2010年9月15日

ミツバチと農業 (続)

 

さて、話を急がなければ。

続いての講師は、岩手県盛岡市、藤原養蜂場場長・藤原誠太さん。

「日本在来みつばちの会」 会長として、ニホンミツバチの普及にも努めている。

藤原さんはネオニコ系農薬を批判する急先鋒の養蜂家として、

今やあちこちに講演に招かれるほどの有名人になっている。 

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05年、06年と岩手県内でのミツバチ被害を目の当たりにした藤原さんの主張は、

はっきりしている。

「ネオニコ系農薬が生れてからおかしくなってきた」 という現場での実感が彼にはあるのだ。

大量死の事例は過去にもあったが、8月になって発生することはなかった、と。

しかも、大量死とCCDは、死体が目の前に見えるか見えないかの違いはあっても、

両者はつながっている可能性があると、彼は読んでいる。

合成農薬がだいたい神経伝達物質を標的にするものである以上、その可能性は否定できない。

まさに 「事件は現場で起きているのだ」 派である。

 


藤原さんが真っ先に槍玉に挙げるのは、ダントツという殺虫剤 (成分はクロチアニジン)。

近年になって、イネのカメムシ防除で、有機リン系農薬(スミチオンなど) に替わって

よく使われるようになった。

岩手と同様の事故は、北海道や中部地方など各地で発生の報告がある。

 

岩手や北海道の 「大量死」 の原因は農薬であろう、

ということは中村教授も認めるところである。

しかも、ミツバチが直接浴びるだけでなく、花粉と一緒に運ばれ巣内で蓄積されると、

外役蜂(年寄りのハチ) だけでなく若いハチにも影響がでて、

蜂群の崩壊が進む可能性がある、というところまで、両者は一致している。

 

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生産者は現場感覚で断言し、学者は慎重に 「可能性がある(あるいは高い)」 と表現する。

立場の違いによる表現の差異は、聞く側のセンスで読み解けばいい。

しかしこれが、「ネオニコ」 とすべてをひと括りで語ったり、CCDの原因だ

と断定されるにいたると、学者は眉をひそめることになる。

原因 (犯人) を単純化してしまうと、

かえって真実が見えなくなる (対策を誤る、あるいは遅れる) ことも怖れる。

これは僕もその立場であることを表明しておきたい。

悪事をはたらいた会社の社員全員を悪人扱いするのは、アブナイ社会のすることだ。

それに農薬の影響でミツバチが大量死した事例は、

ネオニコチノイド系農薬が登場する前から実はあったのだから。

 

さて第二部。 ここからが大地を守る会ならではの展開だといえるだろうか。

実際に農薬を使用している農家にも登場してもらっての意見交換の設定、である。

これによってまたひとつ、違った現場の世界が見えてくる。

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まず今回、一研究者の立場として参加してくれた根本久さん。

(下写真左。 公的肩書きは伏せる。 こういう人が来てくれるのが嬉しい。) 

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根本さんの説明と主張はこんなだろうか。

- ネオニコといっても、ダントツとスタークル(成分:ジノテフラン) では影響は違ってくる。 

  また、かつての有機リン系に戻せばよいワケではない。

  防除せざるを得ない現実があるのならば、選択にあたって正確な情報提供が必要だ。

- なぜミツバチが花蜜のない水田に立ち寄るのか。 水を求めてきていると思われるが、

  花粉を求めてきているとすれば、その時期に周囲に花粉源が減少していることも

  考えなければならない。

- ハチへの影響があるものは、サイズの小さい天敵昆虫にはもっと強い影響を与えている。

  また米国では乳幼児へのリスクがあるということで、有機リン系の全面禁止に動いている。

  事はハチとネオニコだけではない。

  農薬の影響評価の全面的なやり直しが必要な時期にきている。

 

根本さんの隣は、長野の農事組合法人増野・熊谷宗明さん。

リンゴや洋ナシを栽培する熊谷さんには少々居心地の悪い場だろうけど、

率直に発言してもらう。

「リンゴの減農薬栽培をやる上で、ネオニコ系農薬は防除計画に入っているし、

 実際に使っています。 急性毒性が弱いという部分もあります。

 有機リン系の農薬を使っていたときは臭いがきつくてつらかったですが、

 ネオニコに替わって楽になったのは事実です。

 ハチへの影響も考慮して、開花期には防除しないという申し合わせもしながら

 やってるんですけど・・・ 」

 

移動養蜂でハチミツを生産する (株)フラワーハネー代表の西尾清克さん。

北海道で採蜜中という忙しいなか、参加してくれた。

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1月の三重から始まって岐阜、北海道と、ミツバチと一緒に移動しながら蜜を集めている。

今年の北海道は集中豪雨が多く、まったく採れない状態だという。

雨の影響は野菜だけじゃないということか。

農薬散布期になると急いで山に上げるといった苦労も聞かされる。

交配用ミツバチも農家とリース契約で出したりしているが、

農家から帰ってきたミツバチは弱っていて使えないのだとか。

農家がミツバチの扱い方を知る必要がある、というのは、

生産収益率を上げる意味でも、また輸入依存率を下げていく意味でも、

けっこう重要なポイントである。

 

山形から来ていただいた、おきたま興農舎代表・小林亮さん。 

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長いこと無農薬でコメを作ってきたが、カメムシで苦労したことはそんなにない。

コツは、チッソ濃度を上げないこと、そして畦の雑草管理にある。

カメムシの棲み家にならないよう草刈りをするが、穂が出た後は逆に刈らずにおく。

カメムシは決して稲が好きなわけではない。

畦に留まらせて、稲を吸いに侵入しなくてもよい環境にするのである。

 

それを受けて根本さんが補足する。

カメムシが水田に集まらないよう、河川敷の草も刈らないようにしているところがある。

棲み家を残してやるのだ。

キレイにすることだけを考えていると、水田に皆集まってくる。

結局農薬に頼らざるを得なくなる。

イネの花が咲く時期に、周囲にもっと花蜜源があるようにすることも大切である。

農薬に頼らない生産方法の普及と、ミツバチに影響を与えない環境整備、

それらが総合的にリンクした施策が求められる。

 

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農家と養蜂家が農薬をめぐって対立するのでなく、

共存に向けての処方箋と環境づくりを進めなければならない。

それは可能である。 共同のテーブルさえできれば-。

始まる前は、正直ヒヤヒヤしていたのだが、何のことはない、

みんな前向きである。

 

多少、伝え残したところがあるか。

あと一回いただいて、まとめとしたい。

 


Comment:

from "通りすがり・・・" at 2011年2月24日 14:20

通りすがり…様

なんとも言葉がありません。いま担当部署にて調査中なので、私からご説明できる段階になく、申しわけありません。
我々なりにできるだけの確認体制をとってきたつもりでしたが、とても「残念」ではすまない、自らへの悔しさと、消費者の方々に申し訳ないという思いでいっぱいです。
この信頼回復は厳しい道のりになるでしょうが、誠意を持って進めるしかありません。
コメント、有り難うございました。

from "戎谷徹也" at 2011年2月25日 22:11

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