2012年4月21日

チェルノブイリから学ぶ 「低線量被曝」

 

今日は、年2回(春と秋) の大地を守る会の社員合宿の日。

部署持ち回りで幹事が指名され、自由に企画が練られる。

組織方針をめぐってディスカッションが行なわれることもあれば、

レクリエーション一色になることもある。

 

僕が幹事側になって仲間と企画したもので強く印象に残っているのは、

安全審査グループ時代にやったワークショップ型合宿かな。

千葉・さんぶ野菜ネットワークにお願いして有機農業体験する組、

船橋で船(大野一敏さんの太平丸) に乗って三番瀬を学ぶ組、

林業体験組、ゴミ処分場をめぐる組などに分かれ、

体験後はそれぞれの現地で 「運動と事業のつながり」 をテーマに議論し、

夕方に合流して懇親会、翌日、総括討論をやって提案型にまとめる、という趣向。

わずかなスタッフで皆よく切り盛りしながら働いてくれた。

 

さて今回は、宅配部主催。

出された企画は久しぶりの分散型、

しかもやっていただくことは街の清掃(ゴミ拾い)、という初物企画。

本社のある海浜幕張周辺組、六本木事務所周辺組、

今日明日と出展者として参画するアースデイ東京・代々木公園組に分かれ、

ゴミ拾いをやって、午後に浦安の温泉施設に合流して、

お風呂に入って宴会、という流れ。

 

アースデイ会場は、おそらくそんなにゴミは出ないと思うのだが・・・ 

とか言いながらワタクシはというと、

エプロンして街に繰り出す幕張組に 「ごめんなさい」 をして、

東京で行なわれるシンポジウムの聴講に向かわせていただいた次第。

テーマは、「低線量被曝に向き合う -チェルノブイリからの教訓-」。

会場は、本郷にある東京大学弥生講堂。

ウクライナとベラルーシから二人の研究者を招いて、

チェルノブイリ後に進行した住民たちの健康被害についての最新研究成果を学ぶ。

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招いたゲストは、

ウクライナ国立放射線医学研究所・小児放射線部長、Y・ステパーノヴァさん。

ベラルーシ科学アカデミー主任研究員、M・マリコさん。 

 

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ステパーノヴァさんの報告。

1986年4月26日深夜に発生したチェルノブイリ原発第4原子炉で発生した事故は、

「レベル7」 という最も深刻な事故災害となり、

この原子炉を鎮めるために80万人を超す作業員が動員され、

その作業者の中からも多くの被爆者を出した。 

被曝が原因とみられる死者の数は今も累積されていってる。

 

4km離れたプリピャチ市の住民を避難させるために

1100台のバスと3本の列車が用意され、3時間で4万5千人が避難した。

事故の規模が明らかになるにしたがい、

汚染地域・30km圏内からの避難が行なわれ、1993年末までに23万人が避難した。

 

ウクライナでは、チェルノブイリ事故の被災者を4グループに分けて登録している。

1) 事故処理作業にあたった人。

2) プリピャチ市と30km圏内から避難した人。

3) 放射性物質で汚染された地域に居住している人。

4) 被ばくした両親から生まれた子ども。

 

今回はチェルノブイリ事故が子どもの健康に与えた影響について報告された。

ポイントを上げれば、

・30km圏内から避難した子供にも、放射能汚染地域の住民にも、

 機能障害から慢性病へ移行する現象が見られた。

 この傾向は子どもが18歳になるまで続いた。

・健康な(何も疾患がない) 子どもの割合は、1986-87年の27.5%から、

 2005年の7.2%へと減少した。

・甲状腺に高い線量を被ばくした子どものうち、健康な者は2.8%に満たない。

・プリピャチ市から避難した子どもの疾患レベルは、比較対象グループよりも、

 事故後一貫して高く、2003年の健康調査では、避難グループの疾患レベルは

 対象標準グループに比べて3倍高い。

・子どもに見られる慢性疾患の特徴は、

 以前には子どもには見られなかった病気が見られるようになったこと、

 複数の病気にかかりやすくなったこと、病気の長期化および再発傾向が見られること、

 そして治療効果が低い(治りにくい) ことが上げられる。

・子どもの発達期における障害頻度は、胎児期の甲状腺被ばく線量と相関する。

・放射線リスクに他の危険要因(様々な環境的要因ヤ生活要因) が加わることによって、

 発達異常数が増加する。

・子どもの軽度な諸発達異常数と総被ばく線量に、正の相関関係がある。

 また被ばく時の胎児に妊娠期間(週) とは負の相関関係がある

 (=妊娠初期に被ばくしたほうが発達異常が多い)。

・染色体異常と胎内被ばく線量には相関関係があることが明らかになった。

 

ステパーノヴァさんは、チェルノブイリの教訓をこうまとめた。

1.チェルノブイリと福島第一原発事故は、

  原子力発電でもっとも起こり得ないとされた事故でさえ起こり得ることを示した。

  (原発を有する) 国家は事故に備えて対応措置を高度なレベルで準備し、

  常に対応措置がとれるように態勢を整えておかなければならない。

2.チェルノブイリ事故が大事故であると認識するのが遅かったこと、また

  住民と環境への深刻な影響への理解が不足したことが、

  住民、特に子どもの健康に大きな被害をもたらした。

3.事故対応システムが欠如していたことが、事故状況下で、

  処理作業に用意を欠いた人を事故処理に充てることになった。

  この決定は不合理であり、作業員の健康状態に与えた影響は正当化されえない。

  (エビ注......日本では、この部分はまったく明るみにされてない。)

4.被ばく線量の大部分は事故が危機的状態にあったときに放出された。

  人々への健康、特に子どもの健康保護は何よりも優先されるべきである。

  住民の避難は正しいものであり、効果的だった。

  しかしながら若干遅れたために、最大限の効果は得られなかった。

  今は毎年、子どもたちは4週間以上、保養施設で健康増進を行なっている。

5.原発事故に関して、住民に遅れることなく、しかも十分客観的な情報が

  伝えられなかったことが、社会に心理的緊張を生み出す前提となった。

  避難と移住の過程は、時に家族関係、友人関係、倫理的・文化的価値観を破壊した。

  さらに、新しく住む場所に関する被災者の選択権も考慮されなかった。

  チェルノブイリ事故の教訓として、住民の生活条件を変えるような決定を下す際には、

  被災者の希望を考慮する必要があることを認識することである。

6.チェルノブイリに関するすべての健康問題は、被災者のモニタリング登録が

  事故直後に作成されていたら、より効果的に解決されていただろう。

  しかし登録簿はかなり後に作成された。

7.子どもの健康状態が変化した原因は放射能の影響である。

  放射能由来でない要素 (生活条件や食料条件の悪化、精神面での長期的緊張など) も、

  健康状態変化の原因にあげられる。 

  (しかしそれも 「事故による影響」 である以上) 放射能事故による悪影響を受けた

  子どもの健康を維持し、回復するための施策は、医療当局だけでなく

  国家政策の優先事項に他ならない。

8.放射能の影響に関する住民の知識を高めるため、

  また精神・感情面での緊張感やストレスを軽減するために

  啓蒙活動を常に行なう必要がある。

  また農村地域では、住民にとりわけ信頼される情報提供者である教師、

  医療従事者、社会福祉関係者などに対する研修プログラムを導入すべきである。

 

ステパーノヴァさんは、強調した。

「子どもたちの健康を守ることは、国家の責任であり最重要政策である。」

 

僕たちは、4半世紀前のチェルノブイリから何を学んだんだろう。

そして、フクシマから何を教訓に残せるのだろう。

 


Comment:

子どもの軽度な諸発達異常数・・とは具体例を知りたいところです。
放射線が降り注いだ地域の子供の甲状腺被爆がどの程度かきになります。
昨年から紫斑病という病気が子供の幼稚園で一ケタ台ですが、見られています。今まで聞いた事もありませんでした。
親として、出来うる限りの情報を集め、出来うる限りの手立てを尽くして子どもたちの食と環境に対処してきた、それだけしかできません。
いつ終わるとも判らない不安な状況を、何とかして欲しいと切に願います。
せめて、燃料プールのむき出しの燃料棒だけでも何とかならないものなのでしょうか。
いつ崩れるとも限らない危うい状況なのに、国会ではつまらない駆け引きに終始していて本当に情けなくなります。

from "てん" at 2012年4月26日 21:04

てんさん
いつも有り難うございます。
子どもの「軽度な発達異常」についての具体的な症状までは分かりませんでしたが、呼吸器系・自律神経系・肝機能・血液系・免疫系等での軽度なレベルでも相関関係がある、明確な因果関係は証明できないが、統計データから「言えるのではないか」、ということかと理解しました。放射線による影響はガンだけではないということですね。紫斑病というのは分かりませんが、リンゴ病に似た症状が出た子どもに対して、「放射能の影響は否定できない」と医者に言われたお母さんを知っています。その時は「無神経なことを言うなあ」と思ったのですが…。

“本当に情けない” - 同感です。

from "戎谷徹也" at 2012年5月 2日 19:42

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