな温度や湿度の変化にも敏感に反応する、

まるで箱入り娘のような野菜。

 

レタスを語るとき、よく引き合いに出される作品に、

ジョン・スタインベックの 『エデンの東』 がある。

小説よりも、ジェームス・ディーンが演じた映画のほうが有名な気がするのは、

自分が原作を読んでないからか。 あの映画で、

収穫されたレタスを氷で冷やしながら貨車で東部に運ぶシーンが出てくる。

これがうまくいったらボロ儲けの算段だったのだが、途中で貨車が止まってしまい、

扉を開けたら水が流れ落ちてきて、男が中のレタスを取り出して、一瞥するや投げ捨てた。

レタスに負けないくらいにナイーヴな青年を演じたジェームス・ディーンが、

「 レタスで失敗した親父の借金 (と自分への信頼) を取り戻したいんだ 」 

と新たな事業に挑戦する。

原作は1952年。 その頃からすでにレタスの長距離輸送は、

事業家 (アメリカの農園主は事業家である) の野心を掻き立てるテーマだったのだ。

 

そんなレタスの品質保持について勉強しようと、

昨日から30名強の生産者が長野県南佐久郡南牧村に集合した。 

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レタスの品質保持は、今もって我々の重大テーマのひとつである。

流通過程で傷みが広がるのを防ぐために、生産現場で考え得る対策はないか。

そのために発生の原因や対策技術を検証してみよう。

また流通で考えるべきことについても話し合いたい。

会議の表題は 「レタス・キャベツ生産者会議」 だったのだが、

そんなわけで (?)、会議の時間はほとんどレタスの話に費やされてしまった。

 


今回の幹事を務めてくれた地元生産者、有坂広司 (ひろし) さん。

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理論家で研究を怠らない、ちょっと怖い人。

「まあ、生産者だけでなく、大地にもちぃっと勉強してもらわんと・・・・」

僕らはこういう人に支えられている。

 

講演にお呼びしたのは、長野県野菜花き試験場研究員の小木曽秀紀さん。

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レタスの病害の様々なケースに対して、単純に農薬に頼るのではなく、

IPM (総合的病害虫管理) の考え方に沿って対策を講じる研究を重ねてきた。

IPMの定義を要約すれば、こんな感じ。

 - 利用可能なすべての防除技術を、経済性を考慮しつつ慎重に検討し、

      病害虫・雑草の発生増加を抑えるための適切な手段を総合的に講じる技術。

  - これらを通じ、人の健康に対するリスクと環境への負荷を最小限にとどめる。

  - また農業による生態系が有する病害虫および雑草抑制効果を可能な限り活用する

   ことにより、生態系のかく乱を可能な限り抑制し、

      安全な農作物の安定生産に資する技術・考え方の総称である。

ここでは農薬の使用をまったく否定するわけではないので、有機農業とは立ち位置

は異なるが、できるだけ自然の力を活用しようとする技術は、吸収しておこう。

 

農薬を削減するための技術は様々にある。

輪作の導入や緑肥作物の活用、肥培管理、土壌の物理性の改善といった耕種的防除、

熱水による土壌消毒といった物理的防除、

病原菌の繁殖を抑える力を持った植物や虫・微生物などを活用する生物的防除、などなど。

有機農業はそれらを総合的に捉え体系化する未来創造型の農業だと、僕は位置づけている。

 

ここで小木曽氏は、いま農家の頭を悩ましているレタス腐敗病に対して、

健全なレタスの葉から、病原菌を抑える力を持った微生物を発見して、

実用化 (これも防除目的である以上、「農薬」 として登録される)

した 「ベジキーパー水和剤」 を事例として、その特徴や利用方法などについて報告された。

 

次にもう一人ゲストとしてお呼びしたのは、タキイ種苗塩尻試験農場の石田了さん。

いろんなレタスの品種を開発してきた種屋さんである。

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品種ごとの特性や栽培上の留意点などが解説された。

レタスとひと言で言うが、ずいぶんと品種があるものだ。

適切な品種選択も重要なポイントなのであった。

生産者の間でひそひそと情報交換が活発になるのは、こういう話題の時だね。

 

お二人のゲストを相手に、質疑応答も活発に行なわれた。

司会を務めた農産グループ有機農業推進室の古谷隆司が、あれやこれやと

流通過程でレタスに表われてくる症状と原因について聞くも、

答えはだいたい 「そうとは言い切れない。 見てみないと分からないですね。」

表面に現れる症状の原因はひとつではないし、似たる現象も実は異なるものだったりする。

「ウ~ン」 と唸りつつ、推論を絞り込んでいく。

要するに特効薬はひとつではないのだ。

 

レタスの大産地・川上村の生産者、高見沢勉さんにお願いして、

川上村でのレタスとのたたかいの歴史を語っていただいた。

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レタスが日本に入ってきたのは明治初年だが、生産が一気に増えたのは、

戦後の進駐軍用の特需からだった。

その後、食生活の洋風化とともに大幅に消費量が伸びてゆく。

長野の高原地帯は、冷涼な気候がレタス栽培に合って、生産の増加とともに

出荷・保管・流通技術の進化を牽引してきた。

氷詰めでの輸送に挑戦したカリフォルニアの歴史は生かされている。

その一方で、夏季の3ヶ月で1年分を稼ぐような凄まじい生産構造となって、

深夜の0時過ぎから投光器を照らして収穫作業が行なわれるようになった。

日の出までに収穫し、切り口を洗い、しっかりと予冷させ冷蔵車で運ぶ。

また 「レタス産地」 とは、病気と対策のイタチごっこに苦しんできた歴史も抱えている。

レタス御殿が並ぶと言われる地帯でも、そこはけっしてエデンの園ではないのだ。

 

高見沢さんの話で一番こたえたのは、「レタスの収穫適期は一日」 という言葉だった。

一番良い時に収穫したい。 それは生産者なら当然のことだろう。

しかし、そこが会員制の宅配では、なかなかうまくいかない。

会員からの注文、しかも毎日続くオーダーに応じて出荷してもらうために、

" 採り遅れ "  という事態が発生することがある。

しかもいくつもの産地のリレーでつないでいると、出荷を待ってもらったり、

数の調整をしたり、というのが日々の物流の実情である。

雨でも出荷をお願いする時もある。

互いの事情を理解しあう、ではすまない問題が横たわっていて、

販売力の強化、販売チャンネルの複数化 (による調整能力の強化)、

会員に伝える情報の的確さ・・・・・

などなど話は深夜まで続き、延々と複雑化してゆくのだった。

勉強にはなったけど、悩みは尽きない。

 

で、明けて今日は朝から有坂さんの畑を回る。

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レタスは終わって、畑にあるのは白菜。

 

広司さんの風貌は、TVドラマに出てくるベテラン刑事みたいだね。

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このデカ長、栽培技術に関しては、相当に執念深い。

 

黄葉したカラマツが二日酔いの目を癒してくれる。 

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広司さんの息子さんの、泰志さん。

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親父譲りの理論派である。 

 

最後まで残った人で、八ヶ岳連峰をバックに記念撮影。

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がんばろう! レタス!

 

深まりゆく秋、の長野でした。

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