2012年10月 8日

" 希望 " は、僕らの手で創り出すしかない

 

放射線の影響に関する国や専門家たちの見解は、

ほとんどすべてが ICRP (国際放射線防護委員会) の考え方に依拠している。

自分も 3.11 まではそうだった。

しかし原発事故後の国や専門機関の対応のいい加減さに強い憤りを覚え、

改めて調べ直し、その欺瞞性を訴え始めた。

-と、北海道がんセンター院長の西尾正道さんは振り返る。

 

ゆえに、政府や政治家は言うに及ばず、

(原子力推進を前提とした) ICRP の判断を鵜呑みにしている専門家への怒りも

強くなってしまったのかもしれない。

西尾さんの舌鋒は、いつ終わるのかと不安になるほど熱の入った全面展開で、

20分ほどオーバーしてようやく終了した。

主催者としては、嬉しくもハラハラといったところ。

 

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ICRP が採用する 「しきい値なし直線(LNT) 仮説」 に基づいて、

政府は 「(実効線量で) 100mSv 以下での発ガンリスクはない」 という。

 ( ICRPの本来の解釈は、「確率的影響には境(しきい値) がない」 であって、

  「リスクはない」 という意味ではない。)

しかし実は 100mSv 以下でもガン・リスクがが増加するデータはたくさんある、

と西尾さんは指摘し、いくつかのデータを示す。

チェルノブイリ後に出されてきている様々なデータも、

低線量長期被曝のリスクを示唆している。

しかし、それらに対して ICRPはなんら反論もせず、無視し続けている。。。

 

また現在の判断基準や規制値のいい加減さに対しても、西尾さんの批判は厳しい。

事故後設定された一般公衆の被ばく限度線量(20mSv) が、

放射線業務従事者が働く管理区域基準の 3.8倍に当たるという矛盾。

あるいはチェルノブイリより4倍も高い避難基準。

 (チェルノブイリでは1~5mSvで移住する権利を保証=助成する制度になっている。)

 

聞きながらつくづく思う。

この国は、国民の健康を守ることよりも何かを優先している。

それを感じ取った人々の怒りが渦巻いている。

この怒りは、時が経てば収まるものではないだろう。

手当てが遅れれれば遅れるほど、ツケは利子のように積み重ねられてゆく。

 

「科学的に証明されてない (エビデンスがない) から安全である」

というのは、科学的立場ではない。

科学と生命倫理をつなげるのは、やはり予防原則的な考え方になるのではないか。

食品の安全基準についても、西尾さんの見解は

「 " できるだけ低く "  としか言いようがないですね」 であった。

まさに大地を守る会が追求している姿勢である。 

 

後半の質疑応答では、

切り詰められた時間のなかで、できるだけ最大公約数的な疑問解消に努めたけど、

質問用紙の多さに正直たじろいだ。

自己採点は63点、といったところか。

 

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6回の講座を経て、まだまだ消費者の不安は解消できていない。

難しいのは、放射線によって健康への影響が発現するには時間がかかることと、

それによって因果関係が証明不能になっていくことだ。

例えば、60年代生まれの方から、ご自身の病気や周囲にガンが増えていることについて、

「核実験の影響ではないか」 という質問が寄せられたが、

西尾先生の答えは、

「影響はあるかもしれないが、それが理由だとは言えない」 である。

60年代といえば、各地で 「公害」 問題が顕在化した時代であり、

農業では  " 近代化 "  という美名のもとで農薬が多投入されていく時代であり、

この頃から食品添加物の使用量も一気に増えてゆく。

イニシエーター(発がん因子) は放射線だけではないことを忘れてはいけない、

と西尾さんは強調された。

『複合汚染』 とストレスが増大する時代にあって、

病気の原因を突きとめることは不可能に近い。 というか、一つではないだろうし、

しかも複雑に絡み合って進んでいる、と考えておいた方がよいように思う。

 

6回シリーズを終えて得た一つの答え。

 - 僕らに求められているのは総合的な対策である。

まとめでは、次の展開をお約束するしかなかった。

 

質疑応答の最後に投げた質問。

「希望はどこにあるのでしょう?」

西尾先生の答え - 「希望は、、、ないね。」

 

ここで西尾さんは政治への絶望を語ったのだが、

それで僕らも一緒に絶望するわけにはいかないのであって、

であるなら、" 希望 "  は、自分たちの手で創り出さなければならない。

 

放射能というとても厄介なものと向かい合わなければならない時代。

この困難を乗り切るために、全力を尽くしたい。

乗り切るとは、子どもたちに、様々なツケではなく、胸を張って渡せる社会を築くことだ。

第5回の肥田舜太郎氏の言葉を借りて、とりあえず締めたい。

" 自分の命を大切にして、それぞれの人生を生き抜きましょう "

 

必ず、次のステージをお約束します。

 

講演後、「飛行機の時間までまだ少しあるから」 と、

西尾さんは会場玄関の一角で参加者からの質問に気さくに対応いただいた。

重ねて感謝申し上げたい。 

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<追記>

西尾正道氏が関わっている 「市民のためのがん治療の会」、

および 「市民と科学者の内部被曝問題研究会」 の活動については、

ホームページをご参照ください。

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