2009年6月12日

コモンズ -小さな出版社に伝統の賞

 

コモンズ」という名の出版社がある。

1996年創業で、12年間に発行した書籍は150点というから、

まだ若い小さな出版社である。

代表は大江正章さん。

コモンズを設立する前には 「学陽書房」 という出版社に勤めていて、

15年くらい前だったか、大地を守る会の歴史と活動をまとめた

『 いのちと暮らしを守る株式会社 』 を出版していただいた。

それ以来のお付き合いである。

コモンズの本は当会でも何点か販売してきたので、馴染みの方も多いかと思う。

 

そのコモンズが、「第24回梓会出版文化賞」 の特別賞を受賞した。

といっても出版業界に縁のない方には、ほとんど知られてないのではないかと推察する。

梓会は専門書系の出版社100数社で運営されている社団法人で、

「出版ダイジェスト」 という情報紙を発行している。

今でも気の利いた本屋さんでは無料で配布しているんじゃないかな (-ちょっと自信ない)。

その梓会が、文化的に価値のある出版活動を行なっている出版社を表彰するのが

「梓会出版文化賞」 というわけ。

作家や作品を表彰する賞はいくつもあるが、これは日本で唯一、出版社を表彰するものである。

綱渡り的な経営で生き延びている中小出版社にとって、この受賞は誉れなのだ。

 

ということで、昨日の夜、関係者が集まって、ささやかな祝賀会が開かれた。

秋葉原の居酒屋で、というのが、この人たちの日頃の生態を表しているように思う。

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参加者の多くは同業者たちだが、著者や市民運動関係者の顔もある。

環境・食・農・アジア・自治、をテーマに、腰をすえて一点一点大切に本を出してきた

大江さんの姿勢を尊敬する人たちだ。 

みんなで大江さんを称える。

同種の出版活動を行なっている人たちにとっても嬉しいことであり、

かつ相当な励みになったようだ。

 

大江正章。

編集者でありながら、古くから有機農業運動に関わり、

自らも茨城県八郷町で田んぼを耕している。

昨年自ら著した岩波新書の 『地域の力』 がけっこう売れていて、

講演依頼も増えていると聞く。

照れ屋のくせに、喋りだすと意外と饒舌で、熱い男である。

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彼と僕とは同世代で、学部は違うが同じ大学出身で、

何と、かなりご近所に下宿していたことが、昨日飲んでいて初めて判明した。

西早稲田の、神田川にかかる面影橋の近くの、あの銭湯、あの質屋・・・・・

分かる、分かる、エビちゃんがいた下宿屋、ほぼ分かる。

あの運動、あの集会・・・・・え? エビちゃんは〇〇派だったの?

いや、周りはそう思っていたようだけど、俺はただ学生の自治を守ろうとしただけだ。

そんな話で盛り上がる。

すみません、ワタクシ事でした。

 

大江さんが皆さんに僕を紹介してくれる。

「この人が、かつて 『大地を守る出版社の会』 をつくったエビちゃんです。」

すっかり忘れていた。 そうだ、そんな会をつくったことがあった。

大地も伸び盛りになって、いろんな出版社の営業を受けるようになって、

僕はただ良書を紹介して売る、というのが面白くなくて、

あるとき、出版社の方々に集まってもらって、

" 同じ思いを持った出版社であることを表現したい "  という提案をしたのだった。

今はもう取引先の数はそれどころではなく、時代も変わったけど、

「大地を守る出版社の会」 が、大江さんにとっての戎谷であることに、

僕は絶句し、静かに反省した。

 

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大江さんにエールを送っているのは、『大地を守る手帖』 を出していただいた、

築地書館の土井二郎さん。 一昨年の宇根豊さんの集まりで会って以来か。

「手帳ではお世話になりました。 けっこう (制作上) 厄介な注文だったんじゃないですか」

「いや、それはプロですから。 それに苦労したのは印刷・製本屋さんですから。

 それより、あの手帳で使った写真。 何点か大胆なのがあって気になりましたけど、

 会員さんからハレーションは起きなかったですか?」

さすが編集者である。

「ありましたよ。 違和感を感じた方からは強い拒絶反応を頂きました。

 ただあの手帳のコンセプトに統一感を持たせる以上、我々の既成感覚では手を入れない、

 ということに担当は徹したようです。 僕らの感覚であれやこれやと切り刻むと、

 本来の狙いも成果の検証も不透明になってしまうことが過去には随分とあってね。

 これも挑戦だと思ってます。 不愉快な思いをさせてしまった方には申し訳ないですが。」

隣で聞いていた女性のライターの方が、そこらへんは本当に難しいところですね、

と相槌を売ってくれて、ちょっと救われる。

 

あ、また脱線してしまった。

脱線ついでに言うと、僕は大地を守る会に就職する前は、

実はこの業界、しかも同じようにこだわりだけは強い弱小出版社にいたもんで、

いろんな人と懐かしい昔話などもできたのだった。

 

業界内では 「本が売れない」 というのが挨拶代わりなんだそうだ。

しかしそんな話は、僕がいた時からあった。

実際には、膨大な量の新刊本が発行されて、あっという間に消えてゆく様を見ていると、

「売れない本」 を作りすぎる、というほうが真実だろう。

そこには出版流通業界の危険な商慣習に依存する体質も見え隠れしている。

その洪水の中で、本当に読みたい本は駅前の本屋さんにはなかったりする。

その辺が課題だと、僕がいた頃も言われていた。

四半世紀経っても、何だかあまり変わってないようだ。

いや、それでもこいつら生き延びているんだからスゴイ、とも言える。

 

ここに来た人たちのつくった本が続々と売れていくような現象が生まれたら、

それはそれで怖い社会のような気もするしね。

だから大江さん、および志を同じくする皆さん。

貧しく、粘り強く、信念に従って、頑張ってください。

引き続き (できる範囲で) 応援しますので。

貧しい仲間同士で意地を張って生きていくのは、楽しい。 また飲みましょう。

 



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