2012年4月24日
低線量被曝に向き合う(続き)
4月21日(土)、「低線量被曝に向き合う ~チェルノブイリからの教訓~」 シンポジウム。
残りの報告を。
べラルーシ科学アカデミー主任研究員、ミハイル・マリコ博士の講演。
博士からは、ベラルーシでの、チェルノブイリ事故由来による
白血病、固形ガン(胃がん、肝がん、乳がん、膀胱ガン、甲状腺がん) の
追加的発症(放射能由来による増加) や、
新生児の先天性異常の増加データを示しつつ、
安全な被ばく線量(しきい値) はないこと、
特に妊婦への影響が指摘された。
マリコ氏のデータに対し、
沢田昭二・名古屋大学名誉教授が以下のようなコメントを寄せている。
1.比較対象群の設定の問題や、初期被曝の測定の不充分さから
過小評価になっている可能性がある。
つまり低線量の長期被曝によるリスク (晩発性障害) はもっと高い可能性がある。
2.いずれにしてもこの問題は、福島原発事故による被曝の影響を考える際に、
参照すべきデータである。
日本政府の責任で健康診断と治療体制を充実させ、
晩発性障害の早期発見、早期治療によって被害を最小限に抑える必要がある。
3.これからは食品による内部被曝の影響が主な問題になるので、
放射能の影響を避ける農業、畜産、漁業などの仕事に対する援助と、
測定器を充実させた流通体制の整備をすべきである。
会場でのコメンテーターは、京都大学原子炉実験所の今中哲二さん。
マリコ氏とは長年の議論仲間だと言う。
今中氏は、よく知られた脱原発派の研究者であるが、
低線量被曝影響に対する判断は慎重である。
「まだよく分かっていない」 以上、氏にとってこれはまだ 「仮説」 である。
しかしながら、もしかしたら、低線量被曝研究についての
" 枠組み転換 " が求められているのかもしれない、との視点を提供した。
低線量被曝による影響については、
発症までの時間によって様々な外部要因が生まれるため、
放射能による影響とは明確に特定できなくなる。
これを解決するには、長い時間をかけた、しかもできるだけ数多くの人を
比較対照しながら見続ける疫学的手法に頼るしかない。
今中さんには、実は3月30日に
「食品と放射能問題検討共同テーブル」(於:カタログハウス) で講演をお願いした。
この報告もしなくちゃ、と思ってるんだけど・・・追いつけないね。
質疑応答では、報告された研究内容に対する質問だけでなく、
チェルノブイリ後の住民対応(移住や健康調査・対策など) や、
食品の安全性基準の設定経過、はては瓦礫対策と、具体的質問が数多く出された。
日本はどうも、正確な事実調査とそれに基づいた効果的な対策を目指すことより、
国民の不安行動を怖れるあまりに、安全を強調しすぎてきた傾向がある。
それが結局、国への不信を生んできた。
「福島のすべての人の医学登録簿(健康調査と治療履歴) をすぐに作ってほしい。
それは世界の人々(の予防) のためにも必要なこと。」(ステパーノヴァ教授)
こういう感覚がほしいのだが、どうも生まれてこない。
低線量での長期被曝による晩発性影響。
この問題は長い論争が続くのだろうが、
日々食を運び続ける僕ら、日々何かを食べ続ける僕らは、
専門家論争が決着するまで思考を停止させておくことはできないわけで、
こういう仮説がある以上、「予防原則」 の視点は捨てられない。
この 「保守性」 は動物の自己防衛本能であり、
「大丈夫、問題ない、平気、平気」 という専門家は、
個々のリスクに対する 「科学の (倫理的) 責任」 を果たしていない。
いわばただの科学論者であって、
(私にとって) アテにできない学者、ということになってしまう。
人は今、私 (あるいは私たち) に対するモラルを感じさせてくれる人を求めている。
ただ一歩間違えばコワいことにもなるわけで、
盲信してはいけないよ、と言い聞かせながら歩かなければならない。
原発とは、厄介な難題を提示したものである。