2012年10月18日

御食国(みけつくに) 若狭・おばま を訪ねる

 

先週の久慈市山形町に続いて、今週は福井県小浜市を視察。

 

16日(火)、幕張から東京-米原-敦賀-小浜と、電車を乗り継ぐこと約5時間。

福井県の南西部、日本海側で唯一といわれるリアス式海岸が連なる若狭湾。

その真ん中に、小さな半島に挟まれた形で小浜湾がある。

暖流と寒流が交差する良好な魚場を有し、

奈良・飛鳥の時代より海産物や塩を朝廷に献上した

「御食国 (みけつくに : みけつ=天皇の食材)」 を謳う町。

背後には天然ブナ林が広がって、名水百選にも選ばれた水のきれいな町。

「地域食文化活用マニュアル検討会」 で、

藻谷浩介委員(日本総合研究所・主席研究員) が、

「 原発銀座といわれる若狭のど真ん中で、

 原発経済に依存せず、食と環境を守ろうとする姿勢に敬意を表したい」

とエールを送った町。

たしかに地図で見れば、右は敦賀に美浜、左は大飯、長浜である。

 

そんな町で、2000年、当時の市長が音頭を取って、

「御食国」 の伝統と文化を柱にした 「食によるまちづくり」 が宣言された。

01年、全国初となる 「食のまちづくり条例」 が制定され、

翌年には 「食のまちづくり課」 が設置される。

市内12の地区ごとに市民主体の 「いきいきまちづくり委員会」 が立ちあがり、

そこから上がってきた提案がなんと 900!

04年には、その市民提案をもとに

「小浜市食のまちづくり基本計画」 が策定されるとともに、

「食育文化都市宣言」 が採択された。

 

03年、食のまちづくり活動の拠点施設として建設された

「御食国若狭おばま食文化館」。 

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市の本気度がうかがわれる。

 

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小浜市は、塗り箸の一大産地でもある。

国産塗り箸に占める若狭塗り箸のシェアは、約9割を誇る。

 

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小浜を見ずして箸を語るなかれ、と言わんばかりに迫ってくる。

 

こんな展示もある。

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館内に設えられた 「キッチンスタジオ」。

今日は幼児の料理教室 「キッズ・キッチン」 が開かれたとのこと。

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公費負担で、市内すべての保育園、幼稚園の年長児を対象に開かれる。

幼児たちにちゃんと包丁を持たせる料理教室。

しかも竈(かまど) でご飯を炊くというこだわり。

親は見守るだけで口出ししてはいけない、というルール。

食材に興味を持たせるよう様々な仕掛けが工夫され、楽しみながら

食に対する積極性を引き出させる。

「キッズ・キッチン」 は料理の手順についての指導だけでなく、

食文化、マナー、協力し合うこと、約束を守ること、他人を思いやることなど、

いわゆる躾(しつけ) まで学べる機会として、

市外からも参加希望があとを絶たないという。

 

先生は、地元の若いお母さんたちで結成された

「食育サポーター」 の面々。

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子育て真っ最中のお母さんたちが、トレーニングされるだけでなく、

食文化の指導者として継承されていく。

 

さらにここのスゴイところは、「生涯食育」 と銘打って

ベビーから高齢者までプログラムが用意されていることだ。

都会に出て一人暮らしを始める高校生や大学生を対象にした 「新生活応援隊」。

団塊世代の男性料理教室 「男子厨房」。

さらに高齢者のための 「健康に食べよう会」。

これらがここキッチンスタジオで展開されている。

もちろん小中学校での農林漁業体験や生産者による出前講座なども意欲的である。

 

そして 「校区内型」 地場産学校給食の実践がある。

市町村単位ではない、市内15の小中学校すべてで、

学校区内の生産物が採り入れられている。 地元で水揚げされた海産物も含めて。

 

給食の時間には、校内放送で生産者の名前が紹介される。

生産者の畑には、生徒たちが描いた 「似顔絵看板」 が立てられている。

生産者の方々を学校に招待する 「給食感謝祭」 が開かれる。。。

生産者はもう、食の安全や環境まで気を配らざるを得なくなる

まだ少ないが、「有機」 の増加に向かっての目標も掲げられている。

2009年からは、小浜市産の米による完全米飯給食が実施されている。

食べ残しは格段に減り、生徒の欠席率も減少し、学力テストも伸びている

(全国レベルでみても高い水準) との報告である。

 

他にも、食生活改善推進員の有志で結成された 「グループマーメイド」 の活動、

福井県立大学との連携 (共同研究や学生たちの出張授業など)、

「食の達人」 「食の語り部」 認定事業、若狭おばま認証制度、

京都・橘大学による外部評価制度などなど、

食のまちづくりに向けた取り組みは枚挙にいとまがない。

 

これら一連の取り組みを下支えし、発信するのが

「食のまちづくり課」 政策専門員の中田典子さん。

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食の総合政策を掲げた自治体で、民間から招聘された立場として、

その思想の具現化と市民への浸透、さらには一次産業での実績づくりと、

まだまだ課題も多いと言いながら、凛とした獅子奮迅ぶりである。

 

調査に同行された

日本人のたたかう体をつくる」 予防医療コンサルタント・細川モモ委員といい、

この国は女がつくったほうがいいのではないか、という気にさせられる。

 

「京は遠ても18里」

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小浜と言えば、鯖 (サバ) である。

塩を振って京に運ぶ。 着いたころに塩が馴染んでちょうど良くなる。

運ばれた道は 「鯖街道」 と呼ばれた。

 

いろんなサバ料理が楽しめる若狭おばま。

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(「福喜」 という古くからある宿で頂いた〆鯖)

 

しかし今やそのサバも、ノルウェー産に頼らざるを得なくなってしまった。

その現状は、放射能連続講座第4回 で、勝川俊雄さんが解説した通りである。

 

浜まで足を伸ばしてみる。

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写真正面から右に向かって薄く見えるのが、おおい町の大島半島。

その突端 (右端、手前の半島の向こう) に、

いま日本で唯一稼働しているゲンパツが立っているはずだ。 

 

「食育」 の元祖、福井出身の食養家・石塚左玄が説いた

「身土不二」 の精神を条例に掲げる小浜市の、食にかけた町づくりに、

災いが降りかからないことを祈る。

いや、その場合は小浜だけの話ではない。

御食(みけつ) の帝都も例外なく汚染される、ということだ。

 

小浜のトンビは漁師を怖れず、低空を飛んでいるのだった。 

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帰りがけに お土産に買ったのは

サバの糠漬け 「へしこ」 と、すみません、オバマまんじゅう。

まったく外国の首長にまであやかって商魂逞しい、と思いつつ、

絵が笑えたのと、次に来た時にはなくなってるかもしれないと、つい・・・

 



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